Members Column メンバーズコラム

来るべきアフターコロナ、次の時代を見据えて

中川裕之 (中川鉄工株式会社)  Vol.638

中川裕之

みなさま
お世話になります。
覚えていただいてますか?コロナ禍もありますが、ここ数年、KNSの皆様方にはご無沙汰になってしまいました。元KNS世話人のひとり、ものづくりひとづくり研究会主査のひとり 中川鉄工 中川ひろしでございます。過去にも2014年、2016年そして2020年と三回コラムを書かせていただきました。このコロナ禍において、何を考え、何をしてきたかを今回はお伝えさせていただきます。ご存じの方も多いとは思いますが、初めてのお読みいただく方向けにまずは少し自己紹介をさせていただきます。私は大阪に生まれ大阪で育ち、社会人になって静岡県で2年近く工作機械のメーカーで修行させていただきました。そして現在大阪市は城東区で旋盤加工という技術で大正6年の創業以来、丸い金属を削るという技術について研鑽を重ねている町工場、中川鉄工株式会社の代表です。創業から105年、私で4代の事業継承になります。今巷で話題の舞い上がれという朝ドラと同様、思いっきりリーマンでの不況を体験し、何とか継承して今がございます。今年で55歳。四捨五入したら還暦世代。次の世代へのバトンタッチを考えないといけない時期に突入しました。

