Members Column メンバーズコラム

経験値を次世代へ:適々斎塾に学ぶ世代間交流の真髄

長川 勝勇 (R株式会社)  Vol.793

KNSの皆さん、ご無沙汰しております。R株式会社の長川勝勇です。

KNSのメンバーの皆さんは「顔の見える関係づくり」を大切に、産学官民の枠を超えた活動を続けていますが、その中で「この熱量をどう次世代に引き継ぐか」という課題に直面することはないでしょうか。

私は現在、小さな会社ではありますが、大阪を拠点にアーティストや起業家支援、専門学校でのアントレプレナー教育の講師など、多角的な活動を行っています。

その柱の一つとして5年前(2021年)から継続しているプロジェクトがあります。それが、現役の開業医たちが主宰する勉強会「21世紀 適々斎塾」の運営受託です。

 

 

この塾の運営を通じて私が黒子として見てきた景色やその現場から得た気づきを皆さんに共有したいと思います。

「21世紀 適々斎塾」は、幕末の蘭学者・緒方洪庵が開いた「適塾」の精神を現代に受け継ぐべく、ベテランの医師たちが中心となって設立された一般社団法人です。私は2021年から、この塾の事務局業務を受託しています。

具体的には月に一度、土曜の午後と日曜の朝から夕方まで、会場に詰めてZoomによるハイブリッド配信を行います。

セミナー終了後には録画したデータを丁寧に編集してアーカイブとしてWebにアップし、いつでも会員が学べる環境を整えます。

また、登壇する講師の方々への謝金や交通費の支払い、さらには全国に広がる会員の皆さんの会費管理といった、いわゆる「バックオフィス」の全てを当社が担っています。

正直に申し上げれば、月に一度とはいえ土日をフルに使い、かつ医療という専門性の高い現場でのハイブリッド配信は、技術的にも体力的にもタフな仕事です。

しかし、その運営の最前線に身を置くことでしか得られない、強烈な「学びの熱」があります。

この塾の最大の特徴は、教科書に載っているような「理論」を学ぶ場ではないということです。登壇するのは、長年地域医療の最前線で患者さんと向き合ってきた現役の開業医たちです。彼らが、自らの失敗談を含めた「臨床の現場でのリアルな経験値」を、若い研修医や学生たちに直接、情熱を持って語りかけるのです。

若手医師たちは、ベテラン医師が語る「診察室での一瞬の判断」や「患者との向き合い方」に食い入るように耳を傾けます。そこには、デジタル化が進む現代においても、決してデータだけでは伝わらない「暗黙知」の継承が行われています。

私はこの光景を配信画面越し、あるいは会場の後方から見守りながら、いつもKNSのことを思い出しています。私たちがKNSで大切にしている「産学官民連携」の核心も、実はここにあるのではないかと感じるからです。

KNSは、異なる立場の人々がフラットに集まり、互いのリソースを補完し合うことで新しい価値を生み出してきました。しかし、組織や役職の壁を取り払った先に、もう一つ越えるべき壁があります。それが「世代の壁」です。

「21世紀 適々斎塾」で見られる、次世代に伝えたい経験値を共有する場の提供。これは、産学官民連携にとって非常に重要なミッションだと思っています。

先輩たちが築き上げた成功と失敗の歴史、その「経験値」を若手に手渡すことは、単なる知識の伝達ではありません。

それは、コミュニティの魂を継承し、持続可能な社会を創るための「バトンタッチ」だと気づかされました。

KNSにおいても、長年活動を支えてきたベテランの知恵と、デジタルネイティブ世代の新しい感覚が混ざり合うことで、より強固なネットワークが形成されるはずです。そのために必要なのは、優れたシステムや立派なプラットフォームではありません。

適々斎塾の運営を通じて私が改めて確信したのは、「顔の見える関係を作ることこそが、世代間のコミュニケーションにおいて最も大切である」という事実です。

今の時代、知識だけならインターネットでいくらでも手に入ります。しかし、なぜ若手医師たちはわざわざ週末に時間を割いて、あるいはオンライン越しにでもリアルタイムでこの塾に参加するのか。それは、講師であるベテラン医師の「顔」が見え、その言葉の背後にある「生き様」に触れたいと願っているからです。

運営側として、私たちは単に音声を届け、映像を流しているわけではありません。講師と受講者の間にある「熱量」をいかに損なわずに届けるか。その空気感を作るためのハイブリッド配信であり、編集作業なのです。

顔が見え、声が聞こえ、その人の人となりが伝わるからこそ、厳しいアドバイスも、深い教訓も、若者の心に届きます。この「顔の見える関係」こそが、KNSの原点であり、私たちが守り続けるべき宝物です。

私が「21世紀 適々斎塾」の運営に携わって5年。この期間、コロナ禍という未曾有の事態を経て、私たちのコミュニケーションの形は大きく変わりました。しかし、どれだけテクノロジーが進化しても、人間が他者から影響を受け、成長し、知恵を次世代に繋いでいくプロセスの本質は変わりません。

KNSの活動もまた、ある種の「現代の適塾」であるべきだと私は考えます。

異なる分野、異なる世代の人々が、お互いの顔を見ながら、泥臭く、しかし真摯に経験を語り合う。そこから生まれる信頼関係こそが、地域を動かし、社会を変える原動力になります。

これからも私は、一人の運営者として、そしてKNSの一員として、こうした「経験値のバトン」がスムーズに、かつ熱く受け渡される場を作り続けていきたいと思っています。またKNSに参加される皆さんと「顔の見える関係」でお会いできることを楽しみにしています。

共に、次世代へ素晴らしい種をまいていきましょう。

長川 勝勇  R株式会社 代表取締役

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