Members Column メンバーズコラム
城好きによる一論考
丹生晃隆 (宮崎大学) Vol.331
昨今の歴史ブームと相まって、日本のお城に関心を持つ人も増えてきているように思う。漆喰が塗り直された姫路城、築城当時の祈祷札が発見され、新たに国宝に指定された松江城、大河ドラマの舞台にもなっている上田城や大阪城など、最近の話題も多い。著名人によるお城の訪問記を見かけることも多くなってきた。かくいう私も城好きの一人である。日本の歴史の舞台となった場所を訪ねることが好きで、旅行というと城や城下町を中心に回ってきた(一種のフィールドワークのようなものである)。
お城というと誰もがまず天守閣を思い浮かべるだろう。確かに、その街のシンボルともなる天守閣は美しい。なかでも、国宝5城を含む、天守閣が現存する12城はそれぞれ味がある。しかしながら、現存・復元に関わらず、城には天守閣がある城とない城がある。城自体は本来防御のために築かれたものであり、石垣、水堀、空堀、土塁を含めた自然地形、櫓や御殿・屋敷、門や橋、塀などによって形作られている。城下町まで広げると、武家屋敷や庭園、藩校、藩主の菩提寺などの寺社、外部の侵入を防ぐ鉤(かぎ)型路、町人街や商人街などの町割りも城下町特有のものである。私にとって城とは、その城や城下町に関わる歴史や文化を感じられるものすべてあり、その中でも、築城当時や旧藩時代から現存しているもの、現在でも当時を感じられるものに強く惹かれる。
今回のコラムにあたって、私が今まで訪ねた城の中で印象深い場所をいくつか書かせていただくことにした。私自身、あまり観光客が行かないような場所を訪ねることに大きな喜びを感じる一人である。一般的に言われるメジャーなものはあまりないと思われるが、城好きの勝手な一論考として読んでいただければと思う。
1)四稜郭
函館というと五稜郭が有名だが、箱舘戦争当時、北方の守りを固めるために造られた城が四稜郭である。五稜郭は星形だが、四稜郭はちょうど蝶が羽を広げたような形になっている。土塁でつくられた城自体は、ほんの数日で落ちてしまったようなのだが、その当時、急ごしらえであったとしても洋式城郭を造ったことがとても興味深い。
2)八王子城
北条氏康の三男、北条氏照が築いた山城である。秀吉による小田原攻めの際に、攻防戦もむなしく落城し、悲話も残る城である。近年、御主殿跡周辺がよく整備され、曳橋が復元されているが、この城の見所は、山頂の本丸へと続く「殿の道」である。戦国期の石垣がとても良い状態で残っている。
3)備中松山城
備中松山城は、天守閣が現存する城の一つである。本丸までちょっとした山道となるが、二層の天守閣と二重櫓が連なる姿がとても美しい。この城のさらに山奥に、「大池」と呼ばれる貯水池があることはあまり知られていないようだ。山城にとって水は生命線である。石造りの水場から、ここがいかに大事な場所であったかを知ることができる(写真参照)。
4)萩城
萩は毛利氏の城下町である。詰城の指月山や天守台の石垣、世界遺産に指定された反射炉や松下村塾、幕末の志士の旧居など見所はとても多い。なかでも私の一押しは、屋根を葺いた船倉としては唯一現存している「御船倉」である。現在は完全に街中にあるが、築城当時はここまで海が来ていたのかと思い返すことができる。
5)高松城
海に面している城はいくつかあるが、高松城はその中でも見所が多い。現存する三層櫓3棟に加えて、天守台の石垣も見事である。隣接する香川県立ミュージアムには当時の石垣が残され、城と街が共存している様子が感じられる。この城で面白いのは、堀に海の魚が生育しているところである。大きな鯛が堀で悠々と泳いでおり、餌場も設けられている。
6)福江城(石田城)
福江は長崎県五島にある城下町である。城が完成したのは江戸時代も末期の1863年であり、松前城とともに最後期の日本式城郭とされる。石垣というと角張った石を思い浮かべるが、この城の面白いところは、一部に丸石が使われていることである。城はその土地にあった材料で造られていることを感じさせる遺構である。
7)中世~戦国期の山城
最後は、中世から戦国時代にかけての山城である。上記の八王子城が該当するが、一つに選びきれなかった。躑躅ヶ崎館の詰城にあたる要害山城、浅井氏の小谷城、畠山氏の七尾城、尼子氏の月山富田城などが特に印象深い。近世城郭の整然とした石垣ではなく、自然の地形を活用しつつ斜面に築かれた石垣や堀切は、現在において戦国期を感じさせる貴重な遺構である。
城好きの一論考といいつつ、勝手なランキングになってしまった感があるが、今まで訪ねた城を北から南まで思い返しながら書かせていただいた。書きながらも、上田の真田本城もあった、洋式城郭では龍岡城、関西では千早城・赤坂城が一押し、丹波篠山城の馬出しも素晴らしい、備中高松城の水攻め遺跡も哀愁を誘う、船というと対馬藩のお船江も見ごたえがある、岡城や人吉城の石垣もいい、飫肥の城下町も味がある等々、思い返せば思い返すほどいろいろな城や遺構が頭に浮かんできた。収拾がつかないので、今回はここで締めたいと思う。当然ながら、今回触れた場所以外にも見所はたくさんあり、私がまだ行ったことのない城や城下町もたくさんある。ここは面白い!というお薦めの場所があったら是非教えていただきたいと思う。
城や城下町も時代の流れとともに移り変わっていくものである。残念なことだが、戦災や失火で失われてしまった城も実はかなり多い。城好きの勝手な思いではあるが、街に溶け込みながらも、築城当時の姿ができるだけ保たれ、今ある姿を失っていかないことを願っている。最後に、今年4月の震災で熊本城が大きな被害を受けた。倒壊した櫓や崩れた石垣を見る度に心が痛む。1日も早い復興を祈るばかりである。