Members Column メンバーズコラム

「奥の奥」を照らし、「諸國客衆」の繁昌を祈る

村瀬幸一 (i-テクセンス合同会社)  Vol.796

「奥の奥」を照らし、「諸國客衆」の繁昌を祈る -令和の組織に、古くて新しい「商いの灯」を。

1. はじめに:組織と個人の「間(あいだ)」に立つ
2026年4月、私は兵庫県尼崎市を拠点に「i-テクセンス合同会社」という新たな組織を立ち上げました。 かつて大手ソリューション企業で15年間、営業や新規事業の現場に身を置き、その後は厚生労働省事業のセルフ・キャリアドック導入キャリアコンサルタントとして、50社を超える企業、そしてそこで働く方々の「働く人生」に伴走してきました。
現場で目にしてきたのは、組織の論理に疲弊する個人と、個人の本音が見えずに苦悩する経営者の姿です。私は、この「組織の技術(Tec)」と「個人の感性(Sense)」という、一見対立しがちな二つの要素を再び丁寧に織り上げる「織り手(Texens)」でありたいと考えています。

2. 「諸國客衆繁昌」―― 灯籠に刻まれた、忘れ去られた祈り
私が新会社の指針を模索していた時、尊敬する元春日大社権宮司・岡本彰夫先生の教えに触れました。先生の調査によれば、春日大社に並ぶ二千基もの石灯籠には、かつての日本人が持っていた気高い商いの精神が刻まれているといいます。
昭和50年代以前に奉納された灯籠の多くには、現代の私たちが使い慣れた「商売繁盛」ではなく、「諸國客衆繁昌(しょこくきゃくしゅうはんじょう)」という文字が刻まれていました。 「商売繁盛」は主語が自分であり、自らの利益を祈る言葉です。対して「諸國客衆繁昌」は、取引先や見知らぬ土地の客、ひいては世の中全体が栄えることを先に祈る言葉。かつての商人は、己の利益の前に、まず他者の繁栄を祈ることを商いの「品格」としていたのです。
これは近江商人の「三方良し」にも通じる、日本人が古来より大切にしてきた倫理観と言えるでしょう。i-テクセンスは、この「相手の繁栄を先に願う」という精神を、現代の人的資本経営の真ん中に据えたいと考えています。

3. 「上」を目指す競争から、「奥の奥」を深める探求へ
もう一つ、私が大切にしているのが、同じく岡本先生が説かれる「奥の奥」という言葉です。 現代社会は、より高い地位や年収へと、目に見える「上」ばかりを目指す教育を私たちに課してきました。しかし、高さを競うだけのキャリアは、時に人を孤独にし、組織をギスギスしたものに変えてしまいます。
本当に豊かな人生や強い組織とは、高さを競うのではなく、自らの内面にある深い井戸、すなわち「奥の奥」を掘り下げられる人々の集積によって作られるのではないでしょうか。 「自分は何のために働くのか」「何に心を震わせるのか」。 この問いの「奥の奥」にまで辿り着いた人間は、周囲に流されない強さを持ち、自律したプロフェッショナルとして、結果的に組織に大きな利益をもたらす存在へと変わります。

4. 縦糸と横糸を織り直す:Tec(技術)とSense(感性)
i-テクセンスでは、この「奥の奥」にある個人の願いを、組織の成果へとつなげるお手伝いをしています。
私たちが提供するのは、データ分析という「客観的な事実(Tec)」と、対話による「主観的な想い(Sense)」の統合です。 最新のテクノロジーは、組織の現状を冷徹に、しかし誠実に照らし出します。そこに、一人ひとりの感性を汲み取る深い対話を重ねることで、数字は「意味」を持ち始め、組織のビジョンと個人のキャリアが重なり合います。
それは、組織の目標という「縦糸」に、個人の価値観という「横糸」を交差させ、納得感のある一枚の布へと織り上げるプロセスです。 「従業員が幸せになれば、会社は必ず儲かる」。 この確信を、私はデータと対話という現代の道具を使って、中小企業の現場で証明していきたいのです。

5. むすびに:尼崎から、地域と産業の未来を灯す
尼崎という、ものづくりと人情が息づく街から、私たちは新しい風を吹かせたいと考えています。 会社と社員の関係性を強固なものとし、イキイキと働く人を増やすこと。それが結果として会社の社会における存在価値を高め、地域や産業全体の発展に寄与していくと信じています。
「上」ばかりを見て疲弊する社会から、「奥の奥」を深め、互いの繁昌を祈り合える社会へ。 かつての商人が灯籠に刻んだ「諸國客衆繁昌」の祈りを、私たちは2026年、i-テクセンスという新しい組織を通じて、現代の空に再び灯していきます。

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