Members Column メンバーズコラム

新潟・佐渡への一人旅

松田きこ (株式会社ウエストプラン)  Vol.266

松田きこ

北国に行くなら冬がいいと聞いたことがあります。寒いのが苦手なため、そんなことはないと思っていましたが、今年の1月半ば、初めて新潟・佐渡を訪れることになりました。
出張先の東京から乗った上越新幹線はスノボに向かう青年たちで賑わい、私はといえば、午後1番にアポをとっている佐渡でのインタビューに間に合うのか、島に渡れるのか頭がいっぱいでした。天気予報は吹雪で、新潟港から佐渡島に渡る高速艇ジェットフォイルが運航するかどうかわからなかったのです。軽井沢や湯沢あたりの車窓から見えるのは一面の雪景色。そのうち雪がなくなって、ビルが見えてきたと思ったら新潟駅です。肩透かしをくらったような街の景色でした。除雪された雪が道端に残っているものの、寒さはそれほどでもなく、女子高生はナマ足にハイソックスだし薄手のコートの人もいて、大寒波に見舞われた大阪の方がよほど寒かったのです。

新潟港から佐渡の両津港までは時速80kmのジェットフォイルで約1時間です。水上から浮き上がって走るので波に影響されない、とはいえ海はシケ状態で4mもの波。うねる波の暗い色を見ていると、かつて都から流された高貴な人々がこの海を渡った時の心細さはいかばかりだったろうと、仕事とはいえ半分は観光気分でいく身では想像もできないことです。
佐渡島はとても大きい島です。面積は大阪府の半分弱、両津港は島の東側中央辺りに位置し、そこからタクシーで目的地の小木まで向かいます。渋滞ゼロでも1時間以上かかったでしょうか。荒波が波の花をまき散らす光景は、冬の日本海らしい美しい景色でした。
目的地は、和太鼓芸能集団・鼓童の活動拠点、鼓童村。鼓童はその前身である佐渡国鬼太鼓座から数えて44年、和太鼓を中心とする打楽器で佐渡のみならず日本各地に伝わる芸能をベースに独自のパフォーマンスを展開しています。公演では世界47カ国を回り、主要メンバーは1年の3分の1は海外だといいます。
彼らが暮らし、修業をする場所でインタビューできるというのは幸運としかいいようがなく、稽古場から聞こえてくる和太鼓の音色に心地よさを感じながら、メンバーの温かさにふれることができました。インタビューを終える頃には日も暮れ、粉雪がぼたん雪に変わる中を宿に移動して、しんしんと降る雪の夜、一人旅の醍醐味を味わっていたのです。

翌朝、前の日と同じタクシーの運転手さんに「両津港までの道すがら観光ポイントに立ち寄ってほしい」と頼んでいました。が、荒天で船が欠航しており、早めに港に行って待機した方がいいとのこと。
せっかく来たのに、すんなりあきらめられません。わずかな時間でもと頼んで、船大工が建てた個性的な建物がある宿根木の街を駆け足で取材し、港に向かう道沿いにあるお寺や能舞台を撮影しました。前日通った時に絶対に酒蔵だと目星をつけていた建物があり、やはりそれは「真野鶴」を醸す尾畑酒造で、飛び込むと同時に試飲し、一番美味しかった大吟醸を買い求めたのでした。あまりの順調さに欲が出て、なんとか……と頼んだことがあります。
この旅でどうしても見たかったのが、天然記念物の朱鷺。佐渡島ならどこにでもいると思っていたのです。実際はそうではなく、到着してから出会った人は皆、この季節に野生の朱鷺に会うのは無理だと口をそろえました。タクシーの運転手さんも同じ意見でしたが、保護センターの近くで車を停めてくれました。降りたとたんに、頭上を鳥が…。見上げると冬毛で羽根の内側が赤く染まっている朱鷺でした。本物の朱鷺色をこの目で見ることができて大満足です。野生の朱鷺が団体で飛ぶ様子に、「滅多に見ないんだけど」という運転手さんが頼もしかった。
港に着くと、案の定、予約していた船は欠航。払い戻しのために窓口でチケットを出し、係員さんが手続きをしている時に後で声がしました。「運航!」とまぁ、本当に順調に流されるように過ぎた佐渡の旅。
この時の取材は、「関西人のためのはじめての新潟 旅文庫」という本になりました。
そしてまだまだ新潟との縁は続くのですが、このご縁からとしか言いようがない幸運な出来事が一つ。歌舞伎役者で人間国宝で、鼓童の芸術監督をつとめる坂東玉三郎さんを、別の媒体で取材する機会を得たのです。そのときに、真冬の佐渡に鼓童を訪ねたことをお話しできました。
さて、KNSらしいお酒の情報を忘れてはなりません。新潟では3月に2日間で12万人が集まる「にいがた酒の陣」というイベントがあります。県内の90もの蔵元が一堂に会しての試飲会です。冬は魚が美味しくて絞りたての日本酒も味わえます。北国に行くなら寒い季節、というのはまんざら外れてはいないようです。
さらに今年の7月からは越後妻有で3年に一度の「大地の芸術祭」、8月には佐渡で毎夏開催される「アースセレブレーション」という音楽祭があります。もちろん私はまた新潟へのチケットを手にしています。

PAGE TOP