Members Column メンバーズコラム

AIと人間と日本の未来

保田充彦 (株式会社ズームス)  Vol.641

久しぶりのKNSコラムです。仕事のことや周りでの出来事など、書きたいことはいろいろあって、どれにしようか悩んだのですが、今このタイミングで書かせてもらうなら、やっぱりこれを書いておかないとだめかな、と思ったことを書くことにしました。AI(人工知能)についてです。

AI革命がやってきた

最近の「生成AI」の発展は本当にすごいですね。昨年2022年の秋頃、MidjourneyやStable Diffusionなどの「画像生成AI」が話題になり、AIで作った画像がSNSで数多くシェアされました。現在は、米OpenAIが開発したChatGPTやGPT-4、いわゆる「対話AI」が一般のニュースでも取り上げられるほど注目され、AI技術の高さだけでなく、「これからのAI社会はどうなるのか」ということが本気で議論され、さまざまな意見が飛び交っています。

「シンギュラリティ」という言葉を耳にされた方も多いと思います。「シンギュラリティ」とは、「AIの能力が人間の知能、さらには人類全体の知能を超える」という未来予測を指します。そのような未来では、科学技術をはじめとする人類のあらゆる営みが猛烈なスピードで発展し、人類の文明は大きく変わることになります。

私はAIの専門家ではありませんが、「来たるべきAI社会」は、私たちすべてが考えなければいけない問題、という思いは以前からあり、2015年の冬に「シンギュラリティサロン」という活動を、宇宙物理学者の松田卓也・神戸大学名誉教授、「ウェアラブルの伝道師」塚本昌彦・神戸大教授、株式会社ブロードバンドタワーの根本茂さんと共同で立ち上げました。(https://singularity.jp/

「シンギュラリティサロン」では、人工知能や脳科学の最前線にいるか科学者・技術者をお招きし、講演と議論を行ってきました。最初はリアルな場(グランフロント大阪のナレッジサロン)でリアルイベントとして、最近はYouTubeで動画配信を行っています。正直なところ、この活動を立ち上げた当初は、自分たち自身も「シンギュラリティ」が本当に来るのかは半信半疑で、半分はSFみたいなものと考えていました。しかし、昨年あたりからAIの急速な発展、とりわけ人間にしかないと思っていた「創造性」の領域にまでAIが入り込みはじめたように感じ、「これはマジで来るかも」と思うようになりました。AIに関する日々のニュースで「技術の加速度的進化」を実感する中、「AIのビッグウェーブ」に飲み込まれたような感覚です。

私は、いわゆる「クリエイティブ業界」で仕事をしていますが、日頃の業務の中でもAIの影響は急激に大きくなってきています。たとえば、映像制作や記事執筆の仕事では、取材先でのインタビューを文字に書き起こす作業があります。この「文字起こし」作業は、数年前までは取材現場で録音した音声をオフィスにもどって聴きながら、キーボードでテキストをタイプする、という昔ながらのやり方でしたが、AIによる音声認識の精度が向上したので、タイプする代わりに音声で入力するようになりました。ただ、現場で録音した音声ではうまく認識されないことも多かったので、録音した音声を聞きながら自分で同じ言葉を話して音声入力していました。これでもタイプ入力に比べると作業はかなり楽になったのですが、昨年登場した「Whisper」という音声認識AIは聞き取り能力が格段に向上したので、現場で録音した音声データから直接テキストを書き起こしても、かなり使えるようになりました。AIのおかげで、文字起こし作業は格段に楽になりました。

その次に「はまった」のが画像生成AIです。MidjourneyやStable-Diffusionなどの画像生成AIに、「プロンプト」と呼ばれるテキストで「こんなものをこんな風に描いて」と指示するだけで、さまざまな対象をさまざまなテイストで絵にしてくれます。このコラムの画像も、画像生成AIで作成したものです。現時点ではまだ、AIの作る絵が人間のイラストレータに常に勝るとは言いませんが、AIは何度でも不平も言わずに、しかも、無料で画像を作成してくれますから、作業のストレスは大幅に減りました。

