Members Column メンバーズコラム
コロナ感染リスクの今、自分は健康なのか
二宮章浩 (長岡技術科学大学) Vol.568
長岡技術科学大学に、産学連携コーディネーターとして勤務しています二宮と申します。しかし非常勤ということもあり、ほぼ関西で活動しています。関西が全国的にもコロナリスクの高い地域なので、そこからの大学出勤は自粛ムードもあり、ますます関西での活動が増えている今日この頃です。今回は、コロナ感染で改めて気にしていることも多い、健康をテーマにしたいと思います。
■自分の健康度はどうやって認識するの?
2020年1月くらいから全世界で拡大し始めたコロナ感染ですが、日本も漸くワクチン接種が進んでいます。このような状況になるまでどのように過ごされましたでしょうか。「自分は罹らないだろうか」と心配になられた方、「自分は健康だから罹る可能性は低いだろう」と捉えられた方、それぞれだったのではないでしょうか。そこで、お尋ね致します。そう思われた理由は何でしょうか。
ご自身が健康だと思われている方の一番の根拠は、健康診断で特に何も指摘されていないということではないかと推察致します。しかし、それが本当に健康の証でしょうか。今回のコロナ感染拡大で、健康診断で健康と言う評価であったとしても、不安を持たれた方も多いのではないでしょうか。
漢方の世界では、病気と健康の間に「未病」という状態があり、健康診断で「健康」と判定されていても、ほとんどの方は疲れを感じていたり、メンタル面で悩みを抱えられたりしています。
本コラムでは、今の自分の健康状態、即ち未病の度合いを把握する方法としてどんなものがあるのか、健康予防行動に繋げるためにどんな情報が必要なのか、私の所属する長岡技術科学大学の野村収作教授の研究内容も交えながら、ご紹介させて頂きます。
■未病の度合い測定の基本的な考え方
病気と健康の間に「未病」という状態があることを上述致しましたが、それはどのように把握することが出来るでしょうか、あるいは何を測定すればよいのでしょうか。色々考えられるとは思いますが、今回は「疲労度」や「ストレス度」の測定を考えます。
なぜならば、カラダが弱って、抵抗力が下がる時に病気になりやすく、その原因が「疲れ」という状況がよくあるからです。病気にならないまでも、ストレスが掛かると、メンタル的につらいという状況も想像に難くありません。身近なところでは、職場でストレスを感じられている方も多いと思います。最近そのようにストレスを感じられている人が増加し、それに伴い労災件数が増加しているという統計データもあります。(厚生労働省:『脳・心臓疾患に及び精神障害等係る労災補償状況(平成20年度)について』 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/dl/h0608-1b.pdf)
以上のことから、病気のきっかけ・原因となる「疲労度・ストレス度」を測定することを考えたいと思います。
■疲労度・ストレス度の測定方法
それでは、疲労度・ストレス度をどのように測定すればよいのでしょうか。結論から言いますと、唾液や爪・毛髪に含まれるコルチゾールと呼ばれるホルモン量(※このホルモンをここでは「ストレスホルモン」と呼ぶ)を測定すれば、疲労度・ストレス度を把握することが出来ます。もし自分ではストレスを感じていない場合でも、実はカラダはきちんと反応して、疲労度に応じてホルモンが体内に分泌されます。そうやってカラダを防衛しています。体内に分泌されたホルモンは血液を介してカラダ全体に行き亘り、カラダの末端である唾液・爪・毛髪にそれが蓄積されます。このようなメカニズムに基づき、唾液・爪・毛髪を測定することが出来ます。
ただし、それぞれの反応速度には違いがあります。唾液はその時のストレス度が直ぐに反映されますが、爪は最近1週間?1ヶ月のレンジでストレス度が蓄積され、毛髪は1ヶ月?半年のレンジで蓄積されます。ここで注意が必要なのは、蓄積と測定は一致しない点です。というのも、ホルモンが蓄積されるのは、爪や毛髪の根元であるということです。爪は先の部分しか切り取れませんので、爪の成長を考慮すると、約4ヶ月前のストレス状況を測定することになります。一方、毛髪は根元から抜き取れるので、最近1ヶ月の状況から半年前までの過去の推移が測定できます。根元から何cm離れた部分の毛髪を測定するかで、過去半年間のいつのストレスかが決まり、全体を測定すれば、半年間のストレスの歴史を1ヶ月単位で振り返ることが出来るのです。それをきっかけに、楽しかった思い出、辛かった思い出も蘇るかも知れません。
以上のことから、一過性のストレスを即座に測定したい場合には唾液を用いて、慢性的なストレス状態を測定したい場合には、爪や毛髪を用いることになります。
◎参考:唾液・爪・毛髪に蓄積されるストレスホルモンを測定する方法
