Members Column メンバーズコラム
子供向け工場見学ツアー「わが町工場見てみ隊」
皆川健多郎 (大阪工業大学工学部) Vol.374
日頃よりKNSの皆様には大変お世話になり、感謝申し上げます。最近は定例会や研究会にさぼり気味で申し訳ございません。そのような中、世話人の中川裕之さんよりご連絡をいただき、この度、3度目のコラムへの執筆の機会を頂戴いたしました。お話したいことは沢山ございますが、その内の1つとして大阪市東成区にて取り組んでいます子供向けの工場見学ツアー「わが町工場見てみ隊」のご紹介をさせていただくことといたしました。
大阪市東成区は、北に城東区、南に生野区、そして東には東大阪市が隣接する町です。城東区には戦前、大阪砲兵工廠がありその近隣ではさまざまなモノづくりが取り組まれていました。モノづくりの町として有名な東大阪ですが、大阪市東部(城東区、東成区、生野区、平野区)の工場数、従業員数、そして製品出荷額は、いずれも東大阪市を上回っています。そのような古くからモノづくりの盛んな地域である一方、東西そして南北と地下鉄ならびに私鉄が走り、交通のアクセスも良いこの地には、近年ではマンションといった住宅開発が進み、いわゆる住工混在のエリアとなっています。住工混在の問題は、どちらかといえばネガティブな内容ですが、その問題に先手的解消を目的として設立されたのが「東成区住工共存まちづくり懇談会」です。
東成区住工共存まちづくり懇談会のメンバーは、地元のモノづくり企業の経営者、地元の活動の有識者、東成区役所職員、そして学識者ということで当方も参加をさせていただいています。地元に支店を置く尼崎信用金庫さまにも協力をいただいています。懇談会は月1回、19時に東成区役所内のスペースをお借りして開催しています。懇談会では当初、地元の現状把握から検討を始め、その後、状況を改善するための企画の検討を進めてまいりました。東成区では、隣接する生野区と共に「モノづくりフェスタ」という企業展示の企画を以前より実施していました。そこへの参画も検討をしましたが、対象を子供たちとして、地元にモノづくり現場が存在するすばらしさを現地で体験いただこうと企画したのが「わが町工場見てみ隊」です。本企画では、親子での参加を原則として受け入れ、現場の見学のみならずモノづくり体験も含めた半日のコースとなります。11年5月28日(土)に区内の幸和工業、ニシト発條、光製作所の3社の協力をいただき第1回を開催しました。その後、年2回の開催を重ね、本年6月までに13回の開催をおこなってきました。区内には様々な企業があり、これまで金属加工業、樹脂成型業、印刷業、帽子製造業、そして食品加工業等を訪ねました。地元の伝統工芸である深江の菅細工の訪問も実施しました。これまでの延べ参加者数は355名となり、中にはリピーターの方もいます。
ところで、当方はこれまで多くの製造現場を訪ねてまいりました。当初は大企業の現場が多かったですが、近年は特に中小企業の現場を訪ねています。さまざまな面で制約条件の多い中小企業ですが、特に人材面での課題は多く、実際に多くの経営者からもその話を聞きます。人材確保のために町工場では地元にアピールをしたくとも、騒音や臭いなどの問題からシャッターを下ろし、せっかくの近くの現場も距離感が生じ、その機会を失っています。一方で、最近の工場や工場夜景の見学のブームから現場に対する見方に変化を与えつつあります。メディアでは、現場男子、現場女子といった切り口で現場にて活躍する若手にスポットを当てる取り組みもおこなわれています。その取り組み自体は評価をいたしますが、大阪には本当に多数の素晴らしい現場があり、ここを直接訪ねる体験のインパクトは計り知れません。実際に見学時の子供たちは、本当に目をキラキラと輝かせています。そしてその視線の先にいる実演し、説明する従業員の皆さんがキラキラと輝かれています。子供たちは鏡であり、その鏡に映す現場とそこで活躍する人がここにはあります。これらの現場を残すことを目的に、活動を継続する必要性を感じています。
本企画では、親子で参加というスタイルで実施することにより、ご両親にも地元の企業のすばらしさを紹介することも併せて目的としています。元々、現場での改善に熱心な企業もありますが、工場見学の受け入れに際して整理・整頓にも取り組みいただく企業もあります。新しい空気が現場に入ることにより、現場の風通しも変わります。そのことにより、新たなる変化にまでつなげることが求められています。生産革新の潮流として、IoT、インダストリー4.0、そしてConnected Industriesといった声が盛んに聞かれます。これらは目的ではなく、手段だと考えれば、そこに向けた取り組みが重要です。地元のモノづくり現場に触れる機会、「わが町工場見てみ隊」。この企画を通じて、企業にとっても新たな機会が生まれ、子供たちの成長にも影響を与えることを期待しています。
関連サイト:http://www.city.osaka.lg.jp/higashinari/category/3314-9-0-0-0-0-0-0-0-0.html