Members Column メンバーズコラム

見えない強みを引き出す知的資産経営の勧め

東純子 ((公財)大阪市都市型産業振興センター 大阪産業創造館 経営相談室)  Vol.311

東純子

KNSメンバーのみなさま、こんにちは!大阪産業創造館 経営相談室の東です。
1回目のコラムは、私の主な仕事である大阪産業創造館2階の経営相談室がどのような活動を行っているかをお伝えしましたが、2回目となる今回は、私が所属している一般社団法人大阪府中小企業診断協会活動の一環である、「知的資産経営研究会」において取り組んでいる「知的資産経営」についてお伝えしたいと思います。

そもそも、「知的資産経営」とは何なのか…。

まず、「知的資産」とは、財務諸表では表せない「目に見えない資産」のことを言います。
例えば、技術・ノウハウ、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等を指します。

会社の評価をする際にわかりやすいのは数字ですが、資本力のある大企業は従業員を大勢雇うことができるし、多額の設備投資もできます。
しかしながら、日本で事業活動を行っている事業者の99%は、大企業に比べると資本力の少ない中小企業が占めています。
実は、財務諸表などで表される数字で測れるものは、企業価値を表す氷山の一角でしかなく、その水面下に「目に見えにくい資産」として数値では測りがたいものが潜んでおり、それが競争力の源泉となって企業が存続できていると考えられます。

知的資産には3つの分類があります。
1.人的資産:社長や従業員個人が持っている資産
⇒社長や従業員がいなくなると同時に消えてしまう資産
例)社長のリーダーシップやネットワーク、ベテランの勘・経験・ノウハウなど
2.構造(組織)資産:会社の仕組みとして根付いている資産
⇒社長や従業員がいなくなっても会社に残る資産
例)マニュアル、データベース、システム、ルール、組織風土など
3.関係資産:社外(取引先など)のとの関係で築かれている資産
例)顧客、仕入先、外注先、異業種ネットワーク、信用力、ブランド、顧客満足度など

強みにつながるこれらの「知的資産」は目に見えにくいがゆえに、中小企業は本来持っている強みがあるものの、得てして弱みに着目しがちで、強みを認識しにくい傾向にあります。
その目に見えにくい「知的資産」を洗い出し、各企業が保有する競争力につながる固有の知的資産を認識した上で、それらを有効に組み合わせて活用し、価値を創造していくことを通じて、収益化を図る経営を「知的資産経営」といいます。

この知的資産経営の考え方に基づいて、今自社にはどんな知的資産があるのかを分類し、必要な知的資産が確保できているか、さらに今後補っていかなければならない知的資産が何かを検討することで、将来に向けた経営の継続性も俯瞰的に見ることができます。

例えば、中小企業では、一般的に社長のリーダーシップや特定の人材の持つノウハウ等の「人的資産」の比重が大きいため、その人材が退任・退社することで事業の継続に支障をきたすリスクがあります。
その対策として、特定の人材に依存せず円滑に仕事ができるよう、マニュアルの作成やデータベースなどを構築し、「人的資産」を「構造(組織)資産」へと変換させて事業の継続性を図る必要があります。
さらに、中小企業は自社の限られた資産だけで事業を発展させていくのは限界がありますので、必要な資産を持った外部との関係をいかに築き上げるかも重要な視点になります。
外部のつながりの具体例として、得意先や仕入先・協力会社といった取引先に加えて、金融機関や支援機関といった関係資産が関わる場合も多くあります。

そして、自社が過去から現在に至るまでどのような知的資産を蓄積しながら事業活動を行ってきたか、将来に向けてどんな知的資産を強化・獲得して事業を展開していくのかを見える化して、具体的にまとめたものが「知的資産経営報告書」です。

「知的資産経営報告書」を作成し活用することで主に下記のようなメリットがあります。
■対社内
・自社が何を武器(=強みとなる知的資産)として持っているのかがわかるため、競合との違いを把握しやすい
・将来のありたい姿の実現に向けて何に取り組むべきかが明確になるのでメンバーのモチベーションがアップする
■対社外
・報告書を開示することで自社のことをより深く理解していただくことができる
・今後の事業展開に協力を得られる:取引先との関係強化、新規顧客開拓、新規採用、資金調達など
報告書は、社長のみならず従業員とともに作成すると、会社の方向性が共有でき、一体感の醸成も図れます。

ちなみに、下記のサイトで、知的資産経営の概略や近畿管内の中小企業が開示している知的資産経営報告書をまとめて見ることができます。
■近畿経済産業局「知的資産経営のすすめ」
http://www.kansai.meti.go.jp/2giki/chitekishisan/chiteki_top.html

尚、冒頭にご案内した「知的資産経営研究会」では、知的資産経営報告書を作成したいとお考えの中小事業者の皆様への個別作成支援をはじめ、会員以外の方でもご参加いただける公開研究会なども開催しております。
ちなみに「知的資産経営研究会」のHPは下記のとおりです。
http://chitekishisan.jp/
ご関心おありの方はぜひこちらのページも覗いてみてください!

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