Members Column メンバーズコラム
地球環境の研究所に飛び込ん だ民間チームが、知の密林で 大迷子になりながらも「遊び 心」を探すことになったお話
西川将文 (合同会社mano) Vol.806
1. 完全民間のチームで、お作法がわからぬまま地球研へ
KNSメンバーの皆さん、こんにちは。manoの西川です。今回は私が現在進行形で直面している、少々場当たり的な奮闘記をお届けしたいと思います。
事の始まりは、昨年の冬。私が関わっている、街で大量に廃棄されるビニール傘をファッショナブルに再生するプロジェクトのoctangleを通じて、京都にある地球環境を専門に研究する国の研究所の、総合地球環境学研究所、通称・地球研さんと接点ができました。地球研さんが、たまたま超学際研究を公募されていて、今年度は「研究者だけでなく、民間企業や市民にも広く門戸を開くユニークな研究プログラム」を始めるとリリースされているのに気づきました。
ふと、octangleの取り組みで応募してみたら面白いんちゃうかな?と思い立ちまして、伝統的な和紙を扱う卸のメンバーや、いつも協創プロジェクトで助けてくれる大学生も巻き込んで、新しい循環型の素材を考えるテーマで手を挙げてみました。
風変わりなチームで参加したのに、採択してくれた懐深い地球研。喜び勇んで知の牙城へ突入したものの、全員が完全な民間企業の人間達では、研究機関さんが日頃から大切にされている「学問のお作法」が全く分かりませんで。KNSメンバーの皆さんには沢山の研究者や関係の皆さんがおられるのを十分承知で、最近のドタバタ劇と個人的な興味深い気づきを、少しばかり共有させていただこうと思います。
2. スピード感と因果関係ってどないして繋ぐん?
日頃ビジネスの現場で「早く試作を作って、早く市場へ届ける」流れの中で、スピード感とか目に見えるアウトプットを求められて、その体制や資金の融通にすったもんだしている日常と同じように、今回の超学際研究でも「傘のゴミを減らして、和紙の新しい可能性を広げて、バイオで接着すれば、環境に優しくて面白いものがサクッとできるはず」と、いささか直線的に考えておりました。
ところが、お世話になっている担当の先生との最初の対話で、私たちのこうした「民間脳」は心地よく解きほぐされることになります。私たちのプレゼンを静かに聞いてくださった先生は、穏やかな、しかし全てを見透かすような眼差しで、このように仰いました。
「西川さん、そのアプローチは、目先の問題だけを叩く『モグラ叩き』の構造になっていませんか?」
なるほど、モグラ叩き、でございますか。
「地球環境のシステムにおいて、人間と自然の関わり方は一方通行でも双方向でもありません。その先にも因果関係がぐるりと繋がっている『大きな環』を持っています 。直近のゴミを再利用して、計算上の数字をちょっと減らしたところで、なぜ現代社会がこれほどモノを使い捨てるのかという、人とモノの関係性の大元を変えなければ、また別の場所に新たな問題という名のモグラがひょっこり出てくるのですよ。『今は最善と思っても、将来は最善ではないかもしれない』という時間軸まで見据えて、因果関係の繋がりをどこまで深く遡れるか、考えなあきませんね」
チーム一同、ぐうの音も出ません。私たちは、目先の「ゴミを減らす」という結果だけに囚われて、その背景にある社会の仕組みや、人間とモノの関係性というシステム全体を見る視点が浅く浅く。できることや目に見えないところに想いをはせることをサボっていた気がします。日頃よく使われるサステナビリティという言葉が、ともすれば現状維持の言い換えに聞こえてしまっていたところもあり、もう一歩踏み込んで行かなあかんのやなぁと、気付かされました。
3. 「長い美味しさ」とか「見えない美しさ」って日本独自の商売哲学?
