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コロナ禍で思う「ご縁の経営」

長坂泰之 (流通科学大学 商学部)  Vol.564

長坂泰之

世話人のひとりの長坂です。2019年に横浜から神戸に転職・移住してこの4月で3年目になりました。2019年12月に中国武漢で初めて検出された新型コロナウイルス感染症は、世界的に伝播していき、2020年3月からは日本でも急速なひろがりを見せました。その後変異株が出現し、現在でも世界中・日本中で猛威を振るっています。まちを徘徊する「バル(まちバル)」に参戦するのが好きな私ですが、そのメッカである関西にせっかく来たのに、コロナ禍になってから徘徊できず悔しい想いをしています。財布の中身が減らないのはありがたいのですが(笑)。

話は変わり、30数年間お世話になった前職の中小機構時代には、中小企業診断士養成、後継者育成、インキュベーション運営、法人統合などの仕事をしてきましたが、最も長く仕事をしたのが産業集積に関する仕事でした。私の場合、中小企業診断士の資格は商業・工業・情報の3コースがあった時の古い免許証を更新しています。私は商業コースの出身なので、必然的に商業集積の仕事に長く携わってきました。商業集積とは、商店街やショッピングセンターや中心市街地を指します。国の仕事ですので、非常時、特に災害対応の時には少し前に出て仕事をすることになります。
先日は、26年前の阪神・淡路大震災の復興のご支援をさせていただいた、神戸市長田区の大正筋商店街にゼミ生と訪問しました。目的は、茶舗「味萬」の伊東正和さんのお話を聞くためです。伊東さんを知っている方もいると思いますが、伊東さんはこの業界では有名人、テレビやラジオにも出演されています。ほぼ四半世紀、細く長いご縁が神戸に来てから実を結び、時々お茶をいただきに伺い、様々な話をさせていただいています。今回、ゼミ生に対して伊東さんにはご本人の半生をお話しいただきました。半生とは、青春時代から阪神・淡路大震災までの半生です。その後の阪神・淡路大震災からの復興や東日本大地震の復興支援に尽力されましたが、その原動力は、若い時の挑戦、経験、苦労、そしてご縁を大事にしてきたことによることが改めてわかりました。ゼミ生の中には伊東さんのお話を血肉にできた学生、そうでない学生がいたかもしれませんが、伊東さんが熱意を持ってお話しくださったことは忘れないと思います。教員はいつもゼミ生のやる気のスイッチを探しています。ただ、スイッチは一様ではなく10人10色であることが難しいところなのですが、それを探す愉しみもあります。
コロナ禍の現在でも月1回のペースで東京にて仕事をいただいています。先日、神戸に帰る前にどうしても東京でお会いしたい方がいたので飛び込みで訪問しました。その方は、浅草合羽橋道具街にある料理道具の店「飯田屋」店主の飯田結太さんです。この業界では超有名店に行くと買い物客で溢れかえっていました。多忙かつアポなしの訪問でしたが、飯田さんは快く時間を空けてくださりお話を聞くことができました。この飯田屋さんでどうしても買いたかったのは、有名過ぎるピーラー(皮むき器)です。早速、神戸の自宅に戻り地元の東山商店街で買った1本30円の大根、3本100円の人参で皮むきをしてみました。何と、皮をむいたあとの野菜の表面が艶やかに輝くではないですか。普通のピーラーと違いは明らかでした。お店の3階にある研究室で、このピーラーの試作品を見せていただきました。売っていたのは何十回もの試作の結果できた賜物でした。従業員とお客様の笑顔を届けるものづくりが、多くのファンの心を掴んでいることがよくわかりました。飯田さんは、元商業界編集長で商い未来研究所代表の笹井清範さんに繋いていただきました。ご縁が繋がっていると実感した時でした。たくさんの挑戦と失敗を経験して現在に至る飯田さんは現在まだ36歳の伸び盛り。大量仕入れ、大量販売は大手が得意。中小企業はそうではなくて少量仕入少量販売で闘う。それはご縁を大事にする経営であり、誰でもいいのではなく、あなたに売りたい、あなたから買いたいという経営です。
最後に、先日SNSで「新商品を発売します」という投稿をアップしました。新商品の名前は「長坂ブレンド」です。実はこれは誇張で、新商品が完成したのは事実ですが、発売はしていないというのが本当のところです。それは東日本大震災の被災地のひとつ陸前高田市の東京屋カフェさんから最高のサプライズの贈り物でした。震災以降お付き合いさせていただいているオーナーの小笠原修さんが、私、長坂をイメージしてブレンドしてくれた珈琲をドリップコーヒーにしてくれたのです。その配合の塩梅は小笠原さんの感性ですので、まさに世界に一つだけのオリジナルブレンドが完成したわけです。嬉し過ぎて飲むのが勿体ないぐらいです。2011年3月11日に津波ですべてを失った東京屋は新たにカフェ部門を作り2017年11月にオープン。こだわりの焙煎珈琲が「売り」の東京屋カフェは、開店当初は地元の陸前高田市が3割に対して市外から7割が来客するという、従来の商圏の概念を超える広がりを見せました。さらに販路の拡大を狙ったのがこのドリップコーヒーでした。誕生日や結婚式のギフトといった新しい販路を生み出します。間違いのない味わいの珈琲を親しい方に送るというご縁を大切にした商品開発です。オリジナルのドリップコーヒーを作りたい方はご縁を繋ぎますので興味のある方は気軽に連絡ください。ただし金払いの良い方に限ります(笑)。因みにこのイラストは、KNSのご縁でつながった鳥取県米子市のラ・コミックさんに描いていただいたものです。
コロナ禍で、すでに多くの中小企業が苦難に面し、中には悔しくもその役割を終えた企業もあります。アフターコロナの時代は、小売店の真価が問われる時代です。その小売業の集積するまちの真価も問われる時代です。そんな小売店、まちに対してどんなご支援ができるのか。簡単でないことは承知していますが、正面から向き合っていきたいと思っています。そのキーワードが「ご縁」、そして「信頼関係」だと思っています。商店街も小売店も「ご縁」を大事にできるか、「ご縁」を復活できるか。私たちは大事なことは信頼関係がないと頼めません。信頼関係がないと相談もできません。インターネットにご縁は存在するのでしょうか、AIにご縁は存在するのでしょうか。存在するのであれば、「一期一会」は死語になってしまうのでしょうか。最近の私のいくつかのご縁のある話から、「あの人から買いたいあの店から買いたい、あの人に仕事をお願いしたい、あの人なら大丈夫」。そう思ってもらえるような経営がこれからの時代の小さな企業の経営ではないかと思った次第です。そして、KNSの皆さんとの「ご縁」を繋ぐ、必ず(K)飲んで(N)騒ぐ(S)日が一日でも早く来ることを願っています。

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