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2022年出向の旅───信用金庫と女性起業家支援

谷川大樹 (大阪信用金庫 だいしん総合研究所 )  Vol.809

2023年3月。ステージの上では、今日ビジネスピッチを披露した10人の女性起業家が一列に並び、500人を超えるオーディエンスからの拍手喝采を受けている。グランフロント大阪地下のコンベンションホール。その後方の薄暗がりから私は、すみれ色の照明に照らされる壇上をぼんやりと眺めていた。

投票システムは無事に動作した。WEB配信は、映像音声ともに途切れることなく稼働している。私が設置した装飾用バナーは少々シワが寄っているが、まあ及第点だろう。前日終電近くまでかけて準備した甲斐あって、第9回ビジネスプラン発表会LED関西は成功裡に終えることができそうだ。

今日はこの建物からほとんど出ていないはずなのに、歩数計アプリの数値は既に2万歩を超えていた。足元に目線を落とすと、くたびれたスニーカーが見える。8ヶ月前までは信用金庫の営業マンとしてスーツと革靴を身に纏い、スーパーカブを駆って取引先に頭を下げて回っていたはずの私が、なぜこんな場違いなところにいるのだろう。

かつての営業エリアからは直線距離でおよそ8km、新快速に乗れば5分ほどで移動できるはずだが、文化的距離は少なくとも4光年は隔たっているように思えた。これは太陽系外のもっとも近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」と地球とを結ぶ距離に相当する。

それもすべては、「外部機関への出向」という金融機関においては稀にある特殊な人事異動によるものだ。コロナ禍の中で世界が少しずつ日常を取り戻しつつあった2022年の夏。当時の人事部長からの1本の内線電話をきっかけに私は、クソデカい集金カバンと町工場の旋盤が鈍色の光を放つ地域金融機関の世界から、ピッチ会場のスポットライトとMacBookの液晶が照らす煌びやかな光の下へ送り込まれることとなった。

 

申し遅れました。今回はじめてコラムを書かせていただきます、大阪信用金庫だいしん総合研究所の谷川と申します。入庫からの6年間は営業店にて勤務。2022年から2024年までは公益財団法人大阪産業局に出向し、ビジネスプラン発表会「LED関西」を中心とした女性起業家応援プロジェクトなどの創業支援事業に関わらせていただきました。現在は大阪信用金庫に帰任し、本部組織であるだいしん総合研究所で中小企業向けソリューション業務に従事しています。

大学を卒業してから信用金庫一筋だった私にとって、起業家、特に「女性起業家支援」の現場は戸惑いの連続でした。なにしろ私がこれまで対峙してきたのはその殆どが地元のおっちゃん社長であり、私自身カタカナビジネス用語はひとつも分からないし、PowerPointとは小学校のパソコン室以来ご無沙汰だったのです。そして何より、まだビジネスとしての実績ができる前の段階の事業者をご支援した経験が私には殆どありませんでした。

信金の営業担当としてお会いする取引先企業様には、既に商品やサービスがあり、従業員がいて、積み重ねてきた歴史がありました。決算書を開けば少なくとも、その会社がこれまでどのように歩んできたのかを読み取ることができます。私にとって、企業を知るための入口は、いつも数字でした。

一方で立ち上げ前後のスタートアップには、過去3年分の財務資料など存在するはずもありません。目の前にあるのは、「この人はなぜこの事業がやりたいのか?」「この人には何ができるのか?」という根っこの部分だけです。そこに寄り添わなければ、支援の糸口さえ掴むことができないのです。

営業マン時代、上司からたびたび「もっとお客さんに関心を持てよ」と叱られていたことが思い出されます。当時の私からすれば、顧客の財務資料には何度も目を通していたし直近3期のキャッシュフロー推移も頭に入っている、これ以上何に関心を持つのか?という思いでしたが、今では上司の言葉の意味が私にも理解できます。

その他にも、起業家支援の世界で私は多くを学ぶことができました。

「日本語で言えばええやん」と思っていたカタカナビジネス用語にも、その語でしか拾い上げられない微妙なニュアンスがあること。

デザインやブランディングが小規模事業者にとって強力な武器となるということ。

これまでに無かったものを生み出し、世の中をより良くしようとしている人達が大阪にも数多くいること。

そして同時に、これまで私が接してきた地元中小企業が持つ技術や歴史、地域との繋がりもまた、スタートアップにとっては得難い財産であることにも気付くことができました。

遠く離れた違う星のようにも思える両者ですが相互補完することによって、どちらか一方だけではできなかったようなことも実現できるような気がするのです。半分妄想のようなアイデアに町工場の技術がカタチを与えるように。忘れられかけたビジネスにスタートアップの視点が新しい物語を授けるように。

プロキシマ・ケンタウリから放たれた光は4年余りの時間をかけて暗闇を超え、地球に届きます。私があの日感じた「文化的距離4光年」も、決して超えられない距離ではないのでしょう。

スタートアップが未来を照らす煌びやかな光と、地元中小企業が力強く放つ鈍色の光。2年間の出向期間を終えて信用金庫に帰任した今の私はこれから、この2つの光を繋ぎ合わせ、ここ関西から新たなイノベーションを生み出すその一助となるような仕事がしたいと考えています。

その際はぜひ、お力をお貸しください。またどこかのKNSで乾杯しましょう。

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