 さて、このコロナ禍で本業の精密旋盤加工におきましては、一時期は仕事量が落ちましたが、平均して忙しくさせていただいておりました。巷では在宅ワークが取りはやされていましたが、我々直接労働しないといけない業種は、会社へ行き、機械と向き合い仕事をしないと売上が立たないのが現状です。少数精鋭を目指し、ぎりぎりの人数で対応しておりましたが、社員の数名がコロナにかかり、自宅待機をしないといけない折には、かなりの納期遅れを出す羽目になりました。お客様にはご迷惑をお掛けしてしまいました。政治で最近よく使われる言葉の“想定外”ということになるのでしょうか?しかしながら企業経営者にとっては、この想定外も想定内。代表者本人以外には誰も面倒見てくれません。ほんまにひやひやする時期を過ごしましたですね?
一般の方々の価値観はこのコロナ前、コロナ禍、そして今後近い将来訪れるであろうコロナ後において、かなり変わってきたのではないでしょうか?このコロナ禍において私が受けたダメージは、長年勤めていた社員さんの退職が続いたことです。私どものものづくり企業は、仕事してなんぼ。世の中が休日を増やし、残業も制限をかけてくるようになりましたが、私どもものづくり業界におきましては、納期を守り、品質を確保し継続して安定供給し続けなければお客様満足にはつながりません。いくらITが進歩しようとも、直接労働が必要な業界であるため、リモートワークができない業界です。勿論、IoTを駆使して、今ある一部は新たな投資をすれば、リモートワークが可能になるかも知れません。しかしながら、大手企業が参入しないニッチな部分が我々の活躍できうるフィールドであるため、人(技術者)の教育と技術者のスキル向上が必須です。この数年コロナ禍において折角育ってきた社員さんが、一定年経て退職されることが度々ございました。終身雇用でなければならない業界なのですが、そうもいっていられないのが現状です。
さて、私はずーっと思い続けてきた信念がありました。
身の程にあった経営を継続し、ここ大阪で、日本人の手による製品を、今も昔も、これからも供給し続けていこう。Made in OSAKA,JAPANにこだわっていこう。しかしながら昨年退職に伴う新たな求人がうまくいかず、初めて外国の方を雇用いたしました。生き残りをかけた仕方のない選択でした。一本筋の通った志、使命を変えなければならないこの選択は、ほんまに断腸の思いであったことは言うまでもございません。時代は刻々と変化しており、その時流にうまく乗っていくことが、これからの経営には必要なことだと思います。
その時雇用した外国(ベトナム)の社員さんが、朝礼時のスピーチで話してくれた話題があります。先日ドン・キホーテで買い物をした際に、少しの間だけ自転車の荷台に買い物をしてきたものを置いていたのですが、戻ってきたときにすべてなくなっていました。皆さん少しでも置いておくことがあったら、気を付けましょう。という話題でした。私はそのスピーチを聞いて非常に寂しく思いました。日本は財布を落としても、拾った方が警察へ届け出てくれて戻ってくる国だったはずです。今や外国からの就業者が、盗難に気を付けようといわれる国に落ちぶれてきたのかも知れません。いや落ちぶれていること間違いなしです。この状況を何とか打破していくべく、一人一人が気を付けて、明るい未来を切り拓きたいものです。
先日人間学の講演会に出席してきました。経営の神様 稲盛和夫氏が生前主宰していた元盛和塾の方からお誘いを受けての参加です。人間学という学問、みなさまお聞きになったことがあるでしょうか?簡単に言えば徳性を養うための学問です。先日非常に盛り上がりましたWBCの優勝監督の栗山氏も、日々勉強されている学問です。その中で致知出版社の社長の藤尾様が言われた内容で再認識した言葉がございます。“成功する人としない人の差は、与えられたご縁に徹底して価値を見出す。これだと思って信じ抜いて貫く方だ。”と言われていました。現実はどうでしょう。すぐに周りの環境のせいにし、放り出してしまう方々の多さには、ほんまにこの国の行く末は大丈夫なのかと思うことしばしばです。という私はと言えば、まだまだ徳性は養えていませんし、与えられたご縁に徹底的に付加価値を見出せていないのが現状だと思います。日々精進、毎日の積み重ねが人格を形成します。日々精進を継続してまいります。
 また非常に残念なニュースもございました。日本で50年ぶりに動き出した純国産民間航空機、三菱スペースジェット(旧MRJ)の開発中止が報道されました。飛行機屋にとりましては、本当に断腸の思いだったのではないでしょうか?あれは2011年。KNS発足以降初めての共著“現場発産官学民連携の地域力”で寄稿させていただきましたが、その当時OWO(次世代型航空機部品供給ネットワーク)の発起人として活動させていただいておりました。その甲斐もあり、リーマンショック以降、国の支援策を受け、民間航空機装備品部品に参入を果たしました。当時航空宇宙防衛向けの国際規格 JISQ9100も独自で取得し、社内の仕組みも航空機の製造に合致した仕組みに再構築し、実際に数十点の試作品を無事に納入させていただきました経緯がございます。当時弊社に入社してすぐの弟の専務と、毎晩日付が変わっても会社に残り、作業指示書、検査手順書、検査書などの必要な文書つくりに邁進しておりました。今思えば非常にしんどかったですが、非常に良い経験でありましたし、いまその構築した仕組みが、他業界の受注に貢献しております。
我が国はものづくり立国と呼ばれた時代がありました。最近はいかがでしょう?実際のところ、そう思われる方々は少ないのではないでしょうか?より高精度なものを求め、我々10数人規模のものづくり会社でも、目先の加工品の対応をするためには地頭が必要になってきました。かつてはブルーカラーであった製造現場が、最近ではホワイトカラー化してきていると思います。今後もこの国がものづくり立国であり続けるための、小さな手助けをさせていただきたく存じます。国力を挙げていく地盤は教育です。悲しくも銃弾に倒れた安倍元首相もこの教育改革に手を付けかけたところだったのですが、この先この教育がどうなっていくのか?教諭にも働き方改革の波が押し寄せ、使命感をもって子どもたちの教育を行う先生は、一部の方々に限られてきているのではないかと思う次第です。
最後にこのコロナ禍において、実行したことがございます。100年以上継続できた会社ではありますが、次の時代への継承を考えた際に、もう一回創業者の想い、中川家のルーツを辿りたいと思いました。創業者の曽祖父が何を考えて会社を起こし、中川家の家系がどういう形で事業を継承してきたのかをより深く知ってみたいと思ったからです。弊社の創業の地は大阪市北区相生町、現在の都島区網島町でした。そして戸籍で辿ることが出来る一番古い住所は昔の臼屋町。現在の天満橋の北側、大阪造幣局の南側でした。その前を辿ろうと、過去帳の戒名を頼りに当時その付近にあったお寺さん、そして移転されたお寺さんをくまなく訪ね歩いたのですが、結局見つからなかったのが現状です。私の家族も、勿論みなさんのご家族も、こういう脈々と継続してきた歴史があり今があります。その歴史を体感し、曽祖父が興したこの会社を、次の100年続く会社にするためのヒントにしようと思います。天満付近はかつての大東亜戦争末期の大阪大空襲において、ほぼすべてが焼けつくされた地域です。悲しいかな、私どもの先祖の住まいも、会社もすべて焼けてしまったのが現実です。今、ロシアがウクライナへ侵攻中です。また中国が、台湾やアジア近隣への領土拡大を狙った活動をし続けています。戦争は間違いなく、すべてを焼き尽くしてしまいます。無駄な争いを、これだけ時代は進歩しているのに、なぜ続けていくのでしょう。次世代へ、明るい未来を創るべく。一つの灯を灯すべく。私は目の前の事象に、この先も命ある限り真摯に接していきたいと思います。
長々と続く乱文にお付き合いいただきまして、有難うございました。久しぶりにリアル開催の今回の定例会では別件があり、お会いできませんでした。20周年の次回は必ずお会いできますことを、心より楽しみにいたしております。
 中川鉄工株式会社 www.nakagawa-iw.com
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