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約30年ぶりに故郷・小樽に戻ってきて

土屋 武大 (松ヶ枝堂薬局/小樽つちや行政書士事務所・元経済産業省)  Vol.715

2023年7月末、約21年間勤めた経済産業省を退官し、小樽の実家の家業(松ヶ枝堂薬局)に参画いたしました。

2017年7月から約1年間、国土交通省に出向した際、日本国内の活性化策として「対流」をキーワードとして掲げる第二次国土形成計画の実現に向けた「稼げる国土専門委員会」を担当した際、メビック大阪を訪問し、堂野さんにお会いさせていただくことでKNSに入会してから早7年が過ぎようとしています。

その後、2018年6月~2021年6月に在ベトナム日本大使館、2021年9月~2023年7月に在インド日本大使館に出向したこともあり、いままで総会にも出席できない状況だったのですが、それぞれの国で本コラムの記事を書かせていただくとともに、2021年の大晦日の年越しウェブイベントでインドから参加させていただきました。今回でコラム記事も3回目となりました。

1996年3月高校卒業とともに小樽を離れ、薬学部を出たものの大学卒業後は経済産業省に入省したため、家業の薬局に参画することになるとは夢にも思ってもいなかったのですが、2021年5月に母が急逝したことを大きな契機となり、小樽に戻ってきました(ちなみに、私は家族が東京にいるため、実家に単身赴任をしています)。それから早くも1年が経ちましたが、約30年ぶりに戻ってきた小樽の現状を少しご紹介したいと思います。

まず、観光地としての小樽の位置付けです。北海道の観光地といえば小樽をはじめ札幌、旭川、函館を思い浮かべる方が多いと思いますが、小樽に宿泊する人が他の3都市に比べてとても少ない、という現状があります。

働き方改革で昔よりは良くなりましたが、日本ではなかなか連休を取るのが難しく、そのため、週末の土日で一泊二日の旅行する人が多いと思います。その中で北海道旅行となると、距離的に旭川、函館はそれぞれ個別に行かざるを得ないですが、小樽は札幌から高速道路で約40分、電車でも快速で30分強とアクセスが良いため、札幌とセットで訪れる方がとても多いです。

そうすると、スタンダードな札幌・小樽ツアーの行程として、

「土曜日の午前中に新千歳に到着→車か電車で小樽に移動→お寿司で昼食→運河を散策→オルゴール堂やガラス細工、お土産屋を訪問→夕方にはバスで札幌に移動→ホテルチェックイン→大通り公園でジンギスカン→二次会以降はすすきの」

という流れが出来てしまい、結果として小樽に泊まる人は少ない、という悲しい状況になっています。NHK朝の連ドラの「マッサン」の影響で余市のウィスキー工場などまで足をのばす方は一泊されるのですが……

1995年に公開された、小樽が舞台となっている中山美穂主演の『Love Letter』という映画をご存じでしょうか。私が経済産業省に入省した2002年頃、この映画は海外でとても人気で、多くの外国人観光客が小樽を訪れる契機となったとのことで、インバウンド成功事例として経産省が対外的にも紹介していました。最近は韓国でとても人気になり、多くの韓国人観光客が小樽にいらしています。

ただ、有名な小樽運河エリアは小樽の入口にしか過ぎません。競技スキーの岡部哲也選手やジャンプスキーの船木和喜選手などを輩出した天狗山や、もののけ姫のタタラ場の内部のモデルになった鰊御殿やその近くにある小樽水族館など、見所はたくさんあるのでご案内いたしますので是非小樽にお越し下さい!

次に、小樽の経済状況です。小樽の人口は毎年約2,000人減少しており、私が高校生の頃に約15~16万人だった人口は今年で約10万5千人まで減少し、高齢化率も約41%と高水準。後継者や人手不足で空き家やシャッター街も増えています。

かつては北海道開拓のため、小樽港に物資や燃料(石炭など)が届き、小樽から手宮線(日本で三番目に出来た鉄道)で北海道内に運ばれたことから、小樽は「北海道の心臓」と呼ばれていました。しかしながら、石狩湾開発以降は政治がある札幌に経済も奪われてしまい、仕事も減少していきました。20~40代の働き盛り世代は小樽に住みながら札幌に通勤している人や札幌に移住してしまった人もかなり多いです。

ここまで書くと極めて厳しい現実に小樽が直面していることに皆様お気づきかと思いますが、そうした中、小樽を活性化しようと頑張っている方々は若い世代も含めてとても多く活動しています。他方、小樽内部だけではリソースもアイディアも限られてしまい、閉じたものになりがちです。

だからこそ、KNSの皆様と、「対流」や「化学反応」を起こしながら、一方通行ではなく、国内外の様々な地域と相互関係が成立するような取組ができればとも思っています。

まずは、家業である薬局と今年1月に開設した行政書士事務所の業務、そしてライフワークの剣道に取り組んで行きながら頑張る所存です。

本記事の写真は今年の5月には堂野さんが洞爺湖マラソン前に小樽に寄っていただいた際のものです。時間の関係で小樽案内できなかったのですが、KNS北海道支部立上げに向けて堂野さんやKNSの皆様が気軽に小樽に限らず北海道にお越しいただけるような素地を作っていきたいと思います。(8月には流通科学大学の長坂教授も小樽にお越し下さいました!)

最後に一つだけ紹介させていただきます。この5月31日に、私のこれまでの人生をまとめた「キャリアパスで大切なたった2つのこと」(出版社:游藝舎)という本を出版いたしました。

小樽から東大に入学したこと、薬学部で研究に挫折し大学院を休学したこと、そうした中経済産業省に入省したこと、インドネシア・ベトナム・インドと3つの大使館に出向したこと、その中でライフワークである剣道への取組となど、自分でも珍しい人生だと思い、本にすることになりました。私の拙い経験が何か皆様のお役に立てればと思います。興味ある方は是非手に取っていただけると幸いです。

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