Members Column メンバーズコラム
才能を発掘し、後世に伝えるシステムを
川井田祥子 (大阪市立大学都市研究プラザ) Vol.114
こんにちは。大阪市立大学都市研究プラザの川井田です。
先日(4/27)、国立京都国際会館で開催されていた「アート京都2012」へ
行ってきました。2010年と2011年に開かれたアートフェアがさらにスケール
アップし、国内の有力ギャラリーだけでなく海外のギャラリーからも参加があり、
約100軒が集った国際的アートフェアです。関連企画として、椿昇氏(現代美術家)・
名和晃平氏(彫刻家)・ヤノベケンジ氏(美術作家)のトークもありました。
椿氏たちは次世代の才能を育てることにも意欲的で、京都造形芸術大学
内に造形技術支援工房「ウルトラファクトリー」を開設したり、御用絵
師システムを復活させたりしています。後者の例として、公募で選ばれ
た若手アーティストが退蔵院(京都市右京区のお寺)に住み込み、3年
がかりで方丈(国重要文化財)の襖絵64面を作成中ですが、このシステ
ム復活には伝統技術の継承という意味も込められています。なぜなら、
襖絵の制作に必要な筆や和紙は、すぐれた技術をもった職人さんがつく
っているからです。
アート作品をつくる人、それを支える人、作品を購入する人、鑑賞する
人、アーティストを育てる人等々、いろいろな役割をもった人が大勢か
つバランスよく存在することで、アートは存続していけるのでしょう。
椿氏は言います。「美術品の過去依存からの脱却。500年後への贈り物を」
「美術作品の内需にサスティナブルなシステムを構築するために全力を
尽くす」。
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今回、アート京都へ行ったのは知人のギャラリーが出展していたからで
す。社会福祉法人 素王会/アトリエ インカーブ(大阪市平野区)が開
廊した「ギャラリー インカーブ|京都」http://g-incurve.jp/ で、社
会福祉法人を母体とするギャラリーが国際的アートフェアにブースを構
えるのは史上初だそうです。インカーブが活動を開始したのは2002年な
ので、“現代アート”としてきちんと位置づけられるまで10年かかった
と言えるかもしれません。
インカーブのクリエイティブディレクター今中博之氏は、「障害を持っ
たアーティストの作品だから」という理由で作品が正当に評価されない
ことに疑問を感じ、スタッフらとともに様々な働きかけを多方面にわた
って行ってきました。「モノやコトは観る高さや角度を換えることで無
数の見方が存在する。私はその見方を意図的に換える所作を“デザイン
”と呼ぶ。デザインは“観点変更”させる力を持っている」(『観点変更』
今中博之著より)という今中氏は、ソーシャル・デザインを行っている
と言えるでしょう。
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アート市場が成熟していないと言われる日本で、アーティストが経済的
に自立していくのは難しく、さらに障害をもっているという理由が加わ
ると、同じスタートラインにすら立てない現状があります。
芸術と福祉の分野があらゆる意味で接近し融合していけば、才能を開花
させる人は大勢いるはずです。そして、一人ひとりが自らの才能を十全
に発揮できる社会が、真に豊かな社会なのだと思います。
「ギャラリー インカーブ|京都」は土曜に開廊しています。6/30まで
信谷弘光氏の作品を展示中。ぜひ作品の魅力にふれてみてください。