Members Column メンバーズコラム

セルロイドとJCII

荒川一聡 (一般財団法人化学研究評価機構)  Vol.355

荒川一聡

みなさん、はじめまして、一般財団法人化学研究評価機構(JCII)の荒川と申します。この2月よりKNSメンバーに加えていただきました。よろしくお願いします。
さて、私が所属しております高分子試験・評価センターは、プラスチック材料、製品の試験や検査をおこなっている部門です。セルロイド検査協会として昭和24年に発足し、今年の6月で68年になります。
昭和24年は、1ドル360円の単一為替レートが設定され、湯川秀樹氏がノーベル物理学賞を受賞された年になります。セルロイド製品の輸出検査(櫛、めがね枠、人形、文房具など)をするために設立されました。輸出検査では、港に出向くこともあり保税倉庫にある輸出貨物の品質確認し、合格証明書を発行し、合格ラベルを貼付して輸出品の品質チェックをしていました。今回のコラムでは、私どもの立場からセルロイドについてご紹介させていただきます。

(セルロイドの歴史)
セルロイドが日本に入ってきたのは明治10年(1877年)ドイツから神戸に輸入され、珊瑚玉に加工されて販売されたことが起源とされています。セルロイドの原料である樟脳は、日本に多く生育していた楠木から採取できることから、セルロイド生地の生産が盛んになり、昭和12年には加工技術の向上とともに生産、販売量、輸出量も最高を記録します。戦後は石油由来のプラスチックが開発され、輸出検査もセルロイド製品からプラスチック製品の製品(硬質塩化ビニルおもちゃ、文房具、波板、軟質塩化ビニルおもちゃ、メラミン樹脂化粧版、合成樹脂製くし、すだれなど)に移行してきました。弊機構がまとめた輸出集計(F・O・B金額)では、昭和34年から昭和35年にかけてセルロイド製品は14億円強と変わりませんが、プラスチック製品は7億円弱から30億円4倍以上増加しています。輸出検査実績も3万件から3万8千件に増加しました。製造する企業も昭和34年に筒中セルロイド(株)が筒中プラスチック工業(株)、滝川セルロイド(株)からタキロン化学(株)に社名を変更されています。昭和35年は国内では池田勇人内閣誕生、軟質塩化ビニルおもちゃ製のだっこちゃんブーム、海外では米国大統領選でケネディ氏が当選しました。その後、次々と石油由来のプラスチックが開発され、セルロイドの生産は減少し、セルロイド生地も昭和45年に輸出検査の指定検査品目から削除されました。現在、市場にでまわっているセルロイド製品は、ギターのピック、ゴルフクラブのソケットなどが残っています。

(セルロイドの特徴)
○ セルロイドの長所
質感、光沢、奥行、吸水性が有り
○ セルロイドの短所
可燃性:可燃性が高く燃えやすい。170℃以上で自然発火
耐久性:耐久性が低く劣化しやすい。
耐候性:光などで劣化する。

(大阪セルロイド会館)
セルロイド検査協会大阪支部は、セルロイド加工業の中心であった大阪市東成区今里にある大阪セルロイド会館に入居し、平成12年に東大阪市立産業技術支援センターに移転するまで、セルロイドの輸出検査に始まり、プラスチックの製品検査を実施してきました。
 大阪セルロイド会館は櫛会館として昭和6年に北館が、昭和12年に南館ができました。セルロイドの全盛期であり、鉄筋コンクリート3階建て、北館の支柱と曲線美、南館の庇やスリット窓・丸窓など幾何学的な意匠から昭和初期のモダン建築様式が建物のあちら、こちらで見ることが出来ます。戦争中には屋上に高射砲が設置されていましたが、戦後財団法人セルロイド会館として再出発し、平成13年に文部科学省に登録有形文化財として認可されました。
現在の大阪セルロイド会館には、関西セルロイドプラスチック工業協同組合、一般財団法人日用金属製品検査協会などの法人事務所として幅広く利用されており、セルドイド製品展示室を設け、自由にセルロイド製品の見学できます。

(セルロイド製品展示室)
セルロイド製品展示室を改めて見学し、同会館事務局長の神代勲氏から、セルロイドのお話をお聞きしました。
「セルロイドは、ニトロセルロース(綿等のセルロースを硝酸と硫酸との混酸で処理)と樟脳を混ぜて作った合成樹脂(硝酸セルロース)を原料に、大量生産された最初のプラスチックです。原料の二トロセルロースは鉄砲につめる火薬なので大変危険です。セルロイド生地の製造は、ニトロセルロース、樟脳、アルコールを混練し、あめ状にし、伸ばして板状にしたものを重ねて、加熱圧縮して生地ブロックを作成。生地ブロックをスライスし、乾燥させて、さらにステンレス板で挟み込み加熱圧縮させて艶をつけて出荷している。
生地の絵柄付けは、色事に裁断した生地を重ね合わせて加熱圧縮させます。特にべっ甲柄は斜めに生地を重ねて加熱圧縮し、スライスすることにより絵柄をだします。さまに職人技です。
セルロイド製品は、櫛から始まり、めがねフレーム、歯ブラシの柄、ギターのピック、筆箱、ピンポン玉などがあり、キューピー人形など人形には職人が一体ごと絵付けをしている。
生産は昭和12年をピークにセルロイドの弱点である発火しやすいことから、石油系のプラスチックにかわってきたが、セルロイド製品の代表であったピンポン玉も航空機で輸送するのが難しくなり、セルロイドからABS樹脂などに代わり、今はルフクラブのソケットぐらいになった。」
展示室には上記製品が多数展示されており、また、色見本、絵柄見本も拝見させていただいた。
展示ケースの上には海軍大臣吉田善吾、陸軍大臣畑俊六と記名された昭和14年当時の感謝状が掲示されており、戦火を免れてよく残っていたものと関心しました。神代事務局長いわく、「空襲にもあわず、会館の大型金庫の中から感謝状など出てきたが、お金は出なかったのが残念」とのこと。

(まとめ)
セルロイドは、加工しやすく、とても日本人の職人気質にあった材料であり、べっ甲に変わる新たな資材として一大産業にまで発展しました。しかしながら、弱点である燃えやすさから石油由来のプラスチックに変わってきたが、プラスチック産業の礎に大きな貢献した。
私どもの業務内容も、セルロイド製品の検査から石油由来のプラスチック製品の検査へ変わり、新たな材料、製品化への対応、安全性へと変わり、業務変化とともに名称もセルロイド検査協会、日本輸出プラスチック検査協会、日本プラスチック検査協会、高分子素材センター、化学技術戦略推進機構、化学研究評価機構に変わりました。名称からも業務内容がわかりにくくなっており、セミナーやラボ見学などを通じて私どもの業務をご紹介しております。弊機構HP(URL:http://www.jcii.or.jp/)で随時ご案内しておりますので、ぜひご参加ください。
また、セルロイド製品、身近な文化財にご興味、ご関心がありましたら、一度大阪セルロイド会館(URL:http://ebisu.softeng.co.jp/cellukaikan/)に立ち寄ってみてください。地下鉄今里駅から徒歩3分ぐらいで今里区役所のすぐそばです。

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