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11期迎えた華人経営塾

斎藤治 (読売新聞大阪本社 記事審査部)  Vol.212

斎藤治

 初めての投稿となる。KNSを知ったのはメビック扇町が水道局庁舎に設けられ、代表世話人の堂野さんを取材したことがきっかけだった。広がるネットワークと結束の強さに、いつも圧倒されている。
プライベートに関係している華人経営塾「チャイニーズ・マネジメント&マーケティング・スクール」が、4月に第11期をスタートさせた。私が理事を務めている関西日本香港協会が主体となって2003年6月に開講した日本初の「華人経営塾」だ。10か月かけて理論編と実践編の30講座を通じ、中国大陸だけでなく世界に広がるチャイニーズの経営管理行動様式を学び、ビジネスに活かして行こうというのが狙いだ。大阪大の湯浅邦弘教授の「孫子兵法」、関西大学長だった河田悌一・日本私立学校振興・共済事業団理事長の「論語」のほか、園田茂人・東大教授の「中国人の心理と行動」、中国共産党政権の課題とアカデミックな講義が並んでいる。

 「古典」「中国社会」だけでなく、本来のビジネスに直結する野村資本市場研究所シニアフェローの関志雄氏、HSBC答申しの松田宇充社長の「香港・中国金融市場」分析と興味深い講義が多い。中国ビジネスの現役の経営幹部や華人財閥のトップに直々に生の経済、経営について語ってもらうなどてんこ盛りの内容と自負している。
 なぜ、このような華人塾が必要だったのかと言えば、中国の社会や中国人のものの考え方、特に経営の意思決定を知らずに、中国ビジネスを行い、失敗しているケースが多かったからだ。「孫子の兵法」ではないが、「相手を知り己を知れば、百戦して危うからず」である。生きた情報を的確に把握するとともに、人脈や人間関係がビジネスだけでなく、社会を動かす重要なポイントになっている華人ネットワークを解明し、いかに利用して行くかを考えている。
 私はこの塾の運営に携わり、講師と受講生の議論が円滑に行えるまとめ役であるモデレーターを務めて来た。受講生は10期までで413人にのぼる。大手商社や繊維メーカーから中小企業、若手社員から経営幹部やトップ自ら受講している。弁護士や公認会計士、税理士など参加者は幅広い。受講生の中から新たなネットワークができ、毎月、卒業生を中心にした勉強会を開いているが、通算100回を超えた。KNSを見習って、講師の話を聞いた後は、会場にアルコールを持ち込んで、飲んで、騒いで、さらに議論している。
 大阪で始まったが、7、8期は東京に移り、2011年からはインターネットを利用して東京、大阪で同時開催している。さらに11期は中国、アジアに関心の高い九州・福岡市でも開講し、三極体制となり、50人近くが受講している。
 会社の仕事の傍ら、毎週、夜の講義を受講していくのは、考えただけでも大変だ。出張もあり家庭生活にもある程度影響する。それでも、やり通した感慨はひとしおだろう。難しい理論編の教えがビジネスでどう使われているのかを中国ビジネスの最前線で活躍している講師の話から再確認できるのだ。明らかに受講後、考え方も変化がみられる。中国などアジア各地で長年ビジネスをしてきた受講生でも、これまで自分が疑問に思っていた華人経営や華人の思考が、講義を通じて解明できたとの声はよく聞く。
 あえて華人経営としているのは、東アジアを中心に世界で活躍している華僑だけでなく、移り住んだ国に根をおろした華人、また、社会主義の中国においても共通の経営のやり方があるからだ。中国、東南アジアは世界の大市場だ。ここを舞台に活動していくには、華人経営を学ぶこと重要なことだ。中国は世界第2の経済大国だが、残念なことに尖閣諸島の領有権問題や歴史認識などをめぐり、日中関係は難しい局面にある。中国ビジネスにも悪影響を与えているが、この状態が長期間続いて行く訳はないだろう。困難な状況の中でも学ぶことをやめてはならないと思っている。

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