最も憶うは是れ杭州

牛尾紀夫 (神戸市)  Vol.129

　その歴史は古く、隋代の頃から発展し、南宋時代には、都がおかれていま
した。現在は浙江省の省都として人口は約800万人、日本からも数多くの企
業が進出しています。

　まちの中心に西湖という美しい湖があり、それを取り囲むように自然豊か
な山々と市街地が広がっています。自然と都会が調和した中国一の素晴らし
い都市だと思います。

　私は杭州に行くと、まず真っ先に西湖のほとりに佇むことにしています。
周囲の山々を見渡しては、「ああ、また帰ってきた」と自分の故郷に戻った
ような気分に浸っています。ちょうど、今時分は湖一面に蓮の花が咲いてい
ることでしょう。

　何度か訪れ、まちの様子はわかってきたので、次に行った時は、湖近くの
茶館で名産の「龍井茶」を飲みながら、ゆったりと半日を過ごそうと思って
います。

　杭州の魅力は、西湖周辺の自然環境だけではありません。中国の禅宗五山
に数えられる霊隠寺、浄慈寺といった寺院をはじめ、茶葉やシルクをはじめ
とする各種の博物館、河坊街と呼ばれる昔の町並みを復元したお土産屋街、
グルメの方には杭州料理等人それぞれの興味、関心に従った楽しみ方ができ
る都市でもあります。

　まだ行ったことの無い方は、ぜひ一度訪ねてみてください。上海からの日
帰り旅行も可能です。季節的には春、ゴールデンウィークの前後が新緑も美
しく、また新茶も上市され、最高だと思います。ただ、週末や祝日は観光客
で西湖付近は大変混雑しています。

　最後に、今を去ること1200年前、私と同じ思いをもっていた人がいたこと
を最近知りました。その人の詞（一部）をご紹介したいと思います。

江南を憶う（その二）
江南を憶う
最も憶うは是れ杭州
山寺の月中に、桂子を尋ね
　　　　　　　　　　　　（桂子=木犀の実）
郡亭の枕上に、潮頭を看る
何れの日か更に重ねて游ばん

　作者は唐代の詩人白居易（楽天）で、秋の杭州の思い出として、仲秋の名
月や有名な銭塘江の逆流を歌っています。

　彼は822年に杭州の刺史（地方長官）に任命され、赴任しています。在任
中は西湖の治水事業に力を注ぎ、堤防を築きました。現在は白提と呼ばれ、
観光スポットの一つとなっています。

追記
　本稿は、尖閣諸島への上陸事件が起こる前、8月上旬に執筆したものです。
新聞報道によると、杭州市においても大規模な反日デモが行われたとのこと
です。
　中国の人は、私の接した限り、みんな素朴な方ばかりでした。歴史上、日
本と中国は何度か戦争をしていますが、今後そのようなことが二度と無いよ
う祈念したいと思います。