Members Column メンバーズコラム

「IT屋台」始めました。

萩原辰夫 (西日本電信電話株式会社)  Vol.612

萩原辰夫

「おおっ!」昨年8月に納車された「IT屋台」を見て思わずニヤケてしまった。「IT屋台」は屋外のリモートワークを可能とする屋台型のデスクトップだ。(写真参考)
事の発端は、「やりゃええがな」まにワッショイの岡本さんの一言から始まった。岡本さんは、割烹旅館を営む真庭市久世地域の兄貴的存在だ。みな岡本さんを慕って、いろんな所からやってくる。今でも昼飯を食べに行けば、誰かしらと繋がることができる。一般的にはコーディネーターという役割の人を指すが、そんな賢そうなものではなく、とにかく人を吸引しては半ば強引にくっつけていく、例えるなら焼きとり屋のオヤジが串に鶏肉を挿していくようなさまだ。
強引だけど誰も嫌な感じを受けない。なぜなら、岡本さんへ相談する方は、あと一歩が踏み出せない人たち、あとは後ろから押すだけの話だからとにかく話が進む。結果はどうであれやってよかったという気持ちになるため、次もやってみたいという気持ちになっていく。周りも岡本さんの紹介ならと協力してくれるのでどんどん輪が広がっていく、この一体感がすごい。

ここで、まにワッショイの活動理念を紹介してこう。
まにワッショイ5箇条
一.いつも笑っていよう!
一.自らが楽しんで活動しよう!
一.なんでもできると思いこもう !
一.できない理由を考えるよりできる方法を考えよう!
一.自らが観光資源(地域の光、発信源)になろう
何とも素晴らしい活動理念だ。また、まにワッショイメンバーはフラットな立場であるため社長・教師・商売人まで様々な職業のメンバーが自由に活動する誰もNOとは言わない。地域では珍しい組織だ。そんな吸引力に惹かれて、今では私の行動指針にもなっている。(また、KNSと通ずるところもある。)
「やりゃええが」と言いながら電話を始めた岡本さんは、誰かに一言二言話したあと、そのまま電話を私の手に渡す。電話の先は「木工房もものたね」の元井さん。はじめましての挨拶も早々にやりたいことを伝える。実は、IT屋台はリアカーゴという移動式の店舗がベースとなっている。これをデスクトップ型に構造を変える必要があるのだが、このカスタマイズを元井さんへ依頼したのだった。「できますかね?」という質問に「ん、何とかなるでしょう」という何とも前向きな回答が返ってきた。トントン拍子で話が進み、気が付けば発注完了。1台6万円もする決して安くない買い物だけど、夢を買ったような気分だった。岡本さんを再び見上げると、してやったりの顔をしていたのを今でも覚えている。
それから1か月後、久世から自転車で90分ほどかけて湯原湖の奧にある元井さんの工房を訪ねた。元井さんは、真庭木材で家具を作る家具職人。私が訪ねた時にはちょうど真庭産ヒノキでコップを作っている最中だった。真庭木材にこだわる理由の一つに「地産地消」の考えがあるそうだ。食だけではなく生活用品も地産地消することで「地域愛」を育むことを目指しているとのこと。木はメンテナンスすれば何度でも利用できるため、どんどん愛着が湧いてくる。人だけではなくモノにも愛情を込めるられる社会、ぜひ実現したい。しかし、はじめて会ったのに、昔から知っていたかのような感じを受けたのは、お互いに独自性が強い(私はそんな人たちを「変態」と称賛している。)共通点があったからだろう。工房にはいくつかリアカーゴが置いてあり、アイデアを伝えながらIT屋台を具体化していく。そこから納品には約1年かかった。。。
そんな勢いで始まったIT屋台。「屋台」にこだわる理由がある。実はこのコンセプトは、祭りの夜店でイカ焼きを買う感覚でITを気軽に売りたいという発想が原点。ITと聞くとどうしても高い・難しい・めんどくさいなどのイメージがあり一般的には敬遠されがちだ。しかし、500円でイカ焼きが買えるならITが買えてもいいのではないかと考える。ITという定義をイカ焼きレベルまで下げていく。さらに、野菜とITが交換できるようになればもっと面白くなる。
例えば、こんなシチュエーションを考えている。
ぶらぶらと商店街でIT屋台を押していると、沿道のイスに座ったおばあさん2人組を見つける。「今日も天気がいいですね。」と声をかけると、「IT屋台さん、ちょっとこれお願いできるかしら」と依頼が入る。「はい、500円になります。」「今朝とれた野菜があるからそれでもいい?」「ありがとうございます。いただきます。」といったやり取りだ。しかし、イカ焼きレベルのITとなるとかなり工夫がいる。現在は、ラズパイを使った簡単な装置を開発中だ。
初めての商いは小規模のマルシェだった。飲食と並んでの出店物は、VR体験と360度カメラによるバレットタイム撮影体験。バレットタイム撮影は映画「マトリックス」に使われた撮影手法で有名、撮影者を中心にぐるりと時が止まったような映像を作成する。これをファミリー向けに提案してみた。利用者の反応はよかったが、VRに関しては屋外仕様ではないため誤動作して、使いものにならず、やむを得ず屋内に移動して使ってもらうなど、まだまだIT屋台単体で機能するには工夫がいる。
ここでIT屋台の仕組みについて紹介する。基本的にリアカーであるため移動は人力、自転車など車両に付けて移動することもできるが接続装置は未実装。バン型軽自動車に積むことができるので、遠方に持っていくことも可能。パソコンワークをしたいところが見つかれば、車体から車止めを取り出し安定させる。次に車体に格納された椅子を取り出す。さらに側面の板を上に開き天板を作る。これで通常の机と変わらない広さの天板を確保することができる。最後にサイドに取り付けた腕からパラソルを取り外し、軸となる棒をジョイント接続し車体前方の穴へ差し込む。パラソルを開けば展開完了。あとは、パソコンやコップなどの小物を取り出して作業開始。ここまでの時間は約10分程度。慣れれば、5分もかからない。気分が変われば移動すればよい。
次の計画は、ソロキャンプとIT屋台。大容量のモバイルバッテリーとソロキャンプ道具を搭載し大自然でパソコンワークをしてみることだ。真庭に関わって3年、楽しさ尽きない日々に感謝しながら、今日も誰かの役に立つ活動を続けていきたいと思う。
「IT屋台」は現在、真庭市久世の久世駅前のコワーキングスペース「エキマエノマエ」に保管している。体験してみたい方いつでもお声がけください。パラソルの下、そよ風に吹かれながらするパソコンワークはほんとに気持ちがいいですよ。

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