Members Column メンバーズコラム
本は何冊同時に読む?
勝井典子 (関西大学) Vol.238
学校を卒業して、一番なりたかったのは編集者でした。できれば文藝春秋社あたりに入社して、著名作家を担当したり、雑誌をつくったり・・。でも、東京の大出版社がわざわざ地方の学生を採るとは思えず、結局、新卒でなれたのは新聞記者。活字の傍にいれるのは満足でした。
その後、紆余曲折を経て、現在、関西大学社会連携部で地域連携マネージャーをしています。光るシーズやコンテンツを組み合わせて、新たな価値をつくりだす ― 産学官連携は編集と似ているかも。昔やりたかった仕事が、今できているということかな、と思うこの頃です。
さて、本を読むのは、一度に何冊ずつですか?私は同時に3~4冊を平行読みし、その間に新聞、雑誌もあれこれこなします。読む予定の本も常に10冊ぐらい積んでいるので、家人には「情報過多で、オーバーフローしているのではないか」とあきれられています(速攻で反論済み)。いずれにせよ、自分は相当の本好きと思っていましたが、まだまだでしたね。元マイクロソフト社長の成毛眞著「本は10冊同時に読め!」 でわかりました。著者が主宰する書評サイトHONZには平行読み当たり前のツワモノがたくさん集っているようです。ただ、タイトル流用までしていて悪いのですが、同書自体はおすすめではありません。読書量と書くものの質は比例しないのだと、哀しく教えられました。
最近読んで面白かった本を紹介します。日本の古典も読んでいて、雑な文を読みすぎた後などは、まるで”お口直し“のように美味で有難いのですが、今回は世間で話題となった本から選びました。
・「暴露―スノーデンが私に託したファイル」グレン・グリーンウィルド著・新潮社
CIAから機密文書を持ち出し海外逃亡。一体何が目的なのだろう、とスノーデンには“変わり者”の印象しか持っていなかったが、それが一変した。スノーデンに直に接し、情報提供を受けたジャーナリストが、彼の素顔、報道までのいきさつ、米メディアの腐敗・癒着をズバリ。日本のメディアなどは癒着以前で、米メディア情報を転送しているだけだった。前半は映画ようにスリリングなの展開。3,4章はもたつくが、1,2,5章だけで価値あり。
・「ふしぎなキリスト教」橋爪大三郎×大澤真幸著・講談社現代新書2100
以前、ある宗教家の講演で「クリスチャンは、イエスが死後3日経って復活したと、本当に信じているんですよ」と聞いた。まさかと思ったが、個人差はあるものの、基本そういうことらしい。本書によると、仏教を信じるとは、シャカ族王子シッダルダの悟った真理を納得し、信じること(王子の生涯やエピソードも、概ね信じられてはいるが)。一方、キリスト教はイエスについての歴史的事実を信じることが根幹で、イエスの教えのみを信じるものではない。近代文明の由来ともいえるキリスト教は、実はかなり特殊な宗教だったのだ。気鋭の二社会学者による対談形式。刺激的な内容に賛否両論あるものの、「西洋」を理解するにに重要な手がかりを与えてくれることは間違いない。
・「犬心」伊藤比呂美著・文藝春秋
現代を代表する詩人が綴る、老い果てた13歳の犬(ジャーマン・シェパード)最期の日々。なんだ、ペットの話か思われるだろうが、これが読ませる。著者はカリフォルニアで異文化の夫と子供と犬とインコと暮らし、文筆業に忙しい。熊本の実家では、8年前に母が病院で寝たきりになり、以来、90歳近い父は独居状態に。介護のためカリフォルニア1ヶ月半、熊本半月のペースで行き来する。老いの孤独、無残、介護の現実が、容赦なく書き記されている。ユーモアあるのが救い。繰り返すが主人公はタケで、父のことは全体の1割ほど、父の飼い犬ルイについては15%ぐらい(どういう割合だ)。しかしこの構成が肝で、浮き彫りにされるのはやはり人間 = 父、著者、家族たちだ。ラスト、泣いた。
字数なくなってきたので、以下は簡単に。
・「資本主義の終焉と歴史の危機」水野和夫著・集英社新書
今頃になってマルクスに入門した私へ、偶然にも2人の知識人が別々に本書を薦めて下さった。こういう視点があったとは!
・「ホテルローヤル」桜木紫乃著・集英社
北国のラブホテルを舞台に、訪れる客、経営者家族、従業員らそれぞれのやるせなき心情・境遇を描いた連作短編集。冒頭1、2編は少し期待はずれだったが、段々と盛り上がり、7編が見事に繋がる頃には、さすが直木賞作品と納得。
・「GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代」アダム・グラント著・三笠書房
ペンシルバニア大・ウォートン校史上最年少終身教授である組織心理学者が明かす成功の原則。実証に基づいた学術論文が多く引用され、よくある成功本と一線を画す。翻訳は、競争戦略とイノベーションが専門の一橋大学院教授。