Members Column メンバーズコラム

成長戦略と人材育成

西出徹雄 (元化学研究評価機構)  Vol.619

西出徹雄

 2022年が半分以上終わりましたが、新型コロナ感染が続く中、ウクライナ問題が世界経済に様々な影響を与え、年初には全く想像できなかったような状況に今はあります。アベノミクスの功罪がきちんと総括されないまま、岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出していますが、元々アベノミクスの3本の矢のうち肝心要の成長戦略は不発のまま、円安が進み、貿易収支の赤字拡大による国富の海外流出、エネルギーの供給不安定化と価格高騰が進み、企業業績も業種毎に大きくばらついています。バブルが弾けてからの30年ほど個人の所得は一向に増えず、国は大きな負債をかかえたまま、更なる高齢化社会に突き進んでいく日本。再活性化の希望はどこにあるのでしょうか。世界の大きな流れはDXとGXに象徴され、そのこと自体に間違いはないと思いますが、それを担う人材、組織、体制はこの国にできているのでしょうか?

 国の政策から打ち出されるメッセージとして、「スタートアップ創出元年」などと、いとも簡単に標語を掲げ、シリコンヴァレーへの派遣を増員し、DXやGXのための研究開発支援は打ち出されますが、それではこれまでやってきたベンチャー支援の政策とは何だったのでしょうか。
 そもそも製造業に比べてサービス産業は一人当たり付加価値額が低く、産業構造が製造業からサービス産業へシフトしていくと、国全体で見れば一人当たりの付加価値額は減少することになってしまうので、サービス産業の中でも付加価値の大きな分野をどのように増やしていくかが成長戦略的には重要になるはずです。そしてそれを可能とする基盤は新しいことにチャレンジする高度人材の育成と新しい分野を開拓する研究開発でしょう。GAFAが全て米国に集中しているのは偶然でも何でもなく、インターネットの開発の例に見られるように、国防予算を使ってリスクを取る先端的研究が行われ、萌芽的な段階から研究に関わり、その利用に早い段階から関わることができる人たちの試行錯誤的な様々なチャレンジが新しいビジネスの種となり、沢山の種から生まれたほんの幾つかのホームランがGAFAというわけでしょう。イノベーションを担う人材の多くが高学歴であることも注目すべきで、大学が大きな役割を果たしていることを示しています。
 新しい発想でイノベーションを起こす人材が重要であることには誰も反対しないでしょうが、日本の就活の現状を見ると真逆とも思える状況です。大学で大学生らしい教育や研究を行う時間を就活がどんどん奪っています。今では3年生の夏にはインターンシップをいくつかやっておくのが就職に有利と考えるのが普通になり、益々就活の期間が長くなる傾向と聞きます。採用する側も期間が延びればその分だけ負担が大きくなり誰も得する人はいません。日本以外では大学を卒業してから就活するのが当たり前ですが、なぜ日本ではできないのでしょうか。生産性を大幅に向上させようと考えるなら、3年生、4年生でしっかり大学生らしい学問を学び、研究に取り組み、企業はその成果を評価して採用の可否を決めるのが合理的です。せめて卒業研究の区切りをつけ、4年生の1月から採用活動をすると企業側は言えないのでしょうか。海外の事情にもよく通じ、日本以外でも採用を行っているはずの大手グローバル企業のトップが一致して決断すれば、すぐにも実現できると思いますが・・・
 毎年夏になるとアメリカからカリフォルニア工科大学の学生たちがやってきて、日本企業の研究所での10週間!のインターンシップに受け入れてもらい、実際の研究テーマで研究し、日本の企業文化や生活に触れてもらっていました。1995年から合計で150人が来日しましたが、コロナのせいで2020年の夏から中止となり、大学側のスタッフは雇用が継続されず来年の夏までは中断が続くでしょう。Times Higher Educationの研究大学の世界ランキングでは毎年1位か2位を争うこの大学のインターンシップ・プログラムが同世代の日本人学生によい刺激となり、また受け入れ企業の研究者や人事担当の方々にはご苦労をお掛けしますが同時に人材のグローバル化の現実や世界のトップクラスの大学生のレベルのベンチマークを直に感じてもらえる良い機会になるのではないかと思い、プログラムの立ち上げからこれまでサポートしてきました。しかし4年もブランクがあくと受け入れ企業の関係者も替わり、再開については悲観的な思いに傾きがちな昨今ですが、さてどうなることでしょう。

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