Members Column メンバーズコラム

真夏の夜から始まった、前代未聞の大会議

林和弘 (まちの行政書士事務所)  Vol.176

林和弘

ちょうど1年前の、今頃の出来事です。
あるプロジェクトの責任者だった私が、主だったスタッフを集め、宣言しました。
「10月の終わりに○○体育館で集会やるよ。」「満員にしてびっくりさせようよ。」
間髪入れず、「冗談言わないでくださいよー。」「まじっすか?」の声。
その後、数秒続く沈黙。
互いに顔を見合わせるスタッフ達。
その前で、勝ち誇ったような顔で黙っている私。
「できる訳ないじゃないですか。」「前例ないし。」「どうやって人集めるんですか。」
その場の空気が、だんだん悪く、そして重くなっていく。
「おもしろいよ。やろうよ。大丈夫。」
またもや沈黙。
にやにやしながら、さらに私が説明しました。

「パイプ椅子並べずに、地べたに座ってもらおうと思うんだよ。」
「お客さんには、自分で『座布団』か『ビニールシート』持ってきてもらって、好きな場所に座ってもらおうよ。」
「みんな想像してみてよ、体育館の真ん中のステージを取り囲むように、沢山の人が、座布団やピクニックシートを敷き詰めて座り込んでいる光景を。」
「カラフルだよ。」「花見みたいだよ。」「おもしろそうでしょ。」
ちょっと長い沈黙の後、スタッフがポロリと一言。
「まあ‥。おもしろいかもしれませんね。」
「でしょ。」と、すかさず私。
市街地の外れにある、うちの市で一番大きな体育館。
バトミントンコートなら16面。武道場なら6面。バレーボールコートなら4面。
パイプ椅子を並べたら、5000人が収容可能。
地方の町で、平日夜の1時間だけのイベントに、無理矢理人を集めるという、「前代未聞」、「言語道断」、「空前絶後」の「特大座布団会議」は、こんなやりとりから動き出したのです。

そして、その後2ヶ月の間、私は、ほぼ放ったらかしの状態にしていました。
最初は戸惑い気味だったスタッフですが、集まってそれぞれの役割分担を決め、自分で勝手に考え、自分で動き出しました。
例えば、外回り担当の者は、「特大座布団会議」の意義や面白さを、遠くまで出かけて行っては熱く語り、参加のお願いをする。
また、設営担当の者は、会場の下見から始まり、配置図を書いたり、会場整理のボランティアの段取りを付けたり、看板の発注をしたり。
イベントのために、新しく購入した物といえば、参加者の靴を入れるポリ袋と、会場スタッフが、当日やりとりをするためのトランシーバー(10台)だけ。
あとの物は、すべて借り物か、自分たちの手作りで済ませたことには、私自身も非常に驚きました。

そして迎えた当日の夜。
開始1時間半前に、会場入りした私は、また驚きました。
体育館中央に設営されたボクシングリングのような舞台。大きな看板。整然と設置された音響スピーカー。そしてその間を、忙しく動き回っているスタッフ達。
細かい確認や、打ち合わせをする間もなく、しばらくすると、スタッフに誘導され、手に手に座布団を抱えた人たちが、入り口からぞろぞろと入ってきました。
お年寄りの夫婦。スーツ姿のサラリーマン。若いお母さん。作業着姿のお兄さん。などなど。皆んなが思い思いの場所に座っていきます。
体育館の、ほぼ端から端までが、座布団とピクニックシートで、埋め尽くされました。
最終的な入場者は、約1500名。
参加者の事前確認もなし、当日受付も設置していないので、正確な人数は不明です。
体育館の2階から見ると、床がまるでカラフルな絨毯のように見えます。
いよいよ、午後7時。
テレビ番組「情熱大陸」の主題歌とともに主役が登場し、「特大座布団会議」が始まりました。
全国からこのイベントのためだけに駆けつけたゲストたちの力のこもったスピーチ。
主役の女性と、会場の参加者とのガチンコ質問のやりとり。
そして最後は、思いを乗せた、20分間の大演説。
演説終了後、司会が会の終わりを告げ、小田和正の曲を流すと。
参加者は、潮が引くように帰っていきました。
その間、約1時間。

参加者の誰もが、ほとんどしゃべらず、整然と出口に並び、そして外に出て行く様子は、とても印象的だったことを、今でもよく覚えています。
後片付けをし、体育館を元の何もない状態に戻してから、現場で簡単な報告会をしました。
スタッフ達は、とても満足そうで、いい顔をしています。
「会場の外で、いろんな人に“良かった”って声をかけられた。」「感動して泣いてる人もいた。」「なんか大事な物を、早く家に持って帰ろうとしているように見えた。」
そんな話を、スタッフから聞きました。
今、振り返っても、参加した人の心に残り、スタッフ達にも、良い経験や自信が付いた、いい催しだったと思っています。
人と人が一同に会し、思いが集まり、そして何かを得、感じることの素晴らしさ。
人と人がつながる喜び。人が本来持っているチカラの大切さや可能性。
この寄稿を機会に、自分自身が、改めて感じています。
あの夜、あるテレビ局の記者が、私に近づき、しみじみとした口調で言いました。
「良かったですよ。皆んな良い表情してましたね。なんか夢を見てたような気分ですね。」

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