Members Column メンバーズコラム
中小企業が直面する「人材難」を乗り越えるためには?
東純子 (大阪産業創造館 経営相談室) Vol.804
労働人口の減少が加速する現代において、中小企業にとって「人材の確保」は経営の最優先事項であり、同時に最大の壁でもあります 。大阪産業創造館 経営相談室で日々私がお聞きする話の中でも、特に「人材」に関する悩みを訴える経営者は後を絶ちません 。
先日も、製造業の社長から切実な報告を受けました。
現場を担うメンバーとして50代の社員を2名採用したものの、1か月もたたないうちに両者ともに辞めてしまい、急遽、派遣会社から外国人の方を2名確保して現場を繋いだという事例です 。
この社長は以前から外国人採用に関心をお持ちで情報収集をされていらっしゃいましたが、当時は、文化の違いや受け入れ態勢が未整備といったハードルの高さから、あくまで選択肢のひとつという認識でした 。しかしながら、深刻な欠員を前に、自社は「まだ先のこと」と考えていた外国人人材の受け入れを現実的な選択として突きつけられることとなりました。
このように、採用活動は往々にして「急場しのぎ」になりがちです。しかし、持続可能な組織を作るためには、入り口となる採用の対象者を広げる柔軟な思考と、定着を見据えた戦略が不可欠です。今回は、中小企業がこの難局にどう向き合うべきかを深掘りします。
1.「採用対象者」を柔軟に広げる戦略的思考
人材確保が難しいと感じる際、多くの企業は「これまでと同じ条件・属性」の人材を探し続ける傾向にあります。しかし、労働市場が劇的に変化している今、採用のハードルを下げるのではなく、「採用の対象者」を広げ、柔軟に考え直すことが突破口となります 。
(1)「経験者」から「可能性」へのシフト
即戦力となる経験者のみを求めていると、中小企業は大手企業との高待遇競争に巻き込まれます。しかし、技術継承や現場の定着においては、年齢や国籍といった既存のフィルターを外すことで、思わぬ好循環が生まれることがあります。先の事例の通り、外国人採用は今や避けて通れない大きな選択肢です。言語や文化の壁を「ハードル」と捉えるか、「組織の多様性を高めるチャンス」と捉えるかで、受け入れ態勢は全く異なるものになります。
(2)「何を」よりも「誰と、何のために」
今の求職者は、「何をするか(職務内容)」と同じか、それ以上に「誰と、何のために働くか(組織のビジョンや雰囲気)」を重視する傾向があります 。社内のリアルな雰囲気や、実際に働いているメンバーの日常を可視化することは、応募者の心理的なハードルを下げることができます 。現場の熱量や経営者の思いを伝えることこそが、ミスマッチを防ぐ第一歩となります 。
(3)機動力を活かした「働き方の個別化」
中小企業の最大の強みは、意思決定の早さと、状況に応じてルールを柔軟に変えられる機動力にあります 。画一的な「正社員は9時から17時勤務」という枠組みに縛られない働き方ができるかも検討してみましょう。
ライフスタイルに応じた働き方として、 短時間勤務、副業の許可、週3日勤務などの選択肢を用意することは、これまで労働市場に出てこなかった層(育児中の層、シニア層、副業でスキルを磨きたい層)を呼び込む強力な武器となります 。さらに、多様な人材のスキルを『スポット(短時間・高密度)』で活かすという視点を取り入れることで、採用する側の選択肢も広がります。
2.採用の先にある「組織社会化」による定着(リテンション)
せっかく獲得した人材であっても、早期離職をしてしまっては費やした採用コストも時間も水の泡です 。人材確保を考える上では、入り口の「採用」だけでなく、出口を塞ぐ「定着(リテンション)」の仕組みをセットで設計しなければなりません 。
そこで理解しておきたいのが「組織社会化(organizational socialization)」という概念です 。 組織社会化とは、個人が組織の一員になるために必要な態度、行動、知識を習得するプロセスを指します 。これは単に「研修を行う」といったことではなく、組織と個人の「相互の働きかけ」から成り立つプロセスです 。組織の側は影響力を発揮して、新規参入者の変容を促そうとするし、新規参入者の側は、自分が受け入れることが可能な組織内役割を獲得しようとします。このプロセスは入社時に最も顕著であり、この時期に「自分は組織に受け入れられている」という感覚を持てるかどうかが、その後の長期的な定着率を左右します 。
この組織社会化を成功させるためには、以下の取り組みが有効です。
(1)定期的な1 on 1ミーティング: 形式的な面談ではなく、相手の悩みや適応状況を聞き出し、「この会社は自分を受け入れてくれている」という安心感を醸成する場として活用します 。 生成AIを導入が進むからこそ、人間にしかできない感情の通ったコミュニケーションの重要性が高まっています。
- 納得感のある評価制度: 属人的な評価ではなく、何がどう評価されるのかが明確な制度を整えることで、「適正に評価されている」という納得感を生み出します 。
- 信頼関係の土台作り: 制度はあくまで手段です。重要なのは、経営層や周囲の既存社員が、新しい仲間を組織の力として尊重し、信頼関係を築こうという姿勢を示すことです 。
3.「人が人を呼ぶ」好循環を目指して
人材が定着し、組織が安定すると、社内にはポジティブな空気が流れます。そうなれば、「あの会社は働きやすい」「やりがいがある」という評判が外部に伝わり、高額な求人広告に頼らずとも、紹介(リファラル)による質の高い採用が可能になります 。AIなどの技術活用により業務の効率化は進んでいきますが、その業務を最終的に運営・管理するのは「人」です 。どれだけ技術が進化しても、人がいなければビジネスは円滑に遂行できません 。
今、人材確保に難しさを感じている経営者の皆様は、一度視点を変えてみてください。採用の対象を広げ、組織社会化のプロセスを通じて「個」を大切にする組織へ進化させること。それが、中小企業がこの激動の時代を勝ち抜くための武器となります。
大阪産業創造館では、「人を大切にする組織づくり」応援プロジェクトとして、人材確保に関する情報発信や相談窓口をご用意しています 。人材に関する悩みを抱えている方は、ぜひ窓口までお気軽にご相談ください 。
