Members Column メンバーズコラム
KNSの人たちが読んでそうで読んでなさそうな本×6
増田隆一 (株式会社モノリス) Vol.575
コピーライターとは職業ではない。生き方である。・・・・・そんな書き出しで自分の肩書であるコピーライターの仕事について書こうと思いましたが大したことが書けそうにないので、表題のスタンスで今の時代にあっていそうな本をピックアップ。ご紹介することにしました。ちなみに冒頭のフレーズは大沢在昌「佐久間公シリーズ」内の一節「探偵とは職業ではない。生き方である」からのモジり。かっこいい言い方なので時々パクリ、もとい使います。へへ。みなさんも職種名のところを変え、「大学教授とは職業ではない。生き方である」とか、「図書館司書とは職業ではない。生き方である」とかなどとお使いください。KNSの人なら結構しっくりくるかも。では、本題のスタート!
●1冊目:「やめないよ」三浦知良(新潮新書)・・日本サッカー界で唯一、王の称号を持つ三浦カズ。KNSの多くの現場大好きの人と同じように今も現場最前線=現役プレーヤーである彼が日経新聞などの連載コラムを再編したうちの1冊。彼はサッカーだけでなく文章もうまい。というか視点がシャープかつやさしい。例えば「ケーキを買う人はみんな笑顔だ。不幸な顔をしてケーキを買いに来る人はいない」「変わらないねとよく言われる。ただ変えてきたから変わらずにいられるとも言える」「負けられないと心の底から思うとき、自然と足が伸び、体は動くものだ」などなど。本当にまっすぐでいい人だと思う(一度、仕事でお会いした時の何気ない行動にその一面を目の当たりにした。あれは人生の宝物が生まれた瞬間。お仕事なのにサインももらったぜ。へへっ)。
●2冊目:「ワールドウォーZ」マックス・ブルックス(文春文庫)・・ブラピをひたすら格好良く撮っただけの映画の原作だが、内容は全く違う。コロナと違い人に噛まれたら即感染のゾンビ化ウイルスが世界中に蔓延するなか、父や母は/兵士は/司令官は/国家は/人類は、どう家族や社会、国を守り秩序を回復させるべく戦ったのか。米国、中国、キューバ、日本、ロシア、イスラエルと様々な国と国民を登場させ、そこにそれぞれの国の歴史観や国防や風俗に根ざした国家の戦中&戦後の動きが加わり、ストーリーを分厚くする。元々はゾンビとの戦い方を真面目にマニュアル化した名著「ゾンビサバイバルガイド」から生まれた物語。当然、コロナ禍には全く参考にならない。コロナもヘッドショットでやっつけられたらいいのに。ちなみに同じウイルス系ゾンビ映画「アイ・アム・レジェンド」も原作レイプ。古典SFの超名作なのに、大切な主題をバッサリいかれてた。ホンマ、噛んだろか。
●3冊目:「TOKYOオリンピック物語」野地秩嘉(小学館文庫)・・もちろん2020のそれではない。戦後19年目の1964。あの時代に生きた人たちの思いはひとつ。戦争で崩壊した日本が復興したことをどう世界に示せるか。お国のため。そんな言葉が嫌ならば未来のため。日本のオリンピックを成功に導くために、強い意思を持った人たちが持てる創造力を駆使し、訪れる外国人へのホスピタリティとジャパンプライドを見せようと知恵を絞る。本書で取り上げたのは、警備、選手村の食事、ポスター、ピクトグラム、記録映画・・・。思えばあの時も大きなテーマはおもてなしかも。そしてこのオリンピックをきっかけにさまざまな事業が起業&確立し文化の新潮流が生まれた。日本人の底力と潔さをシンプルに感じさせる一冊。
●4冊目:「島はぼくらと」辻村深月(講談社文庫)・・瀬戸内の架空の島が舞台。装丁を見ると明るい学園小説。実際、高校生の彼女ら彼らが中心となり話は紡がれていくが、描くのはもっと大きくてちっぽけな社会のこと。御多分に漏れず島は人口減。どのようにして移住者を増やすか、地方創生の考え方と動きを交えながら、島のしきたり、Iターンでやってきた人たちの思い、さらには主人公の高校生たちを通して「日本人にとって、ふるさととは何か」を地に足ついた人の目線で教えてくれる。小説的にも上質のミステリーのように配置したピースを上手に回収し、ひとつの幸福な絵に仕上げていく。登場人物にこの人はKNSでお会いしたあの方、この方と当てはめながら楽しめるオマケ付き。
●5冊目:「墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便」飯塚訓 (講談社+α文庫) ・・1985年8月12日、御巣鷹山に墜落した日航機の520人の遺体。ヒトの形をとどめない身元確認がどのように行われ、そこで何があったのか。医者、警察官、検視官、赤十字の女性看護士、ボランティア、そして遺族。遺体が腐敗していく時間、終わらない仕事による疲労、肉親を探し出せない焦り、遺族の気持ちに応えられないつらさ。ギリギリのところに踏みとどまり、遺族の悲しみと憤りと逆らえなかった運命に同化し、使命を全うしようとする人々の意志の強さ、やさしさ。私の医療関係者の方々へのリスペクトと感謝はこの本から始まった。
●6冊目:「ノー・ノー・ボーイ」ジョン・オカダ(旬報社)・・日米開戦後、不条理に家も暮らしも財産も市民権も奪われ収容所に入れられた米国籍の日系人たち。そこで合衆国陸軍より日本への忠誠を全放棄し敵が誰であっても米国軍人として戦うか否かを迫られ、ノーの男子は投獄された(イエスの人は442日系部隊で欧州へ。最前線で擦り潰された。この物語は「栄光なき凱旋」真保裕一/絶版がおすすめ)。筋の通らない仕打ちを米国から受け、俺は誰だと自問自答し、ノーと答えるしかなかった気持ち、それでもイエスと答えた気持ち。今、差別と区別がごっちゃになったり、ヴィーガンやLGBTなど新しいアイデンティティや“立場”が生まれる現代社会において、この小説はひとつの“考える素材”になるのではないだろうか・・・と後付けの小理屈からひねり出した最後の本のご紹介でした。
以上、6冊。お付き合いありがとうございました。