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漆器でお酒を楽しむ

永山光悦 (岩手県商工労働観光部産業経済交流課)  Vol.569

永山光悦

 コロナ禍において、飲食店でのお酒の提供自粛が要請され、岩手県の酒造業界でも深刻な状況が続いています。
 特に日本酒の消費の落ち込みは、以前からの日本酒離れの傾向に加えて、今回の新型コロナウイルスによる影響は、飲食店向けの出荷割合が大きかった蔵元ほど厳しいようです。
 今回は、こうした中ですが、私の最近のお酒(日本酒)の楽しみ方をご紹介させていただきたいと思います。
 以前、私のお酒の楽しみ方と言えば、吟醸酒などのお酒を中心に、自分の好みに合うお酒を探すことでした。今も、美味しいお酒に出会うと楽しくなりますが、最近は、気に入った岩手県産漆器の盃で飲むことが楽しみになってきています。
 岩手県には、伝統的工芸品として国の指定を受けたものが4品目あり、そのうち2品目は漆器であり、雅な金箔による装飾が特徴の「秀衡塗」と素朴で堅牢なイメージの「浄法寺塗」がそれです。

 今、私が気にいって使っているのは、後者の浄法寺塗の盃です。
 贅沢に、国産の漆だけで塗られた漆器で、実用的で堅牢ななつくりは、使い込むほどに味が出てくる器です。
 岩手の宣伝になりますが、現在、日本国内で生産されている漆の割合は、わずか3%ほどで、ほとんどが海外産に頼っています。その貴重な国内産漆の約75%が、岩手県産であり、国内最大の漆生産県となっています。
 しかも、そのほとんどが「浄法寺塗」が伝わる岩手県の県北地方の二戸市で生産されています。
 市販されている多くの漆器は、海外産の漆が使用されており、国産漆を使ったものでも、下地塗には海外産の漆を使用し、仕上げ塗のみ国産を使用しているのが実際のところです。
 そういう現状ですので、100%国内産漆を使用した漆器は、非常に贅沢なものと言えます。
 私が浄法寺塗の盃に興味を持つこととなったきっかけは、9年程前に、県北地域の振興担当であった職員と居酒屋でお酒を飲んだときに、彼は、おもむろにカバンから漆器の盃を取り出し、「最近は、このマイ盃を常に持ち歩き、PRを兼ねて使っている。この盃でお酒を飲むと美味しくなる。」と言って私に飲んでみるよう勧めてきたのが最初でした。
 私は半信半疑ながら、お店で出された陶器の盃と漆器の盃で飲み比べをしてみました。
すると確かに、お酒の口当たりが柔らかく感じられ、中身は同じお酒のはずなのに、違うお酒のように感じられたのです。
 その後、岩手県物産展や工芸品を扱うお店で、漆の盃を探すようになりましたが、1個の値段が7?8千円前後とそれほど安いものでもなく、気に入った形のものが見つからないまま数年が過ぎてしまいました。
 2年前のある日、二戸市に出かける用事があり、時間があったので漆器の製造展示販売を行っている工房に立ち寄ることとしました。
 その頃、人事異動で商工労働観光部に勤務することになり、部内の諸先輩から「商工労働観光部に勤務する者は、県産品を愛用すること。」などといった引継があったことや、以前から欲しいと思っていた漆器の盃を手に入れる機会だと思い。衝動買いように購入したのが最初です。
 その後、前の上司がお勧めの盃を入手する機会もあり、今は、二つの盃(写真の真ん中)を愛用しています。
 また、「浄法寺塗」は、堅牢な塗も魅力の一つで、使い込むほどに艶が増し、器を育てていく楽しみも体感することができます。
 余談ですが、少し前に温泉旅館に泊まった際、夕食時に持ち込んだ漆器の盃でお酒を飲んでいたところ、ちょっと席をたったすきに、他のお椀などと一緒に片付けられてしまい、慌てて洗い場まで探しに行ったことがありました。幸い盃の裏側に、名前の一文字を入れてもらっていたこともあり、10分ほどで見つかりましたが、旅館の方も一緒に探してくれてご迷惑をおかけしてしまいました。
 さて、そんな漆器を取り巻く状況ですが、漆の生産量の問題や後継者不足など、様々な課題があるのも事実です。
 二戸市の工房では、俳優の三浦春馬さんが生前、浄法寺塗のお椀を愛用していたこともあり、現在、お椀については1年先まで注文が入っているとのことでしたが、伝統技術を伝えていくのは大変なことだと、改めて感じているこの頃です。
 そうした中、岩手県の酒蔵の若手経営者や漆工芸作家がコラボした、新しい漆器の酒器の試作が進められています。
 従来の木地に漆を塗ったものではなく、紙に漆を塗った酒器製造の試みです。
 写真の左側2つは、市販の紙コップに漆(海外産)を塗ったもの。(日本一高い紙コップで、日本一安い漆器ではないか?と思っています。)写真右端は作家のデザインで作成されたものです。他にも数点、試作された紙製盃があるのですが、現在、コラボしている酒蔵に送って使用感の意見をもらっており、1点しか撮影できませんでした。(申し訳ありません。)
 この取組が、今後どう発展していくか見守っているところですが、もし、機会がありましたならKNSの定例会などの場で、進捗状況をお話しできたらいいなと思っております。

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