Members Column メンバーズコラム

”入国を許可してもらった国への恩返し”の精神を持つこと

田宮康弘 (Vietnam National University Ho Chi Mhnh City)  Vol.257

田宮康弘

みなさんこんにちは。東海支部の田宮と申します。
私は、2014年の10月末よりベトナムホーチミン市内の“ベトナム社会科学・人文国家総合大学 ホーチミン学舎”のベトナム研究・ベトナム語学学科に留学しています。まだ、ベトナムで何をしようかとは具体的に決めていませんが、まずは、現地人との充分なコミュニケーションが出来るようになろう、と思って過ごしています。
すでにご存知の方も多いと思いますが、ホーチミン市の紹介をします。ホーチミン市はベトナムの南部に位置し、北緯10度.東経106度に位置する熱帯モンスーン地帯です。四季はなく、雨季と乾季のみです。雨季は5月からと10月までで、残りは乾季です。ちなみに今日の気温は最低26℃最高36℃です。(2015年4月1日現在)。2月ぐらいからは全く雨は降っていません。日本との時差はー2時間です。(日本より2時間遅い。)

ベトナム共産党の『ドイモイ(革新)政策』により、社会主義国でありながら、市場経済が発展しています。2014年は日本との外交関係樹立50周年となり、現在ホーチミン市中心部で建設中の地下鉄工事(2020年完成予定)は、日本とベトナムとの共同出資によるものです。年々日本との関係が強化されているように見えます。年5~8%の高度成長をここ10年間維持し続けているベトナムは、国民平均年齢が28歳と非常に若く(ちなみにタイ34歳、中国35 歳、日本45歳)、国策として、IT人材育成を進めているなど、若くて優秀なエンジニアが豊富ということも理由に挙げられます。
最近では1000社を超える日本企業がベトナムに進出しています。これは、チャイナリスク回避以外に、ベトナムが東南アジアの中心に位置していて、ASEAN各国には飛行機で2時間以内に行けるという絶好の立地条件であることから、生産・物流拠点として着目されています。
ところが、多くの日本人が、ベトナムを含めた発展途上国に赴任しては、失敗して帰国するケースに良く出会います。彼らの大部分は、主に4つのケースによるのではないかと考えています。
① 赴任先の母国語を覚えようとしないこと。
② 日本と比べて、不便に感じることばかり口にすること。
③ 発展途上国の人間を、自分より劣っていると考えていること。
④ 発展途上国を、コストダウンを目的としてのみ利用しようと考えていること。
発展途上国赴任者が、仕事をする目的の多くは自社製品のコストダウンであり、物価水準(生活水準)が低いのを利用しようとしています。分からなくもありませんが、何年か先に中国同様、物価・賃金水準が上がれば、この国を見捨てて、また新たな活動拠点を見つけなければならなくなります。あたかも“植民地”としか、発展途上国の人を見ていないことになります。言葉が通じなくても、このような態度はすぐに見抜かれてしまいます。
発展途上国に赴任し仕事をするには、まずは、その国の現状を否定しているのではなく、より良くするにはどうしたらよいかを常に考える必要があります。もし、あなたが、現在置かれている状況に何か不便さを考えるようであれば、“よし、私が変えてやる。”っていう気持ちを持つべきです。
忘れてはいけないのは『自分は、“入国を許可された人”である。』ということです。礼儀として、その国のナショナリティーを認め、理解しましょう。そして、『住まわせていただいている。』、『仕事をさせていただいている。』ということに敬意を持ちましょう。例えば、ベトナムでは、基本的に“日本人はベトナム語を話さない。”と、現地ベトナム人は理解していますので、ベトナム語の理解力があまりなくても、その姿勢をベトナム人に見せましょう。きっと、彼らは我々のことを暖かく迎えてくれることでしょう。発音が下手でもかまいません。何か覚えた単語を話してみてください。相手は、『あなたは、ベトナム語を覚えようとしてくれているんだ。』っていう“びっくり”した表情をした上で、にっこりと微笑んでくれるはずです。殻に籠って何も発しないと、いろいろとマイナスに機能してしまいがちです。仕事も生活も楽しく、そして発展途上国に対して尊敬の念を持って接するようにしましょう。すると、赴任先での仕事や生活が楽しいものとなります。
ベトナム人の方々は、勤勉で正直だと思います。年長者・目上の人を敬うという習慣は彼ら独特の文化であり、現在の日本人にとってはある意味忘れ去られてしまった文化で、改めて思い出させてくれる国です。我々日本人にとって、ベトナムは”Away”ですので、自分たちのやり方を無理に通すことは決して良くありません。まずは、“郷に入れば、郷に従え。”と、ベトナムの現状・文化・考え方を、そのまま受け入れて見れば良いと思います。その上で、自分が不便と感じること、ベトナム人が困っていることを、日本の物品や考え方、システムを導入することで、お互いが助かる、気持ちよく過ごすことが出来る、ことを提案してあげることだと思います。
現在、日本企業がベトナムの工業地帯に多数進出していますが、成功している企業の工場は、常に現地人と一体感を持っているという姿勢を示しています。ベトナムの場合、従業員の定着が悪いのが一般的です。平均離職率は年20%で、工場の従業員が500人とすれば、1年間で100人がやめることになります。離職理由は人それぞれですが、食に対してデリケートであるベトナム人は、社員食堂の味や量で転職・退職する人も珍しくなく、最悪の場合にはストライキにまで発展します。したがって、工場マネージメントしている担当者は、離職率を減らす方策を打ち出しています。例えば、従業員の誕生日にプレゼントを贈る『矢崎ベトナム』さん、工場の拡張時にナイター設備を完備した洋芝フットサルコートを作った『ソルテックベトナム』さん、月一回うどん作り大会やメークアップ教室などのレクレーション大会を開いている『サウザンドクレインベトナム』さん、などなど。従業員の福利厚生を念頭において工場運営を実施していることが見受けられます。レクレーションの取り組みについても、若者や女性の関心ごとを取り込んでいたりします。いずれも、“現地で仕事をさせていただいている。”、“入国を許可してもらった国への恩返し。”の精神が感じられますね。私も、名古屋の音楽事務所であるNPO法人『アートフィールド』さんの協力により、仕事などで宿泊したホテルからもらえるアメニティーグッズ(歯磨き、歯ブラシ、石鹸、シャンプー類)を集めてもらって、ベトナムのお寺に寄付する活動をしています。
KNSの皆様の中には、会社経営者の方々、あるいはいろいろな政策を打ち出そうとしている役所・大学関係者の方が多いと思います。すでにベトナムは、“単なるコストダウン”としては受け入れられません。進出を考えておられる方々は、まずは、“敬意を払い、一体感を持つ。”ことから、始めることをお勧めします。KNSの皆様であれば、コミュニケーションは得意だと思いますので、発展途上国の人々のハートをつかむことは、私以上に簡単かもしれませんね。長くなりましたが、乱筆失礼いたしました。

※写真は、私の大学のクラスメイトです。(大学内の喫茶店にて)
前列左から、ハフィーさん(中国)、直美さん(日本)、ジュリアさん(ロシア)、スングーさん(韓国)
後列左から、イミンさん(台湾)、私、ヒン先生(ベトナム)、シファンさん(韓国)、シマさん(ロシア)です。

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