Members Column メンバーズコラム

栗園にて

能勢でお手伝い

神牧 智子 (大阪府立茨木西高等学校)  Vol.698

 2年前の秋の夕べ、食事を終えて居間でくつろいでいると夫から「ニュース番組で見たのだけど」と前置き。能勢での栗栽培を学ぶ里山技塾の紹介が放映され、自分も学んでみたいという。退職後は能勢で栗をつくってみようかなと。
「農業は体はきついし、一人で作業していたら寂しいものだよ~。」口では疑問視しつつも、Zoom面接の手伝いをしたり、開講式について行ったり。自分でも興味はあったのだと思う。

 その12月、開講式に行く途中、野間の大けやきに立ち寄って、その巨木ぶりに驚いた。その頃はヤドリギがたくさんけやきに棲みついて冬なのにこんもりとした山のような風情であった。受講には不安があったが、この天然記念物の大けやきに出会って「まだ知らないいいことがたくさんある」と思えてきた。
 能勢の地の魔法に、かかってしまったのかも・・・。

 講座はいずれも午後から半日で、能勢町の東郷地区で栗農家を営む西田彦次さんを講師として翌年9月までの10回、栗の剪定、種栗の播種、接ぎ木、苗の育成、草刈や病虫害の防除など栗園の管理を学ぶ。能勢では山のふもとから中腹の斜面に形成された栗園を含む景観やそこにある栗園を「栗山」と呼ぶのも初めて知った。私は学校事務室に転勤したばかりで、肝心の春講座に参加できないことが続いた。夫は西田さんの栗山からの景色をたいそう気に入って、講座のない日も「お手伝い」と称して休日を能勢で過ごしたがっていたため、それに付いていくたび補講をしていただけた。結果的にお手伝いついでに、西田さんに栗栽培やそれに伴う農作業、山椒、梅やすももの収穫、里山の楽しみ方を目いっぱい教えていただけたのはラッキーだった。

 しかし夏が近づくと、作業量が増え体がだんだんきつくなってくる。腰をかがめて苗木畑の草を削ったり、山積みの堆肥を小分け袋に詰めて畑に運んでは撒いたり、晴天下での草刈機は30分もすると滝汗で、お茶を飲んでも汗が噴き出すばかり。
 能勢のくらしの本質に、一歩近づいたのかも・・・

 6月、作業の終わりに、西田さんが苗木畑の一角を耕しておいたから何か植えやーと急におっしゃられた。いわれるままに直売所に行くと、能勢高校の苗でキュウリ、ナス、サトイモ、甘長トウガラシが出ていたので2つずつ買って戻り、スコップや備中クワで畝をたてて誠に適当に植え付けた。これが一坪畑の始まり。

 夫はキュウリが一週間で大きく成長するのを妙に面白がって、メジャーで測っては35センチ!新記録だと喜んでいる。そして西田さんにそれをあげると言ってきかない。驚いたことに西田さんはニッと笑って、ありがとう!とバケモノキュウリを受け取ってくれ、次に会ったときはトウガンみたいに炊いて食べたら、おいしかった!と言ってくれた。一坪畑はそれからメキメキと収穫をあげ、講座以外の日に私たちが能勢へ足を運ぶ、そしてお手伝いをする原動力となった。
 能勢の小さなたくらみに、はまったのかも・・・

 お手伝いには同期生、先輩卒業生が参加し共に作業をするのも楽しい経験だった。とにかくみんなでやると一日で見える成果も大きくやりがいもある。同期生は町外の人ばかりで、バックボーンもいろいろ。西田さんはよく、「銀寄栗は人寄栗」というけど、かつて高校園芸同好会で畑作業の孤独をかみしめていた私にとっては革命的ですらあった。これがブランド力というものか。あの大けやきもヤドリギを取り払ってもらい、青々と枝葉を茂らせて、また人を惹きつけていた。
 能勢の宝にほだされて。ミーハーもまた楽し・・・

 夏真っ盛りのあるとき、お手伝いのあとに、西田さんが、胸まで草が生い茂る栗園に案内くださった。ここを、よくお手伝いに来てくれている方々でやってみるのもええわな、と。そう、私たちの卒業は9月。卒業してからのことを、それぞれもう考えなくてはならない時期にきていた。しかし悩む前にまず草刈!草が茂っていたら栗が落ちていても見えないので、夏の終わりは草刈、草刈、草刈・・・ 

 9月後半からは一気に栗収穫の時期がきて、朝と夕方にあっちの栗園、こっちの栗山、と、とにかく落ちている栗を効率よく集めていく。よく手入れされ、葉も大きな栗の木からは大きな栗がたくさんとれる。そして稲刈り、柿仕事、ゆずの収穫。秋の夕暮れ時は、空気がどういうわけか金色かかってみえる。そして長い影法師・・・

 まだ見習いの私たちは、お手伝いをしながら、5人でひとつの栗園を借りることになった。夏に胸まで草が伸びていたあの場所である。何か覚書みたいなのを考えてとの依頼もあり、都市住民が農家の指導を受けながら栗栽培を体験することにより、能勢の里山景観の保全につなげる内容の覚書を考えた。これなら地主さんも安心して場を提供してくれるだろうとなり、ほかにも耕作をやめていた畑を整備した畑を借りることができた。

 大けやきにアオバズクが子育てに来る季節となった。今も週末は能勢へお手伝いと自分たちの栗園や畑の手入れに行く日々を忙しく送っている。そして栗山には皆で新しい栗や果樹の苗を植えた。新しい木に実がなるのはまだ先。それまでは畑でおいしいものがつくれるとよいなと思いつつ、まだ魔法にかかったまま、草と虫取りに追われている。

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