Members Column メンバーズコラム

INS スクラップ&ビルド?

今井潤 (岩手大学三陸復興・地域創生推進機構)  Vol.335

今井潤

みなさん こんにちは。
岩手大学三陸復興・地域創生推進機構の今井潤です。岩手ネットワークシステム(INS)の事務局もしています。
 前回のメンバーズコラムは、2010年の8月で、「INSの先にあるものを探して」と題して、岩手大学発のフラットで顔の見える産学官民ネットワークである岩手ネットワークシステム(INS)のフリーでイノベーティブな雰囲気をどのように広く広げられるか?という活動を紹介しました。

 早いもので、あれから6年が経ち、岩手も大学も激変しました。
東日本大震災の影響は、もちろん非常に甚大でした。このような大災害であると、人命や建物だけで無く、文化、伝統や産業まで根こそぎ消えてしまいそうになっていることをよく感じます。

 でも、大学と関わっている人たちは、重荷を背負いながらも、前向きで頑張っているとても魅力的な人が多く、もっともっと応援したい気持ちになります。
 INSや岩手大学も、今まで培ったネットワークを活かして、日本各地と沿岸被災地をつなげる役目や、地域コミュニティの活性化や防災・安全などについて、様々な取り組みにより支援を行ってきました。

 残念ながら、国の復興財源が今年の3月に無くなり、大学としての復興支援活動が出来なくなりました。しかし幸い、 “復興” では無く “地域創生”の枠組みで文部科学省から予算を頂き、復興と地域創生をあわせた、私の所属する三陸復興・地域創生推進機構を4月に設立することが出来ました。
 この機構は、産学連携や、生涯学習活動に加え、復興から創生に関する活動を実施する釜石市のサテライト、久慈市・宮古市・大船渡市のエクステンションセンターを機構内に取り込み、更に北上、奥州、花巻市にあるものづくり研究のサテライト、地域防災研究センター、三陸水産研究センター、平泉文化研究センターの活動を部門として内包する形で構成されています。延べ200名以上の教員が関わっており、復興や地域創生で得られた知見を教育や研究に還元して行く予定です。こちらの機構の課題も多くありますが、後述のINSの課題とこれからとも関連するので省略します。
 INSは、セミナー(研究会)の開催回数は、毎年40~50回ほど開催しています。しかし発足して24年も経つので、2回目の世代交代が近づいてきています。初期メンバーのキーパーソンは産学官ともにほとんどいなくなってしまい、活動が固定化し会員数も急速に減少しています。
 INSのようなネットワークは、イノベーションの創出や、地方創生には必要不可欠なものだと考えられていますので、
 その原因は、いろいろとあると思いますが、2つほど取り上げたいと思います。
一つ目は、大学の教員が主導的な立場で動き、かなり長い間うまく動いたことにあると思います。INS, KNSの様なネットワークがあるのが普通の状況になると、楽しいので参加する人は多くなるけれど、積極的に運営に関わろうという人は増えません。国立大学は、昔は時間にもお金にもある程度自由度があったため、INSの活動なども関われる余裕がありましたが、特に独法化以降、時間もお金も厳しくなり、精神的な余裕も無くなってきています。INSの活動を側面支援していた地域連携部門も10名程度から1,2名ほどに減っており従来通りの活動は不可能になっています。つまり最近の活動の低迷の原因1つめは、大学の多忙化と、大学以外にINS活動を支えるメンバーが育たなかったことに由来すると思います。
 ここについては、今、若手の会が、少しだけ動き始めており、その中で焦らず、動き方を決めて行ければいいかなと思っています。

 二つ目は、地域から大学に求められる価値が変わってきたことに対応出来ていないからだと思います。
 東日本大震災発生1年後に、岩手大学内に対してアンケート調査を実施して、現在の仕事の状況や復興への関わりを調べました。震災復興への取り組みについては、当然地域とのつながりが深い工学部(現理工学部)の教員も多く参加していると思ったところ、防災系の教員を除くと工学部の教員は、ほとんど関われていませんでした。自分たちの研究を活かせるのは、産業が復興してからだというのが理由の多くでした。その後、JSTの補助金や企業の復興に伴い、被災地の企業と共同で研究を行う教員も増えました。
 しかし地域から求められている価値が、大きく変化してきたことにまだ気づいていない教員が多いと思います。理系の教員の多くは自分の研究の先に、イノベーション(技術革新)があると思っていますが、今必要とされているイノベーション(創新普及)は、それでは無く、多様性を活かして専門性の壁を破るイノベーションです。最近の活動の低迷の原因2つめは地域に対して本当にイノベーティブな研究が紹介できていないためだと考えます。専門性も大事にしつつ、多分野でいかに馬鹿話ができる環境を整えるかという観点が今後非常に重要になります。その点で、INSのプラットフォームは、最高の環境になると思います。
 KNSの知恵も頂きながら、本当に楽しいINSをつくっていく取り組みを少しずつ始めようとしています。また多様性を活かしたイノベーティブワークショップや、イノベーション創出のプラットフォームとなれる、刺激的で、かつ居心地も良いネットワークの再生に取り組みたいと思います。 

最後に、11月12日には、岩手大学理工学部で、INSやKNSの仲間が集まる産学官民コミュニティ全国大会が開催されます。三陸鉄道前社長の望月様の基調講演の他、KNS堂野智史さんたちと「産学官民コミュニティのこれから」と題したミニパネルディスカッションもあります。お時間のある方は是非ご参加ください。

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