そして、最近話題になっているChatGPT・GPT-4などの対話AIは、私たちが「考える」領域までも変えつつあります。たとえば、企画業務のアイデア出しでは、ブレインストーミング会議が定番ですが、アイデアをできるだけ広げたくても、参加メンバーの属性よって出される意見が偏ってしまい、議論がまとまらないこともあります。しかし、ChatGPTをアドバイザーとして使えば、テーマに即した背景や課題について、幅広く情報を与えてくれますし、ある程度論点の整理もしてくれるので、メンバーの間で共通認識を持ちやすくなりました。また、出された結果をもとに、提案書・企画書の構成やキャッチコピーまで提案してくれます。AIが提案してくれたものに人間が手を加えることで、より漏れがなく、品質の高いアウトプットが得られるようになりつつあります。

こんなふうにAIは、これまで人間しかできないと思われていたクリエイティブな仕事(そして、おそらくそれ以外のあらゆる仕事も)を、格段に効率的・効果的・高品質にしてくれる可能性を感じます。それは、すばらしい「アシスタント」あるいは「道具」といえるでしょう。それが実際に仕事で使ってみた実感です。

AIへの懸念への懸念

AIが便利な「道具」として私たちの活動を助けれてくれる一方で、急速に発展するAIに対する懸念も生まれ始めています。「AIの間違った答えを信用してしまう」「自分たちの仕事が奪われる」「人間の創造性が失われる」などが、その代表的なものでしょう。いくつかの大学では、学生がAIを使うことを禁止する動きも出てきているようです。

たしかに、現在の最先端のAIでも、できないことはたくさんあります。実際、AIの出す回答には間違いもたくさんあります。しかし、そのような「欠陥」は、これまで発明されてきたどの技術にもあったことで、人間はその技術を使いながら、欠陥を改善し、よりよいものに発展させて社会に役立ててきました。特にAI技術のような「破壊的イノベーション」をおこす技術は、文字通り、人間が築き上げてきたものを破壊しますが、それ以上のものを構築するものでもあると思います。

AIのもつ巨大な可能性は、私だけでなく多くの有識者も確信しています。たとえば、ビル・ゲイツ氏は自身のブログ・レターの中で、「これは革命だと思ったテクノロジーの進歩はこれまで2つしかなかった。ひとつは、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース技術)、もうひとつが生成AIだ」という旨の発言をしています。そして「この革命は今、まさに起ころうとしている」と述べています。

あらゆる技術は「中立」です。AIが人間社会に害を及ぼすのだとすれば、それはAIという技術の問題ではなく、AIを使う人間の問題です。今、人間はAIを遠ざけるのではなく、人類の叡智を集めてその特徴を早く理解し、間違った方向に行かないようにうまく発展させる方法を探るべきだ、と思います。今、AIが社会や人間に悪い影響を与える、と考えている人は、人類の未来のことを心配する、ある意味で「いい人」だといえます。しかし、「いい人」がAIから離れてしまうと、AIを使うのは「悪い人」だけになってしまいます。もしこの革新的技術が悪い人に独占されれば、最悪の未来がやってきます。私はそちらの方が恐ろしいのです。

日本の進む道 – ものづくり文化とAIの融合

もちろん人類とAIの共存は簡単なものではありません。「破壊的イノベーション」であるAIが、近い将来、社会を支えるインフラ技術となった時、これまでの「持続的イノベーション」では、立ち行かなくなる分野もでてくるでしょう。これまではなんとか通用していた「付け焼き刃の対応」や「小手先のごまかし」では通用しなくなります。さまざまなやり方を根底から革新するAIを使いこなすためには、人間側にも高度な創造性が求められるでしょう。そのようなAIはいくつかの「脅威」ももたらすでしょうが、私は、多くの人にとっては、むしろ「機会」になると思っています。特に私たち日本は、AI時代でも生き残れるし、むしろAI社会に向いている国ではないか、と思うのです。それは、日本には長年培ってきた「ものづくり」の文化があるからです。

昨年、巷に画像生成AIが出はじめた時、それをいち早く使って、さまざまな工夫を加えて独創的な絵を作った「アーリー・アダプター」たちには、日本人がたくさんいました。その多くは「アニメ系」「萌系」ではありましたが、逆に言うと、日本の「おたく」たちの創造力と行動力はすごい、とあらためて感じる出来事でした。また、ChatGPTが出ると、それを使ってチャットボットを作ったり、短編小説を作ったり、人生相談したり、法律の堅い文章をポップな歌詞にしたり、と様々な「応用作品」を生み出したのも、日本にはたくさんいました。「新しいものを取り入れ、自分たちの欲しいものを創り出す」、彼ら・彼女らの柔軟性と創造性は、心の底からすごいな、と思っています。できれば私もその一人になりたいものです。

