Members Column メンバーズコラム

企業はヒトの集まり、役所もヒトの集まり

天米一志 (株式会社五星 パブリックマネジメント研究所)  Vol.225

天米一志

組織行動論は、今から80年ほど前に労働者の環境が生産性にどのように影響するのかを実験したホーソン研究所に端を発したとされている。この実験から企業経営は、組織において労働者を管理者に忠実に従わせるという機械的管理よりも、個人の能力を活かせる機会を平等に与えられ、自由があり、成果を評価し本人に返してくれるような人間的な側面を重視する人間的管理が必要であると説いた。今から80年も前に人材(ヒト)を管理することの弊害を示唆している。

組織が成長していくプロセスにおいて、新たな価値を創造する行為は必ず存在する。このプロセスにおいては、上司が部下を指導・育成するというスキームは必ず成り立つとは限らない。上司だろうが部下だろうが一緒になって学ぶ姿勢が必要となる。ある目的を達成するために編成されたチームは、リーダーもメンバーも共学が必要となる。組織構成員には、それぞれの役割があるものの、知識レベルにある程度の均衡が図られなければ、新たな価値創造への道を歩んでいくことは荊の道を進むこととなる。場合によっては、とんでもない方向へ進むこともある。では、知識レベルの均衡を図るためには、どのような要素が考えられるのだろうか。それは、OJTで十分なのだろうか。さらに、OFFJTとOJTとの融合で十分と言えるのだろうか。とても風通しのよい職場において、OJTが活発に行われたとしても、「井の中の蛙、大海を知らず」ということになりかねない。OFFJTも含めて外へ眼を向けることは、知識レベルの均衡を図る目的においても最低限必要となってくる。風通しの良い職場で活発にOJTが行われ、外へも眼を向けているだけでも、まだまだ、不十分である。組織構成員一人ひとりのコンピテンシーとコミットメントとのマネジメントが必要である。一人ひとりに欠けるコンピテンシー(技術、能力、知識、行動など)を発見し、その向上策を考え、実施しなければならない。コミットメントは、一人ひとりのモチベーションを低下させる原因を探求し、その解決策を考え実行しなければならない。
人的資源がどの程度組織へ貢献しているかを判断する勤務評定においては、印象管理が重要な要素となる。タイプの異なる二人の上司について、部下の印象や士気が大きく影響されるのである。例えば、たいへん大柄な態度で部下に指示を出すが、その指示は、とても適切で誰もが納得いく上司と、指示は、とても丁寧であるが、その指示が部下にとって納得いくものではない上司とでは、前者の上司の方が評定を悪くされる場合がある。組織目標達成には、上司の態度がどうであれ結果が重要とされる部分も持っている。しかし、部下への印象が「話にくい。」、「相談しにくい。」、「意見や考えを言えない。」などでは、組織の目標達成に影響が表れる。
組織が業績を高めるために適切な目標を定め、その目標を達成するための能力を個人、集団、組織の全てにおいて身につけることが出来れば、業績は、向上する。業績と能力は、相関関係と因果関係が支えあっている。能力が向上すれば、業績も向上する正の相関関係(絶対ではない。)があり、能力向上が原因となって業績向上が生まれる因果関係(絶対ではない。)も存在している。業績の向上が、能力向上を直接的にもたらすものではない。個人、集団、組織がそれぞれに能力を向上させることで、結果として業績向上に結びつくのである。このことは、人材育成やスキルアップが重要であるということの証である。さらに、意欲と能力の相乗積が生む成果は、組織の業績を牽引するファクターでもある。
組織の継続した成長は、組織が追求する戦略と人的資源マネジメント戦略とが整合している必要がある。コスト重視の戦略を追求する組織と公共サービス重視の戦略を追求する組織とでは、人的資源マネジメントのシステム構築から異なる。つまり、人的資源マネジメントの存在は、組織が追求する戦略によって整合的変化をしなければならない。さらに、顧客満足や市場変化といった外的整合性と職務満足や動機づけといった内的整合性といった視点による構築が必要となる。
従来の地方自治体組織は、公共サービスを提供するため、財源を確保し、効果的な歳出になるようにさえしていれば優等生だった。しかし、今、自治体運営を経営という視点から、公会計制度の見直し、つまり、単式簿記・現金主義から複式簿記・発生主義へと変革されようとしている状況下においては、歳出削減、歳入確保だけに力を注ぐだけで優等生になれない。歳入にもその質が問われるのである。資産の計上、負債の計上、減価償却などがどのような意味をもっているかを理解する必要がある。起債(借金)で建物を建てればいいという時代は、終わったのである。
 未来の公共空間を形成するのは、ヒトであると断定する。

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