Members Column メンバーズコラム
KNSと社会関係資本論
与那嶺学 (有限会社協働研究所) Vol.333
みなさん、こんにちは、協働研究所の与那嶺です。
いま、業務の関係で「社会関係資本論」について少し整理しているところです。
今回のコラムは備忘録を兼ねて、この社会関係資本論とKNSの関連について書いてみたいと思います。
(「信頼」「お互い様」「ネットワーク」が社会関係資本)
社会関係資本は、おおかた上記の3つが構成要素と言われています。
この3つの構成要素は、KNSというコミュニティとかなり親和性がありますね。
社会関係資本論は、政治学者のロバート・D・パットナムが火をつけたと言われていて、
とくに「孤独なボウリング」という600ページ以上もある大著が古典として有名です。
(「孤独なボウリング」が示す問いーなぜ情報化が進むのに人々は以前より孤独になるのか?)
パットナムの「孤独なボウリング」では、概ね80年代以降の米国で、スポーツのクラブチーム、職場の交流、宗教
コミュニティ、政治などのあらゆるところで、「人々の結びつきが弱くなった」ことをデータを用いて検証しています。
”情報化と孤独”、”多忙と孤独”などが同時に進行する社会?これに抗うように”ゆるやかなつながり”を我々は
どう回復・再生するか? これは非常に重要な問いだと思います。
(ボンディング(結束)型とブリッジング(橋渡し)型)
社会関係資本は、ボンディング型とブリッジング型があると言われており、ボンディング型は”同質的なものの結
びつき”を、ブリッジング型は”異質なものの結びつき”を主に担います。
KNSは明らかにブリッジング型になります。異質なものをつなぐ機能をもつので、大きな時代の変化への対応に
必要な情報がコミュニティに入りやすいという特徴があるようです。したがって学際的な研究や新しい製品開発
などにおいては、ブリッジング型の組織が適しているといえそうです。
一方、ボンディング型は町内会や同窓会など、特定の目的をメンバーから構成されています。帰属意識が高い
ことに加えて、厳しいオキテがあるケースなどもあって、成果が生まれやすいという議論もあるようです。
(途上国の産業クラスター形成と社会関係資本)
開発経済学の分野の議論では、繊維産業などのクラスター形成をはかる際には、社会関係資本はたいへん
重要な要素になるようです。というのも、納期遅れ、不誠実な顧客との対応などがあった場合は、”噂がすぐに
広まってしまう”ためです。社会関係資本のなかの「信頼」を大きく損なうことになります。というわけで、信頼を
基底にしている産業クラスターは取引コストが低いというメリットに加えて、新しい革新・変革が生まれやすいと
言われています。
(健康と社会関係資本)
また、アメリカ・ペンシルバニア州にイタリア系移民が多く住むロゼタ地区があり、1950-60年代に心臓疾患
が周辺地区と比較して大きく下回る時代がありました。そこには目的意識や仲間意識があり、誰も見捨てない
という気遣いが暮らしのなかにあったようです。ところが60年代以降、そうした価値観が消えていくに連れて、
心臓疾患は周辺地区と変わらなくなったそうです。こうしたことから、ひとの健康や平均余命と社会関係資本
には重要な関わりがあるようです。
(KNSと社会関係資本)
社会関係資本は物的資本(設備等)、社会資本(道路・空港等)、人的資本などとならんで極めて重要な社会
資本のひとつです。これら資本のなかで、”計画的に整備できない”のは社会関係資本だけです(人的資本を
教育によって整備可能とすればですが)。
社会関係資本を創りだすには、「心地よい」「元気になれる」「楽しい」といった、体感でしか理解できない側面
がたくさんあります。したがって言語化や計画論にそぐわないところがあります。
80年代以降、米国で起こったコミュニティの活力低下のように、いま日本もそうした状況にあると多くのひとが
感じていると思います。
しかし、KNSはこうした”活力低下”の状況になる兆しが見えません。私個人としては、その要因として、
(1)目的的な集合の色が薄い(その目的が時代にそぐわなければコミュニティの活力も低下する)
(2)理性よりも感性が満たされやすい
(3)メンバーに多様性がある
(4)フラット原則をコミュニティが有している
が挙げられると考えています。
(添付写真は、休日に地域住民が集まって、お昼をみんなで食べている「千里ピクニック」の写真です)
【参考資料】
「ソーシャル・キャピタル入門ー孤立から絆へ」(稲葉陽二)
「孤独なボウリング」(ロバート・D・パットナム)
「なぜ貧し国はなくならないのかー正しい開発戦略を考える」(大塚啓二郎)