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2016/87-column-2.html
■受けたストレスに対するカラダの変化の事例
ここで、ストレスに応じたカラダの反応の事例を一つご紹介致します。こちらは、ストレスマネジメント研究 Vol.12 No.1 2016年に掲載された「人間工学の視点から見た抗ストレス効果の評価法」(長岡技術科学大学野村教授寄稿)の内容になります。
ご紹介する事例は、『10名の男子学生に18分間の暗算課題を課したケース』において、カラダの中で起きている反応を測定した結果になります。このケースでは、前述の唾液中のコルチゾール(Cortisol)以外に、心拍数変動(HF)と唾液中のクロモグラニン(hCgA)を測定しています。下図を見て頂くと分かるように、それぞれで応答速度は違います。
○心拍数変動(HF):計算ストレス(計算実施)にほぼ追従する形で、心拍数が上下する。(即ち、ストレスがなくなれば、すぐに正常化する)
○唾液中のクロモグラニン(hCgA):心拍数の変化よりも遅れて、クロモグラニン濃度が上下する。(即ち、ストレスが掛かり始めてから徐々に増加して、ストレスがなくなってもすぐには、正常化しない。)
○唾液中のコルチゾール(Cortisol):クロモグラニンの変化よりも更に遅れて、コルチゾール濃度が上下し、元には戻らない。(即ち、ストレスが掛かり始めてから徐々に増加して、ストレスがなくなっても、数分程度では正常化しない。)
上図の応答の違いから、正味のストレス負荷時間を知りたければ、心拍数測定が適しており、ストレスの蓄積状態、即ち慢性的なストレス状態を知りたければ、コルチゾールの測定が適していることが分かります。コルチゾール濃度の推移や終了後も正常化しないことから、受けたストレスの解消のための健康予防行動(例えば、休息)が必要であることも分かります。
なお、クロモグラニンの特長は、弱い急性のストレスにも反応することであり、コルチゾールでは見過ごされがちな弱いストレスに気付くことができます。
この事例は18分間の計算と言うストレスですが、日々色々なストレスが掛かっている日常生活での「疲労度・ストレス度」の蓄積度を把握には、コルチゾールが向いていることが分かります。
■簡易な疲労度・ストレス度測定方法
ここまで、体内で発生するホルモン等の量で「疲労度・ストレス度」を測る方法を説明してきましたが、この方法は設備・機器がないと測定することは出来ません。もっと簡易に、「疲労度・ストレス度」を測定する方法があれば、いつでも測定することができます。その一つの手段として、HQCチェック(https://www.hqc.jp/)があります。このチェックは60の自覚症状に関する問診を通じて、体内で起きていることを、過去の実績データの統計処理で特定(類推)する方法です。これが優れている所は、現在の健康状態が事細かに分かると共に、どんな改善すべきかが分かることです。例えば、以下のようなことが分かります。
? 総合的に健康度はどれくらいか(健康に近いか、病気に近いか)
→ 健康に向けた行動の必要性が実感できる。
? カラダ・ココロ・脳のどこが疲れているか
→ 上記3つのどれをケアする改善行動が必要なのかが分かる。
? 健康の3大要素:栄養・運動・癒し、それぞれの得点がいくつか
→ 3大要素のどれを対象にした改善行動を取るべきかが分かる。
? 不足している栄養素は何か、及び栄養素が吸収されやすいかどうか
→ どんな栄養素を意識して摂取すべきかが分かる。
? どんな病気になりそうか
→ その病気にならない健康予防行動が分かる。
上記のようなことが分かりますが、どんな感想を持たれたでしょうか。このような情報が分かると、自分の今の健康状態が分かり、維持・向上に向けて取るべき健康予防行動も見えてくるのではないでしょうか。
■自分の健康度の把握と購買行動の変化
自分の現在の健康状態が分かると、健康になるための商品やサービスを購入したくなるかと思います。「癒し」の点数が低い人は、寝やすい寝具の購入を検討するかもしれませんし、「不足栄養素」が多く含まれる食材を購入するかも知れません。
健康番組、例えばNHKの「ガッテン」が紹介した食材や商品が次の日に、店頭からなくなるというのと同じ行動が起きるのではないでしょうか。ただし、ここで違うのは、HQCチェックの結果は、個々人の健康状態に基づいた結果なので、効果が出る可能性がより高いということです。
このことを考えると、今まで我々は「欲しいもの」を買っていて、本当に自分、あるいは家族に「必要なもの」を買っていなかったのではないかと思います。個々人の健康状態が定量的に把握できる、あるいは取るべき健康予防行動が認識できれば、購買時の選択の観点が大きく変わるのではないでしょうか。それは新たなビジネスチャンスとなるのではないでしょうか。
皆様は、如何思われますでしょうか。