Members Column メンバーズコラム
大阪から世界へ~100年のものづくりの精神を自社商品shitatariにのせて~
中川裕之 (中川鉄工株式会社) Vol.791
みなさま
こんにちは
大阪市は城東区で旋盤加工という技術を1917年の曽祖父の創業以来、ずっと継承して営業しております中川鉄工株式会社の中川ひろしと申します。所謂町工場の長男でして、4代目に継承して15年ほど代表を務めましたが、2024年に弟に引き継ぎ今は取締役会長を拝命いたしております。2014年にこのコラムを初めて執筆させていただき、今回で6回目の執筆となります。今年度は十分継続させていただく出席があったにも関わらずです。まあ、頼まれごとは試されごと。快くお引き受けいたしました。
はじめに:フランクフルトの風を感じて
つい先日、私はドイツ・フランクフルトで開催された世界最大級の消費財見本市「アンビエンテ2026」への出展を終え、帰国したばかりです。帰国早々は時差ボケも冷めやらぬまま、そしてめっちゃ疲れました。今の私の心にあるのは、言葉にできないほどの高揚感と、改めて突きつけられた「ものづくりの本質」への問いです。
100年の歴史、薄肉旋盤加工へのプライド
中川鉄工は、大阪市城東区で100年以上続く精密金属加工の会社です。創業以来、私たちはひたすら「精度」を追い求めてきました。特にステンレスなど、加工が難しい「難削材」をコンマ数ミリ、時にはそれ以下の薄さまで削り出す旋盤技術には絶対の自負があります。しかし、長年BtoBの世界で、図面通りの部品を完璧に納めることだけに集中してきた私の中に、数年前、ある思いが芽生えました。 「この極限の技術を、直接使う人の感性に届けられないか?」 その問いから生まれたのが、ステンレス製の酒器ブランド「shitatari(したたり)」です。このshitatariはKNSの世話人である堂野様にご紹介いただいたプロダクトデザイナー鈴木康祐氏とのコラボ製品です。
「shitatari」が繋いだG7と世界
2023年、G7大阪・堺貿易大臣会合で「shitatari」が公式の贈呈品として採用されたことは、私たちにとって大きな自信となりました。熟練の職人が一点一点、飲み口は薄さ0.9ミリまで削り出したその酒器は、日本酒の味わいをダイレクトに伝え、五感を研ぎ澄ませます。そして2026年2月。私たちはついに、世界市場の登竜門であるアンビエンテの舞台に立ちました。 会場で驚いたのは、ヨーロッパの方々の「クラフトマンシップ」に対する敬意の深さです。私たちのブースに立ち寄ったバイヤーやデザイナーたちは、器を手に取り、その軽さと、指先に伝わる金属の質感に驚嘆の声を上げました。 「これが、100年続く日本の小さな工場の技術なのか」 その言葉を聞いた時、城東区の工場の景色と、日々機械に向き合う職人たちの顔が浮かびました。私たちの技術は、言葉の壁を超えて世界に通用する。それを確信した瞬間でした。
産学官民連携、そしてKNSの精神
このアンビエンテへの挑戦も、決して私一人で成し遂げたものではありません。プロダクトデザイナーの鈴木康祐氏(Breath.Design)との緻密なセッション、海外展開を支えてくれた支援機関、そして何より、日々の現場を守ってくれる社員たち。 これは、まさにKNSが掲げる「産学官民連携」の形そのものです。自社に閉じこもっていては、世界の見本市に出るという発想すら湧かなかったかもしれません。異業種の方々と酒を酌み交わし、「それ、おもろいやん」「世界に出ようや」と背中を押し合う環境があったからこそ、今の中川鉄工があります。 アンビエンテの会場でも、世界中の挑戦者たちが互いの技術を称え合い、新しいビジネスの種を蒔いていました。あの熱気は、まさにKNSの定例会で感じる「フラットで熱い交流」に通じるものがありました。
伝統を「滴らせる」未来へ
「shitatari」という名前には、一滴の雫が波紋を広げるように、私たちの技術が誰かの心を震わせてほしいという願いを込めています。 アンビエンテで見つけた課題もたくさんあります。欧州のライフスタイルに合わせた見せ方、サステナビリティ(EcoVadis認証への取り組みなど)への厳しい視線……。これらはすべて、中川鉄工が次の100年を生き抜くための大切なヒントです。伝統とは、守るものではなく、攻め続けることで繋いでいくもの。 私たちはこれからも、曽祖父が立ち上げた大阪市の町工場というルーツを誇りに思いながら、世界という大海原に一滴の「驚き」を滴らせ続けていきたいと考えています。
おわりに:共に波紋を広げましょう
KNSの仲間の皆さん。 もし皆さんが「自分の技術で世界に挑みたい」「新しい価値を作りたい」と立ち止まることがあれば、ぜひ一度語り合いましょう。ドイツで感じた世界の空気、そして100年続く鉄工所の「旋盤加工の魂」を分かち合いたいと思います。共に、関西から世界へ、熱い波紋を広げていきましょう。
有難うございました。
中川裕之(ひろし)
中川鉄工株式会社 取締役会長 www.nakagawa-iw.com
上質な瞬間を味わう酒器 shitatari www.shitatari.jp/
