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都市近郊農業の課題 環境にやさしい持続可能な農業ベンチャーを考える

神田善郎 (テクノカンダ)  Vol.353

神田善郎

農業は、人類のために環境を破壊して米、麦、野菜、果実を育てる宿命があると言われています。例えば、コメを作るには、田植え前から田圃を耕し田植え水を引き込み、苗代をつくり、田植えを行う。そして苗の成長を手助けとして初夏には稲に根を張らせるために、中干しと称して水断ちをさせたのち、圃場に給水して一気に稲穂の成長を助ける農作業をします。さらにあぜ道の草刈をし、稲の害虫発生の予防作業をします。収穫期には黄金色に稲穂が実り、豊作を感謝して収穫祭で感謝をささげます。

また、田植え水を圃場に引き込みます。場合によっては導水による圃場への水路変更も必要になり、時には人工的に畔を作り貯水池を造成し、導水路の変更し圃場の水位管理で排水路に強制的に水を落とすこともあるでしょう。ここは土木工事の様相を呈します。
 これらプロセスでは、自然環境を変革させるために人工的な力を借ります。現状の環境を強制的に変えざるを得ないこととなり、生態系との調和を取り入れようと努力する農業を行うことは、環境にやさしい生態系に配慮をした持続可能性を探求する事業であると言えるではないでしょうか。
農業政策は、耕作放棄地、荒廃農地、離農家の増加、荒廃した農業を再構築すべく様々な取組が行われています。ここでは、都市近郊型農業について、持続可能な農業にするための私見を述べます。

農業生産は、耕地の大規模化によるコスト競争力だけがクローズアップされています。果たして農業は、大規模集積、コストダウン競争(値引き競争)だけでよいのか。規模の利益による収穫逓増を狙うつもりが、何時の間にか収穫逓減に陥るのではないだろうか。
農業は、大規模化を行うことで農地の荒廃防止対策を担保する農業と、都市近郊農業が担う地域住民の健康維持と食(職)の安全、安心、快適を目指す農業があると思います。農業政策は、状況に合わせて二兎を追うべきだと考えています。
この背景には、①高齢による農業者の離農、②農業機械の高額化、③農産物生産工場との価格競争、④農業肥料流通の閉鎖性、下方硬直性、⑤高額化する農業資材、の問題を軽視した農業生産物問題や果樹栽培問題等、があると思います。

 少子化の進展、離農者増加による労働力不足は否めません。海外との協働、人的交流が不可欠です。来日し研修、帰国後は母国で農業ビジネスを行い日本と貿易を行うことで、農作物作付をすみわけることで、win-winの関係を構築できると思います。海外研修生にとって日本の都市部はなにかと魅力があることでしょう。都市近郊農家で研修することでそれが実現できる利点もあります。
 ところで農作業は繁閑の差が大きい産業です。この繁閑差をうすめるための場がないと労働市場としての魅力は半減します。年間を通してまた一日を通して働くことが出来、休暇を取得することが出来る形態を導入するためには、人材の平準化をすることで解決します。生産⇒加工⇒物流⇒販売⇒滞在のプロセスに、地域住民のかかわりが持てる雇用の場を作ることです。少量の雇用単位が集合すれば、中人数雇用につながります。
子供を持つ母親世代の就職先も、子供の学区内ならば子供に目が届くでしょう。職住近接の地域づくりは都市近郊型農業によるコンパクトタウン、スマートタウン構想につながると思います。希薄な地域住民の相互関係から、災害からの減災、防災に耐久力ある自助、公助、互助、双助へと、意識の改革と行動を期待できるでしょう。
 後継者問題についても、集落営農をより多く展開しその集落営農の中で担い手を発掘することで解決を図ろうとしています。

 農業機械類の高額さは、農産品の高額化を下支えしています。高額な農薬・肥料も同様です。ここでは国による思い切った政策を期待したい部分です。一部、動き出していますが・・・。農家は、治工具の発明家です。様々な工夫で農作業の治具を手作りします。また、簡単な器具は自分で修理をし、近隣の農家から修理を請け負う農家もあり、これらはスキルの宝庫です。心ある農家、農民は、良い意味で覚醒しています。スマートファーマーと言えるでしょう。
 土壌力をつけるためには、耕地の天地返し(表土と底土を180度入れ替える作業)をして、土壌の殺菌と通風、堆肥のすき込みをする農家も多くあります。このように、手間をかけることを惜しまずに土づくりをする篤農家が、本来の農業生産の担い手と言えるでしょう。
肥料は、有機肥料を使う農家と、化学肥料を施肥して成長を促成させる農家が混在しています。肥料を施し過ぎて、疫病が発生する畑の作物も散見します。雑草が茂ると、ゴミをポイ捨てする人が増えます。そのため、雑草駆除を除草剤に頼る農家も数多くあります。通行する自動車の窓から、田圃へコンビニ弁当や飲料をいれたゴミ袋を捨てる、心無い事例は数多く目撃します。

 野菜工場は、設備投資が高額になります。都市近郊型農業には大規模な野菜工場は不向きだと考えています。作物、LED照明、空調設備、配水菅、自動化機械など投資効果をよく吟味しないと失敗の可能性があるのではないかと思います。
物流は、農作物を消費者にいかに届けるかの視点で考えます。販路開拓です。都市部のスーパーマーケットに届く物流は、規模の経済性で支えられています。多くの情報と労働力、ロジスティクス技術を充実させて整備されてきています。
むしろ朝市の活力に期待しています。朝市の売り子は、近郊の高齢者を雇用します。野菜の育て方や調理力ある販売員による、顔の見える対面販売が期待できます。店舗は、製造場所に至近距離の職住近接。大量販売は必要なし、売切れたら閉店OKです。フレキシブル勤務の究極の姿でしょう。

海外との交易は、現地化で対応できます。不足する農産物は適材適所生産に徹すれば、世界最適生産、世界最適開発、世界最適販売が実現します。
持続可能な農業の未来は、大規模集積農場と都市近郊農業との共生で考えるべきでしょう。農業改革は農業の多様性を尊重できるかの視点です。
さて、これら農業にベンチャービジネスのチャンスを見出すとしましょう。産業分野のヒントは、農作物生産(一次産業)+農作物の加工(二次産業)+加工品販売(三次産業)+農レストラン(三次産業)+民泊・民宿(三次産業)=1・2・3・3・3の十二産業。
私が産業人としてインキュベーションマネジャーとして携わってきた産業分野を例にすれば農業の基盤である土、水、空気要素各々の成分チェッカー、清浄化の技術開発、野菜工場におけるメカトロニクス応用技術、ロジスティクス分野の産地直送と有機肥料、海外産地との協働は、魅力ある産業の香りがそこかしこ。ベンチャーの芽が無尽蔵にあると考えています。
はるが来た!はどこかのTVドラマの話。トランプが来た!!は新たなグローバル秩序の始まりか?農が来た!は食の安全安心快適が期待できる時代の到来です。

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