Members Column メンバーズコラム
二拠点生活から見えてくるものは?
黒田淳一 (around) Vol.721
KNSのみなさま、こんにちは。
aroundの黒田淳一と申します。
私は二級建築士として建築や空間デザイン業務である「建物・空間づくり」をメインに、企業様との商品開発やブランディングにまつわる「モノづくり」や、まちづくり・地域活性化に関する様々な活動となる「出来事づくり」という3つの領域を横断的にデザインする取り組みを行なっています。
その活動の一環として、今年3月より奈良県磯城郡三宅町の地域おこし協力隊に着任し、まちの空き家問題に取り組むべく、空き家の利活用担当隊員として活動を始めました。
大阪での活動を軸足にしながら、関西近郊の郊外でもう一つの拠点をつくりたいと考えていたことと、地方こそ深刻な社会問題に対してアプローチする人材が渇望されていることを見聞きしていたなかで、幸運にも取り組み可能な条件の自治体の募集と巡り合うことが出来たため、チャレンジすることを決意しました。
地域おこし協力隊とは、過疎や高齢化の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、その定住・定着を図ることで、地域での生活や地域社会貢献に意欲のある都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした制度(※Wikipediaより)で、2009年に総務省によって設けられました。
地域おこし協力隊に着任する上で、実際的な手続きとして住民票を着任地へ移し、移住するということがあります。三宅町は複業としての着任も可能という条件だった為、私は現在の大阪市内の家族と暮らす住まいと三宅町の二拠点を行き来する生活をスタートさせることとなりました。
三宅町というまちは、奈良盆地のほぼ中央に位置する人口約7,000人、面積は4.07平方キロメートルという日本で2番目に小さなまちで、大阪市内から電車で約1時間の距離の程よい郊外へ週2日通い、家族と暮らす大阪市内の都心部へ帰ってくる暮らしを始めると、少しずつ、そしてささやかだけれど小さな発見があることに気がつきます。
その他、二拠点生活にまつわるちょっと特異な経験や、複数の拠点があるからこそ気づく視点などのお話について書いてみたいと思います。
二拠点生活を始める前の各種手続きから気づきは始まります。
まず、三宅町の居住先(住民票の移転先)を探す際にWEBで不動産サイトを検索するのですが、条件を絞らずに検索しても数件しかヒットしません。しかも一人で住むにはちょっと持て余す広さの物件が多い・・・。ここで郊外の賃貸物件や貸し家に住む人の属性が垣間見られたりします。その中で、最寄駅から徒歩13分、役場まで徒歩5分の立地の1LDKアパートを契約し、次の手続きとして住民票を移します。
転出届の手続きで大阪市内の役所窓口へ。大阪の住まいは妻と子供を残して転出は私1人。行き先は奈良県の郊外のアパート。この手続き内容に窓口対応の職員さんは想像力を働かせた後にそのことを悟られまいとする気遣いで気づいていないふりをしている的な空気が漂います。(想像されるような修羅場な状況ではないのですがw)
そうか!家族で暮らしている世帯の夫だけが他県へ転出届をすることの理由が二拠点生活をする為だと真っ先に連想する人はほとんどいないだろうと、ここでも気づきが。
気まずい雰囲気の中(なんでやねん!)、無事転出届完了。
そして三宅町役場の転入手続きの際にも同様の出来事を経験したことは言うまでもありません。
そんなこんなでワクワクの二拠点生活が始まります。
月曜の朝に大阪の住まいを出て電車で三宅町に向かいます。JRと近鉄を乗り継いで約1時間、牧歌的な風景の無人駅から郊外の住宅地の合間を縫って歩きます。
三宅町役場敷地内のまちづくり施設で1日を過ごし、三宅町の住まいに帰り、月曜の夜を過ごします。
この1日の中で、生活の中で特に重要な食事の選択肢の少なさに直面します。
昼食は、まちづくり施設のチャレンジキッチンに出店がある日はそのメニュー、もしくは地元の仕出し弁当屋さんor町外の定食屋さんへの配達注文が選択肢の全てです。
それも曜日等の営業情報をよくチェックしていないと注文し損ねる事態に陥るので死活問題です。
さらに夕食となると、近所にスーパーや量販店はなく、ほぼ唯一と言える近場の飲食店は月曜定休・・・。○―バー○―ツなんて来てくれません。頼みの綱はまちに2件中1件のコンビニFマート。しかし、そのお弁当やお惣菜もローテーションしていると飽きてきてしまいます。
この町の人はどういう食生活をしているのか?と一瞬疑問に思いますが、ハッと気づきます。
“私には車がない!!”
三宅町に限らず、郊外は車社会として構成されています。徒歩移動で暮らす意識をモータリゼーションは軽々と飛び越えていきます。
普段、徒歩圏内に様々な選択肢が整っている都心部で暮らしていると、あまり意識せずとも食べることや移動することに困ることはありません。それがひとたび郊外に生活圏を持つことで、都心部での生活で無意識に、当たり前に行なっている行為も、郊外でのその行為はわりとしっかりとした思考が付け加えらます。
なんでもないことをしっかり考えて暮らすこと。
それはあらためて生活のひとつひとつの行為を捉え直すような気持ちになります。普段使っていない細胞をギュギュッとストレッチするような。
また、町の風景は田んぼに黄金色の稲穂が揺れていたり、豊かな枝を蓄えた木々に囲まれた小さな神社やその脇を流れる小川を泳ぐミドリガメを眺めながら暮らすことは、都心部の生活とは一味違った心地よさを与えてくれています。
郊外は都市部とは違う原理の暮らしがあります。
住むまちとは違う場所に、仕事や旅行で訪れるのでは得られない感覚があり、暮らすことではじめて手に入るということを二拠点生活は教えてくれました。
複数の拠点を持つことは、それぞれの場所を相対的に複眼的に眺め、捉え直し、そこからこれからの暮らしを本質的に考えるヒントのようなものが得られるのではないか。そんなことを考えながらそれぞれの拠点を行ったり来たりしています。
地域おこし協力隊の活動での取り組みや出来事はまた別の機会にご披露できたらと思います。