Members Column メンバーズコラム
東日本大震災津波発生時の対応
高橋晃進 (岩手県大阪事務所) Vol.280
岩手県大阪事務所の高橋と申します。平成27年4月から大阪に勤務しており、企業立地、百貨店等での物産展、岩手県産品の流通促進、アンテナショップなどを担当しています。
また、恐れ多くもKNSの世話人にしていただきましたので、微力ながら尽力させていただきたいと存じます。
メンバーズコラム初投稿となります。乱文乱筆で恐縮ですがご容赦願います。
東日本大震災津波が発生した時、私は岩手県庁総合防災室に勤務しており、岩手県災害対策本部支援室員として主に県下の燃料調達を担当しましたので、その際のお話を記載させて頂きます。
なお、ちょうど投稿日の数日前が第50回定例会であり、そのトークセッション「震災復興支援~過去・現在・未来~」のスピーカーでしたので、その際の内容と被る部分もありますが、重ねてご容赦願います。
平成23年3月11日、私は岩手県庁総合防災室で産業保安(高圧ガス保安、火薬類取締、石油コンビナート、危険物等)に係る指導・許認可を担当していました。
3月11日の午前中は、岩手県庁内の法務学事課へ4月1日付けで異動するよう内示を受けたところでした。
同日午後に大規模地震が発生し、即刻岩手県庁内に岩手県災害対策本部が組織されたため、日頃から定められていたとおり、岩手県災害対策本部支援室の統括班員として災害対応に当たりました。
大地震発生後、県内は全て停電、それにより県内の全てのガソリンスタンドが機能停止し、一般車両はもとより、緊急車両(救急車、パトカー、消防車両、他と道府県から応援に来た緊急車両など)の燃料供給が困難となりました。
一部手回しポンプで給油しているところもありましたが、一定量給油するのに著しく時間を要するものでした。
よって、発生日の夜、緊急車両の燃料確保のため、災害時協定を締結しているガソリンスタンド1箇所に電源車両を手配して県下ではこのスタンドのみが稼動という状態とし、私が一般客の給油を断る役を仰せつかりましたので、一般客から、罵声を浴びせられる、泣いて懇願される、胸倉を捕まれる、髪の毛を引っ張られる等されながらも、翌日の昼頃まで対応しました。
3月12日の昼過ぎにガソリンスタンドから帰還した後、岩手県災害対策本部支援室の「臨時燃料班」として、病院や市町村からの需要、緊急車両用スタンド、大規模避難所等へ適時適切に燃料が納品されるよう発注する業務を担当しました。
当時は、津波等により仙台港及び八戸港が機能停止し、また、地震により千葉県の石油コンビナートが炎上したため、岩手県への通常の燃料流通ルートが途絶するとともに、停電の長期化や津波被害等により県内にある燃料の活用が困難な状況にありました。
このような中、国では被災地における物資の「政府調達」制度を設けましたが、大規模災害による情報の錯綜等も相俟って、国に発注した燃料が納入されない場合や、納品が著しく遅延する場合が多々発生し、津波で被災した沿岸ばかりではなく、内陸における燃料も枯渇し、県内のあらゆる箇所で問題が発生しました。
特にも緊急を要したのが「病院」です。病院には停電時に対処するため当然に非常用発電設備がありますが、このように長期間の停電に対応できるような燃料タンクを有しないところが多く見受けられました。
病院が完全に停電した場合、被災した重篤患者を受け入れて手術や治療をすることはもとより、もともと入院していた患者の生命が危機に直面(生命維持装置の停止など)することになります。
さらに、この長期停電に伴う燃料不足では、病院以外でも様々な緊急事態が発生しました。
例えば、救急車両の燃料切れ、県庁舎・市町村庁舎・消防本部庁舎の予備発電機燃料枯渇(災害対策本部機能の停止の恐れ)、上下水道浄水場の停止の恐れ(水道水供給不可、浄化していない下水の漏洩の恐れ)、大規模避難所の予備発電機燃料枯渇、火葬場の燃料の枯渇の恐れ、ガソリンスタンドに並ぶ一般車両での一酸化炭素中毒死発生など、燃料に起因する事態への対応は難航を極めました。
日本海側の近隣県から燃料の斡旋や支援を受けるとともに、ドラム缶を遠方から搬送する等、様々な手段によりギリギリで対応していましたが、内陸における長期停電の回復や津波により活用困難と思われていた沿岸のオイルターミナルの活用(小笠原さん、大変お世話になりました)、国が日本海ルートでの燃料搬送を開始したこと、八戸港の機能が復旧したこと等により、発災から2週間程度でようやく県内に燃料が流通し始めました。
国内では、このところ水害、噴火及び地震など様々な災害が発生しているとともに、南海トラフ地震の発生も想定されているところです。災害が発生した場合への対応策はさまざま取り上げられていますが、「燃料」に関しては詳細に検討されている自治体は意外と少ないのではないでしょうか?
この震災対応を経て、現在の世の中は、「電気と燃料がなければ、何もできない」といっても過言ではないと感じています。
ご自身の身の回りを思い浮かべて頂き、「長期間停電し、かつ、燃料がない場合はどうなるのか?」「それに対応するためにはどう備えるべきか?」「国レベル、自治体レベル、個人レベルではどうか?」について想像していただき、さらに、それぞれの立場でご対応いただきたいと思います。
最後に、東日本大震災による長期停電・燃料不足の折、関西広域連合の皆様による迅速な支援(例:燃料ローリー車の沿岸被災地へのプッシュ配送、どの自治体よりも早い支援職員の速やかな配置 等)により、多くの被災者を助けることができました。また、被災地の現状を承知いただいている関西の皆様の、迅速・的確かつ多大なるご支援は、今思い出しても涙が出ます。本当にありがとうございました。