さらに先生と話すなかで、私たちが扱おうとしている「和紙」とか日本の伝統知や 、商人の歴史に脈々と受け継がれてきた精神性にまで、思考の針が戻っていきます。「海外から入ってきた環境のものさしも大切ですが、日本の中小企業や職人は、一時的な強い刺激を求める『強い美味しさ』ではなく、何代にもわたって愛され続けるような、持続的な『長い美味しさ』を追求してきた歴史があります。
あるいは、光をあえて遮ることで生まれる影の情緒や、着物の内側に施された隠れた刺繍のように、『見えない美しさ』に価値を見出してきた文化がある。そうした日本独自の精神性にまで立ち返って、人とモノの間にポジティブな価値を生み出す『関係の価値』をもう一度デザインし直すこと。それこそが、皆さんの仰る『遊び心』の本質ではないですか?」
「素材をいかに親しみやすく身近なものに見立てる方向での遊び心」にばかり気を取られていた私たちは、この深掘りの対話を経て、お作法は全く分からずとも、言葉にできないほど刺激的で楽しい経験をさせてもらってきました。
4. 他の専門家たちからの助言、そしてうっすらと閃き
その後、他のプロジェクトの皆さんも一堂に会して大きなワークショップに参加する機会をいただきました。そこでは研究の最前線にいる方々から、民間感覚を揺さぶる非常に誠実なツッコミの一斉射撃をいただくことになります。長くなるので割愛しますが、一例を挙げると
● 日本の中小企業で環境データを自社で持っているところはほぼ皆無
● 世界標準のデータベースにも日本の伝統的なデータが無いのだから、自分たちで泥臭く一次データを実測する必要がある
● 環境負荷がどの段階に由来するものか、代替素材への切り替えを行う前後の指標を精査してグリーンウォッシュを防いでほしい
● 素材の美点だけを際立たせるのではなく客観的で誠実な前提ルールを組んでいこう
などなど、他にも建設的な助言の集中豪雨。ドタバタと頭を抱える私たちでしたが、この手厳しい
データを突きつけられた時に、ふと頭をよぎったんです。
「何かの素材ひとつをとっても、全国や世界に何百もの産地があり、それぞれ原料も水質も特性も全く違います。それを単一のグローバルな基準で『この素材は環境に良い』と一括りに点数化してしまうと、それぞれの地域が持つオリジナリティが薄れてしまうんちゃうか? むしろ、各地域の特徴や、時
には弱みも含めて可視化し、フラットにその個性を並べられるような、ゲーミフィケーション(たとえばトレーディングカードのような見立て)に観点を移したら面白いんじゃないか?」って。
単一のものさしで100点か80点かを決めて優劣を競うのではなく、それぞれの個性を面白がり、人間とモノの間に新しい関係性を結び直す。スピード感ももちろん大事だけど、こういう緩やかさもきっと大事なんやな、と非常に興味深い議論を深めていくことができました。
5. おわりに:秋の報告会へ向けて、これからもすったもんだを楽しみます
こうして、私たちは地球研という知の密林の中で、当初のこじまりとした枠組みを大きく広げて「何分かっていて、どこがデータとして空白なのか」を丁寧に仕分けし、次のステップへと繋ぐための「共創のロードマップ」を民間チームならではの仕掛けとともに形にしたいなぁと考えています。
現在も、次の事業報告に向けて、メンバー一同でああでもない、こうでもないと、実にすったもんだの現在進行形で取り組んでおります。民間企業の突飛な発想を、頭ごなしに否定することなく、「それも面白いね」と温かい眼差しで見守り、時に大きな視点を示してくださる先生方の存在に、私たちはとても支えられ、前向きに走ることができています。ほんと。
今年の秋には、これまでの成果と、私たちの生々しい葛藤の結晶、そして民間ならではの少しの遊び心を発表する報告会が、京都市内で開催される予定です。私たちのこの「知的な大迷子」にさらなる茶々入れが入って、これからのものづくりと商売の未来について、緩やかなお話しにつながることを楽しみにしています。
