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台湾の地域活性化、商店街をデザイン志向で価値を変える挑戦

長坂 泰之 (流通科学大学 商学部 教授)  Vol.817

この夏、台湾デザイン研究院(TDRI)との交流のため台湾を訪れました。台湾デザイン研究院は台北の松山文創園区に拠点を置き、デザインを産業振興だけでなく、公共サービスや地域づくりにも活用している組織です。
今回、台湾デザイン研究院とのシンポジウムで、私は仲間3人と共に日本の商店街・地域再生やエリアマネジメントについてお話ししました。その議論の中で感じたのは、日本と台湾では同じように「地域を元気にする」ことを考えながら、そこへの入口が少し違うということでした。
日本で商店街や中心市街地の再生を考えるとき、近年よく使われる言葉が「エリアマネジメント」です。個々の店舗だけを支援するのではなく、地域全体を一つのエリアとして捉え、商業者、住民、行政、企業などが連携しながら、公共空間の活用、イベント、空き店舗対策、情報発信などを継続的に行っていく考え方です。
一方、台湾デザイン研究院が強く打ち出しているのが「デザイン」の力です。
ここでいうデザインは、単に看板をきれいにしたり、おしゃれなロゴをつくったりすることではありません。地域にすでに存在している歴史、文化、商い、人々の暮らしをもう一度見つめ直し、それらを編集して、地域の新しい価値として見せていく。店舗、商品、サイン、公共空間、情報発信、そして来訪者がその街で過ごす時間までを含めてデザインしていこうという考え方です。
両者には、それぞれ長所と弱点があります。
エリアマネジメントは地域の人たちが主体となるため、うまくいけば活動が持続します。しかし、多くの関係者が参加するほど合意形成には時間がかかります。「みんなが賛成できるもの」を求めるうちに、尖ったアイデアが出にくくなることもあるかもしれません。
反対にデザインは、それまで地域の人たち自身も気づかなかった価値を発見し、それを一気に「見える化」する力があります。ただ、優れたデザイナーが入って素晴らしい空間やブランドができても、その後、誰がそれを運営し続けるのかという問題は残ります。
言い換えれば、エリアマネジメントが「誰が地域を動かし続けるのか」という仕組みに強いのに対し、デザインアプローチは「その地域の価値とは何か。それをどう見せるのか」に強い。
どちらか一方ではなく、この二つを組み合わせることができたら素敵ではないか。
そんな中で、台湾デザイン研究院(TDRI)の実践例として訪れたのが、台北郊外の平溪です。
平溪といえば天燈、いわゆるランタンで有名です。願い事を書いた大きな天燈が空へ上がっていく光景は、日本でも台湾観光を紹介する映像などでよく目にします。
実際に現地を歩いてみると、単に天燈だけではありませんでした。
天燈の背景にある地域文化を読み解き、それを街のブランドやサイン、店舗、回遊の仕組みなどへつなげようとしているように感じました。
天燈という「モノ」をデザインするのではなく、平溪という街を歩き、見て、体験することそのものをデザインし直そうとしているのです。
今回の台湾では、平溪だけでなく、台北市内の迪化街、永楽市場、中山・赤峰街、永康街など商業地も歩きました。
迪化街などを歩いていると、古い建物がかなり残っています。しかし、それを単に「保存」しているだけではありません。古い建物の中に新しいカフェや雑貨店、クリエーターの店が入り、昔からの乾物店や漢方薬店などと同じ街路に並んでいます。
古いものを壊して新しくするのではなく、古いものの使い方を変えることで価値を変える。
これもまた一つのデザインなのだと思います。
そして、台湾のまち歩きでもう一つ欠かせないのが「食」です。
台湾に行けば、とにかく食べる機会が多い。小籠包、麺料理、台湾料理、スイーツ、ドリンク、屋台料理……。街を歩いていると次々に食べ物が目に入り、少し歩いては食べ、また歩く。
しかし、これは単なるグルメの話ではないのかもしれません。
台湾では「食べること」が街を楽しむ重要なコンテンツになっています。日本では食事をするためにレストランへ行き、買い物をするために商業施設へ行くというように目的が比較的分かれているのに対し、台湾の商業地では「歩く」「見る」「買う」「食べる」が混ざり合っているように感じました。
その象徴が夜市です。
なぜ台湾の夜市にはあれほど人が集まるのでしょうか。
