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シェアとコラボをとらえる

宇田忠司 (北海道大学)  Vol.422

宇田忠司

 およそ3年半ぶり2回目のコラム執筆です。前回も触れましたが,主に,コワーキングスペースに代表される共有・共創型ワークスペースにおける協同の生成・展開について調査・研究しています。
 2012年に設立された国内初の産官学連携によるコワーキング支援組織「札幌コワーキングサポーターズ」への参画をきっかけに,研究を本格的にスタートしてから6年あまり,同僚でもある阿部智和先生との調査研究プロジェクトの開始から5年あまりが経過しました。その間,海外はもちろん国内でもコワーキングは随分と浸透し,関係者をめぐる状況も大きく変わってきています。今回のコラムでは,本プロジェクトの概要や現時点での成果の一端をご紹介します。

 そもそもコワーキングとは何かという概念的な議論やスペース観察,運営者をはじめとする関係各位への聞き取りなどを踏まえて,われわれは,2014年と2016年に質問票調査を実施しました。いずれも国内のほぼすべての共有・共創型ワークスペースを対象としたもので,このような大規模調査は,国内はもちろん海外でも見当たりません。
 たいへんありがたいことに,多くのスペース運営者の方々のご協力により,1回目は200弱,2回目は300強のご回答をいただきました。回収率も,1回目は50%強,2回目は40%強と,社会調査としてはかなり高いといえます。
 これらの調査や並行して整備している国内スペースのデータセットから,たとえば,以下のようなことが明らかになっています。
 まず,マクロレベルでみると,2014年時点で,国内の7割弱のスペースが三大都市圏に,9割超のスペースが人口15万人以上の都市に所在し,スペースの存続率は8割強でした。少なくとも当時は,コワーキングの認知度や顕在・潜在的なニーズなどとの関係で,関西でいえば川西市の人口規模以上の都市部にスペースが集中していたようです。
 また,組織レベルでみると,草創期とくらべて,様々な事業組織が,スペース運営に乗り出しています。具体的には,2013年頃から不動産やエンターテイメント事業などを展開する大企業や自治体,大学が続々と業界に参入しています。ちょうど,さる6月18日に,ヤフーのLODGE(東京ガーデンテラス紀尾井町17階)にて「コワーキングスペースサミット2018」が開催されましたが(メビック扇町所長の堂野さんやコワーキングスペース7Fの星野さん,コワーキングスペース秘密基地の岡さんといった以前からお世話になっている方が登壇なさっていました),研究を開始した頃は,LODGEのような大企業主導の大規模スペースはごくわずかでした。それがいまや,三井不動産や東急電鉄,DMM, パセラ(ニュートン)など多くの企業が首都圏を中心に積極的に事業を展開しています。また,品川区や長野市,日南市などがスペースの開設・運営・連携などに携わっていますし,国土交通省や経済産業省などもこうしたムーブメントを後押ししています。くわえて,東北公益文科大学や関西大学などもスペースを手がけていますし,先ごろ開設された早稲田大学のスペースはただいまオープンキャンペーン中のようです。
 ただ,スペース・レベルでみると,フリーランスと組織人の利用者割合はトレードオフの傾向にあり,少なくとも調査時点で利用者の多様度は高いとはいえないことも明らかになっています。これは,多様な他者との交流・協同というコワーキングの概念的想定とは異なります。また,法人などの集団利用が3割程度にとどまっており,全体的にみれば,交流や協同の成果が広範囲に波及しづらい状況にあることも示唆されました。こうした実態やそのメカニズムの把握にむけて,データ分析に努めるとともに,最新動向をフォローしながら,詳細なフィールドワークに着手していく予定です。
 幸いなことに,本プロジェクトを通して,全国のスペース運営者をはじめとする数多くの関係者の方々だけでなく,関心を共有する海外の研究者グループとも貴重なつながりを得られました。その縁もあって,今年1月に国際共同研究に関する科研費の課題が採択され,来年4月から2年ほど在外研究を行う機会に恵まれました。ひとまずパリに滞在予定ですが,その後,渡米するか否かなど,ちょうどこのコラムの執筆と並行して渡航計画を練っています。いずれの地に赴いても,共有・共創という普遍的な営みについて,研究者としての「観察」はもちろん,その「実践」にも引き続き挑戦してまいります。
 最後に,本プロジェクトの主な関連論文は,本学の学術成果コレクションHUSCAP (https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/index.jsp)やCiNii (https://ci.nii.ac.jp/) を通じてダウンロードできます。関心のある方は,ぜひご覧ください。

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