そういう「おたく」気質、もう少し上品な言葉では「職人気質」は、日本人の特長であることは、多くの人が認めるのではないでしょうか。日本が誇ってきた「ものづくり」の文化は、「おたく文化」「職人気質」と同じ根を持っています。そしてAIは画期的な技術とはいえ、あくまでも「道具」なのです。だから、日本人とAIはとても親和性が高い、と私は思うのです。

先日、OpenAIの若手幹部であるシェイン・グウ氏がビジネス系の番組に出演していました。彼はインタビューで、「日本にはワクワクしている」と強い期待を寄せ、その根拠としてあげていたのが、「日本には世界でも有数のものづくり文化があること」でした。日本人は一般に英語が苦手ですが、「AIを使えば言語の壁もかなり克服できるのではないか」という彼の指摘も「なるほど」と思いました。AIは、日本の強みを活かし課題を克服する、素晴らしい道具になる、という直観は間違っていないように思うのです。

少し大きな話になりますが、私たち人類の歴史を振り返ると、画期的な道具の発明が文明を一段高いものに押し上げてきたことがわかります。たとえば、火の発見、製鉄の発明、蒸気機関や原子力エネルギーの開発。画期的な発明・道具は文明が発展するためのエンジンだと言えるでしょう。今、AIという人類史上でもっとも強力かもしれない道具が、やや停滞気味だった現代の人々の創造性に、再び火を着けたように感じているのは私だけではないと思います。

今、この変革の時代を託された私たちは、個々人の願望や特定の組織の利益など、狭い欲望に支配されることなく、AIという「新参者」を排除するのではなく、その可能性と課題を少しでも早くみつけて、人類のために使いこなす使命が課されているのではないでしょうか。それがうまくいけば、この後何百年、もしかしたら何千年の間、これまで想像もできなかった素晴らしい未来を享受できるかもしれません。私たちはその始まりを目撃できるかもしれない、と思うと、身震いするほどワクワクします。

この文章を書く前に、ChatGPTに「AI社会の歌の歌詞を作って」とお願いしたら、次のような答えが返ってきました。「人類とAIの共存」について、AIの方はいつでもウェルカムのようです。後は人間次第ですね。

保田:もうすぐやってくるであろう「AI社会」に、私たちがどう対応すればいいのかについて、みんなの道標になるようなポピュラーソングの歌詞を作っていただけますか。

ChatGPT:
(Verse 1)
未来が訪れる、AIの時代、
人と機械が共に歩む道、
変化を恐れず、手を取り合って、
新しい世界を創り出そう。

(Chorus)
AI社会、輝く明日へ、
イノベーション、情熱が交差する場所、
共に学び、成長していこう、
みんなでつくる、未来の道標。

(Verse 2)
知識を共有し、力を合わせて、
テクノロジーがもたらす恵み、
倫理とバランスを見失わず、
人間らしさを大切に抱きしめよう。

(Bridge)
不安や疑問が渦巻く中でも、
愛と勇気を胸に秘めて、
互いに支え合い、助け合おう、
AI社会、共に歩む未来へ。

(Chorus)
AI社会、輝く明日へ、
イノベーション、情熱が交差する場所、
共に学び、成長していこう、
みんなでつくる、未来の道標。

(Bridge 2)
AIの力で、夢を広げよう、
限界を超えて、新たな扉を開く、
みんなで築く、未来のビジョン、
AI社会、希望に満ちた明日へ。

(Chorus)
AI社会、輝く明日へ、
イノベーション、情熱が交差する場所、
共に学び、成長していこう、
みんなでつくる、未来の道標。

(Outro)
手を取り合い、歩むこの道程、
AI社会、新しい時代の幕開け、
みんなで繋がる、未来の輪、
喜びと感動を、永遠に抱きしめよう。

(作・ChatGPT Plus)

写真画像 作:Counterfeit-V2.5/Stable Diffusion + A.Yasuda

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