Members Column メンバーズコラム
ものづくり企業と進化論
森田誠 (大阪府立東大阪高等職業技術専門校 テクノ推進班) Vol.308
いよいよ今年度を終えますと区切りの年となり、大阪府の職業訓練指導員として採用され35年目の年を迎えました。その間、障がい者の方の職業訓練、JICAから海外技術研修生(メカトロニクス:自動化技術)、若年者の方々の職業訓練(中高年も含む)、直接の訓練の指導から、現在、お仕事をされている方々向けの職業能力向上の短期間の職業訓練の企画運営(現在も続く)を行っています。
元私企業に勤務の経験があり、なかなか公務員体質になじめないまま定年を迎えそうです。
【大阪のものづくりの現状】
昨年、異動があり18年ぶりに東大阪市菱江にあります「大阪府立東大阪高等職業技術専門校」に異動となりました。機械科の職業訓練指導員として、ものづくりの訓練科目が最後の勤務地となることは光栄なことと感じております。
ただ18年の年月で周辺の雰囲気が何やら違う!事業所数の減少です。
平成15年、事業所数:約27,000社、従業員数:約54万5千人弱が、平成26年には事業所数:約17,000社、従業員数:約43万7千人、事業所数10,000社、従業員数10万人以上の減少が起こっています。
後継者不足による廃業が多いとお聞きしました。一方、都市型サービス産業の人口が増えています。特に小売業は、“爆買い効果”で潤っているようですが立地の差による陰と陽があるようです。国内消費を活性化するため関税をあげるようですので、この効果にも少しブレーキがかかる気配です。
人口減少による内需の縮小の中、地域外需要の取り込みに貢献している製造業の規模が縮小していることは憂慮すべき事実です。
時々、この事業所の減少をダーウィンの進化論に例えられるケースがあるのですが、「環境の変化」とは、「自然の変化」を対象にしていると認識しています。
人為的な環境の変化ではなく、自然界の大きな変化その変化に対応し生存し続けた種が結果的に生存している。それとは、異なり人為的に明らかな外乱があれば、その変化に対応するまでもなく種が途絶えることもあり生態系が崩れることになります。
今、起こっていることは自然な変化なのでしょうか、それとも人為的な変化なのでしょうか。私はカトリックでもクリスチャンでもありませんが、ヨハネ・パウロ2世が来日され、広島において日本語で語られた「戦争は人間のしわざです。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です。」とのことば、人為的な自然破壊は人為的に守ることも可能なはずです。
例え話が極端であったかもしれませんが、大阪のものづくり関連企業の極端な現象の中に隠れているものは、単に後継者の不足による事業承継の困難さで終わる話ではないのです。
従来、我が国のものづくりは『分業』という制度で、その地域のものづくりが他の地域に流出しない(堺の刃物は、鍛造と研ぎは別々の職人の手により仕上げることにより、同時に職人が流出しなければ完成品は作れない)しくみが概ねどの地域でも形成されていました。
特に、大阪は独立系の企業が多く『得意』・『特異』な技術を持った複数の企業が『横受け』といった関係を持ち、独立した専門家が集まることにより様々な要求に応えられる「ものづくり集団」が出来上がったわけです。また、その技術屋集団は『道具』・『装置』も情報交換を行い、また自社の技術を他社の技術を補完する関係があったことからも他地域と比べ、コスト・納期・品質で勝る地域で差別化されてきました。
そのような地域で、相互の関係が乱れることと生態系が乱れることは似ており「他社の廃業」が「自社に与える影響」を考慮した事業継承・事業継続BCP:(Business continuity planning)も考慮する必要性が生じているのではないかということです。
一部、外部に委託していた加工を内製化する動きも見られます。しかし、その分リスク「設備投資、人材育成・確保」が新たな課題となってきています。特に人不足、経験者不足は大きな課題です。
製品を作りこむ流れを管理するSCM:(supply chain management)の考え方を広げ、製造する設備・道具類の維持管理に関する情報を整理することも重要度を増してきています。まだまだ、この分野にはユニバーサルデザインのコンセプトのもと自動化の推進の余地があります。あわせてそれに絡む『知的財産』も期待できます。
これらは、現場の現状を見たり聞いたりし、私的な感想・意見としてご理解していただければと思います。
【このような企業の減少を食い止めることができるのか?】
結論は「わかりません」なのですが、以前からフランスの技術・技能の承継に関心を持っていて何かヒントが得られる気がしています。フランスでは『営業権の売買』が日常よく行われ新聞広告などにも情報が掲載されているそうで、例えば、「パン屋さんの営業権売ります。」といった記事が新聞に載り、当たり前のように権利を売却し、新たな店の開店資金に充てるそうです。パン屋さんの場合、次はケーキ屋さん(パテシエ)の開業により職人としての地位を高めるそうです。
また、国として技能の顕彰もしっかりとしていて、顕彰者には年金が支給され後継者育成の資金が提供されるそうです。
我が国の事業承継の一つに、「のれん分け」といった制度があり、腕をあげた従業員に「独立・開業」を促し、資金援助も行い事業を継承してきました。このようなポイントが「種の継承」のヒントになりそうな気がしています。
【まとめにかえて】
身の回りの『モノ』を見たとき、「それは、いくつの企業・どのような設備・どのような技術・技能」が含まれているのか想像してみること。「どのようにして作っているの」と意識する人が増えれば、「じゃぁ、その流れの一部が絶たれたとき」代替する技術・技能は有るか無いのか、そこで『種』が絶たれるとその影響がどのような形で現れるか見極める人材も必要とされるでしょう。
企業の情報を発信する工夫の中に、加工可能な大きさ・形状、保証できる品質レベル、納期管理の実態といったデータ、インデックス別に検索できるしくみづくりなども連鎖的な廃業を食い止める手段であると考えています。
KNSにお集まりの皆様からのご意見・ご指導がいただければ幸いです。