Members Column メンバーズコラム

『情報は誰のものか』(海文堂)の出版について

中村稔 (独立行政法人情報処理推進機構)  Vol.256

中村稔

 今回は、KNSの皆さんにぜひ読んで頂きたい本を紹介します。この度、海文堂から「情報は誰のものか」というタイトルで本を出しました。
さて、この本の内容に入る前に、今日の我が国をめぐる内外の状況を眺めてみますと、現在、TPP交渉でも焦点となっている農業の問題、高齢化に伴う医療費の増大、原発停止で迫られるエネルギー需給の構造改革など、我が国は、将来にわたって持続的に成長・発展していくために避けて通れない社会課題に直面しています。

本書は、インターネット社会の進展の中で、こうした社会課題にIT(情報技術)の光を当てると何が見えてくるのかという問題意識の下、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「社会課題ソリューション研究会」において検討された内容に加え、その議論の背景や考え方などにも触れながらまとめたものなのです。
インターネットの普及により爆発的に情報流通が拡大した結果、情報の独占が崩壊し、これまで物やサービスの供給者から需要者に一方的に流れていた情報が、双方向で流通するようになりました。その意味するところは、需要者側においても自ら情報を創出・発信し、収集・蓄積し、活用するという新たな力を手にしたことで、既得権益や岩盤規制をも打破して新たな社会課題のソリューションを生み出すことが可能となったということなのです。
本書の内容は、こうした我が国経済社会に構造的な変化をもたらすIT活用のあり方について、農業、医療、エネルギーの各分野を始め、オープンガバメント、ダイバーシティといった今日的課題に関しても具体事例を挙げながら行われた議論をとりまとめたものとなっています。
例えば、農業では、生産現場のIT化はもちろんですが、インターネットで直接消費者と生産者がつながることによって、農協が独占してきた肥料や飼料を始めとする生産手段、生産ノウハウ、流通手段などが生産者の手に渡り始め、「農業という産業」の構造変化が始まっています。インターネット社会の進展にともなって、農協による情報の独占が崩壊し始めた兆しを皆さんも感じておられることでしょう。
さらに、我々一人一人にとって切実な問題である健康・医療・福祉の分野でも、クラウド上で管理される電子カルテなどの「紙とエンピツ」の時代には考えられなかった手段の出現によって、病院や医師や薬局などに独占されていた情報が本人によって管理・活用できる可能性が高まっており、例えば、病気になる前から自分のカルテが持てるといった時代が来ようとしています。これは、健康産業、医療・福祉の現場に画期的な構造変化をもたらすでしょうし、個人の健康寿命の今後に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
まさに、「情報は誰のものか」と問うべき時が、インターネット社会においてITの活用方法が劇的に変化する中で到来しているのです。
このように、様々な社会課題を解決しながら成長戦略を描き実施することを迫られる国や自治体などの行政機関、社会課題への対応をチャンスと捉えてビジネスモデルを戦略的に展開しようとする企業、新たな価値創造に参画しようとする個人や消費者にとって、この「情報は誰のものか」は、示唆に富むものであると考えています。
また、本書は、「日本のインターネットの父」と呼ばれる慶応義塾大学情報学部長の村井純教授を始め、ビッグネームの先生方に研究会委員になって頂き、非常に興味深い内容となった議論をまとめた貴重な資料でもあります。
ちなみに、私を始めとして、編集・執筆者としては、本書の印税は1円も入りませんので、この本を紹介する目的は、純粋に一人でも多くの人に内容に触れて頂きたいことだけなのです。
ぜひ、皆さん、アマゾン等の通販でも買えますし、丸善やジュンク堂などでの立ち読みでも結構ですので、本書を御一読頂き、何なりと御意見や御示唆を寄せて頂けましたら幸いです。また、辛口コメント、推薦の言葉、異なる見解、「いいね」、追加的情報など、何でも結構ですので、FBやツイッター等でコメントして頂き、この議論の広がりに参加して頂けると大変嬉しいです。
最後になりましたが、KNSとKNSに参加されている皆さんのますますの御発展を祈念する次第です。

PAGE TOP