Members Column メンバーズコラム

技術者に必要な「伝える力」

渡辺挙 (株式会社ナリス化粧品)  Vol.152

渡辺挙

皆様初めまして。まだメンバーになりたての株式会社ナリス化粧品の渡辺です。
色々とあって堂野さんと知り会い、昨年の7月からKNSに参加させていただいております。
 私は2000年にナリス化粧品に就職して以来、昨年5月まで約12年間、化粧品の研究開発をしていました。数年前、仕事をしながら社会人大学院に通い、経営のことやブランディングについて勉強をしたことがあったのですが、私がその時感じたのは、大事なのはマーケティングよりも、その基になる「イノベーション」であるということです。そして、素晴らしい技術を開発して、素晴らしいマーケティングをすれば、他社が追随できないくらいのブランドを作ることができるはずということでした。しかし、世の中を見ても、そのような成功事例は数えるほどしかないように思います。

 そして私は今、研究開発から企画をする部署に異動し、ものづくりを両面から見ることができる立場になりました。今感じるのは、いかにして技術を伝えるかが大事だということです。いくら優れた技術を開発しても、消費者にうまく伝わらないと、手に取ってもらうことすらできません。技術者からマーケッターへのコミュニケーションがもう少しうまくできていれば、もっと多くの技術が製品化され、消費者へもっと効果的に伝えることができたはずです。しかし実際には、研究に力を入れた割に売れなかったり、日の目を見ずに埋もれてしまったりした技術は世の中に星の数ほどあるのではないでしょうか。
 日本には、パナソニックのような大手から、鯖江のような地場産業まで、優れた技術を持つ企業が大中小幅広く存在しています。こんなに全国各地でものづくりが盛んな国は、日本だけなのではないでしょうか。しかし、今の日本では、ものづくりの不振が叫ばれ、下請けの中小企業や地場産業が衰退しています。私は、日本の素晴らしい技術が失われ、真面目に一生懸命頑張っている技術者たちの努力が報われない現状が残念でなりません。

 化粧品のように華やかなイメージの業界でも、技術者の半数以上は私のようなオッサンやニイチャンだったりします。そういう人たちが最初につまずくのが、社内におけるコミュニケーションです。私の経験上、(特に男性)技術者というのは、よく言えば理性的で、事実に基づいてのみ発言します。例えば、「美容液にA技術を導入することで、表皮の○○に働きかけ、△△が××されることで、肌への浸透力が促進され、シワの深さや角質水分量が□□%改善する。でも実は、シミも薄くなって、毛穴も小さくなるデータもある。すごいでしょ。ところで、do you understand?」というような話をするわけです(少し誇張しています)。自分の技術について一通りの説明はできるのですが、それが消費者にとってどうすごいのか、そして何が一番のメリットなのかを想像して説明しようとまでは、なかなか発想が至らない。昔の私自身がそうでしたし、他でもそういう場面を数多く見てきました。
 もちろん、優れたマーケッターはそこから言葉巧みにポイントを引き出せるとは思うのですが、技術を理解して企画にし、マーケティング戦略も考えられるようなスーパーマンは実際ほとんどいません。社内のマーケッターの理解が深まらなければ、消費者にもうまく伝わるはずがありません。また、地場産業や中小企業では、社長や責任者自ら問屋や発注元と直接コミュニケーションしなければならないことが多く、なかなかうまく伝えられてないことが多いのではないでしょうか。

 私は、これからの技術者に必要なのは、自分の技術の魅力を伝える力だと思います。製品のプロモーションのことまで考える必要はないと思いますが、少なくとも社内マーケッターや発注元などに、自分の技術が消費目線でどのような魅力につながるのかを伝達できるようになるべきだと思います。話術は巧みであることに超したことはありませんが、大事なのはどうやってその相手に印象づけるかです。そのためには、世の中の流れをつかんで、何が受け入れてもらえるのかを想像し、そしてコミュニケーションする相手のことを想像することが大切です。もちろん、技術者全員が優れたコミュニケーション力を身につけることは難しいですし、また脇目を振らずに研究に熱中する技術者も必要です。しかし、組織にいる技術者の一部だけでもこれに気付いて能力を磨いて行くことが、ゆくゆくは日本でもAppleにも負けないヒット製品を世に送り出すことにつながるのではないでしょうか。

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