観光客が多いからというだけでは説明できません。夜遅くまで家族連れが食事をし、若者がドリンクを買い、仕事帰りの人が料理を持ち帰る。夜市は観光施設である以前に、地域の人たちの生活の場でもあります。
日本の商店街イベントで「夜市」を開催すると、それは年に一度、あるいは夏休みの特別なイベントになりがちです。ところが台湾では、それが日常の生活文化として存在しています。
この違いは大きいと思います。
もう一つ、台湾を歩いて気になったのが「アーケード」です。
日本の商店街では、いまアーケードの老朽化が大きな問題になっています。高度成長期につくられたアーケードが50年、60年を経過し、補修するにも撤去するにも多額の費用が必要です。商店数が減り、組合員が減少する中で、その費用を誰が負担するのか。全国各地で深刻な問題になっています。
ところが台湾の商業地を歩いていると、日本のように道路全体を巨大な屋根で覆ったアーケードはほとんど見かけません。
その代わり、建物の一階部分をセットバックさせた「騎楼」と呼ばれる歩行空間があります。強い日差しや雨を避けながら店舗を見て歩くことができる。もちろん段差があったり、バイクが置かれていたりして、日本人の感覚では必ずしも歩きやすいとは言えません。それでも、建物、店舗、歩行空間が一体になっています。
日本では商店街という「施設」をつくり、その施設を維持する発想が強かった。それに対して台湾では、商業空間がより街路や生活そのものと混ざり合っているように感じます。
大型商業施設を考えても興味深い違いがあります。
日本ではイオンモールに代表されるように、総合スーパーを核として専門店を集める郊外型ショッピングセンターが発展してきました。しかし、日本型の「スーパーを核にしたショッピングセンター」をそのまま台湾に持っていっても、必ずしも魅力的に映るとは限らないのではないかと思います。
台湾には街中に市場があり、飲食店があり、コンビニがあり、夜市がある。日常の買い物そのものが街の中に組み込まれているからです。
一方で、台湾で存在感を高めているのが三井不動産の商業施設です。アウトレットだけでなく、ららぽーとも展開されています。そこでは単に「商品を買う」だけではなく、飲食、映画、子どもの遊び、イベントなどを含め、「そこで時間を過ごす」ことが重視されています。
つまりレジャー性、エンターテインメント性です。
さらに面白いのが、日本の食品スーパー「ロピア」が台湾で受け入れられていることです。ロピアの売場は普通のスーパーとは少し違います。大容量の商品、肉や総菜の大胆な陳列、売場の演出など、見ているだけでも面白い。
食品を買うという日常行為の中にも、ちょっとした非日常がある。
そう考えると、台湾で評価されている商業施設には一つの共通点があるように思えてきます。それは「買う」だけではないということです。
「見る」「食べる」「遊ぶ」「発見する」「誰かと時間を過ごす」。
商業空間そのものが体験になっています。
これは日本の商店街にも、そのまま当てはまるのではないでしょうか。
便利さだけで競争すれば、商店街はネット通販や大型店にはなかなか勝てません。価格だけで競争しても同じです。
しかし、「そこへ行くと何か発見がある」「知らない店に出会える」「店の人と話ができる」「おいしいものがある」「歩いているだけでも楽しい」となれば、その街へ行く理由が生まれます。
今回、台湾の街を歩いて改めて感じたのは、地域活性化とは必ずしも「新しいものをつくること」ではないということでした。
そこに以前からある建物、商店、食、歴史、生活文化。それらの意味をもう一度読み直し、組み合わせ、見せ方を変えることで、人々の受け止め方は変わります。
つまり、「もの」を変えなくても「価値」を変えることはできる。
日本が蓄積してきたエリアマネジメントには、「人をつなぎ、組織をつくり、地域を動かし続ける」という強みがあります。一方、台湾デザイン研究院の取り組みからは、「地域にすでにある価値を発見し、編集し、人に伝わる形にする」というデザインの力を感じました。
この二つが組み合わされば、商店街や地域再生の可能性はさらに広がるのではないでしょうか。
地域を支える「人」と「仕組み」をつくる。そしてデザインによって、その街にしかない価値を見えるようにする。
台湾の街を歩き、商店をのぞき、そして少々食べ過ぎながら、日本の商店街にもまだまだできることがある。
そんなことを考えた今回の台湾訪問でした。

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