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けいはんなで橋を架ける仕事と、北京ロボタクの旅

高柳 竜太 (公益財団法人 国際高等研究所)  Vol.820

今年5月、京都府から公益財団法人国際高等研究所へ出向することになった。

それまで文化学術研究都市推進課で、けいはんな学研都市のスマートシティや自動運転、産学公連携などに携わってきたが、突然の人事異動である。

 

「国際高等研究所」

名前だけ聞くと、ものものしくて何をしているところなのか、少し分かりにくいかもしれない。。

少しだけ、その成り立ちから紹介したい。

 

国際高等研究所が立地しているけいはんな学研都市は1970年代後半に、元京都大学総長の奥田 東氏の「地球的規模の課題・危機を日本の力で解決したい」との熱い想いから、その構想がスタートした。

 

「人類の未来と幸福のために、何を研究すべきかを研究する」。

高等研は、個々の研究テーマに取り組むだけではなく、これからの社会や学術を俯瞰しながら、けいはんなが未来に向けて何を考え、どこへ進むべきなのか。その道筋を学術の側から考え、いわばグランドデザインしていく役割を担う、けいはんなの中核的な研究機関として、アメリカのプリンストン高等研究所などをモデルに設立された。これだけ聞くと、なかなか壮大な機関だ。

 

現在は、大阪大学の第18代総長を務められた西尾章治郎先生が、2025年10月に第9代所長に就任し、その研究活動を率いている。

 

そして西尾所長のもとには、それぞれ全く異なるバックグラウンドを持つ3人の副所長がいる。

画家であり、京都市立芸術大学の理事長・学長も務めた赤松玉女先生。

科学技術と社会の関係を長く研究してきた小林傳司先生。

数学・数理科学を専門とする山田道夫先生。

芸術、科学技術社会論、数学。

こうして並べただけでも、普通の研究所とはちょっと雰囲気が違う。

 

その体制の下、「Building Bridges Beyond 2030」を活動方針として掲げ、「学問の分野と分野の間に橋を架けること」、「産学公住、けいはんなに集まるさまざまな主体の間に橋を架けること」を両輪として活動をしている。

 

1つ目では、3人の副所長がそれぞれ研究代表者となって、3つの「自主研究」を進めている。

赤松副所長の「文化芸術と科学の対話の構築」。

小林副所長の「社会課題の変容に対応する学術の新たな布置の探求」。

山田副所長の「横断数理科学の新規開拓」。

芸術と科学、学術と社会、数学とさまざまな研究分野など、これまで必ずしも近くなかった領域をつなぎ、その間から新しい問いを見つけようとしている点では共通している。

その一例が、赤松副所長の自主研究から生まれた「アート茶会」である。

 

高等研には「雅松庵」という本格的な茶室がある。

この茶室を舞台に、芸術家と科学者が一緒に作品を見て、考え、対話する。

テーマは、「茶室は静かな思考の実験室になりうるか?」である。

作品について詳しい人が正解を解説する場ではない。

 

1つのものをじっと見ながら、

 

「自分にはどう見えるのか」

「なぜそう感じるのか」

「他の人にはどう見えているのか」

 

と考えていく。

 

芸術家が作品をつくる時も、科学者が研究を進める時も、観察して、考えて、また観察する。その思考のプロセスには、実は似たところがあるのではないか。

 

茶室という少し特殊な空間を通じて双方の出会いとそのあわいを探る、高等研らしい取組の1つだと思う。

「茶室は静かな思考の実験室になりうるか?」 — アート茶会@国際高等研究所 試行回

 

もう1つ、紹介したいのが「全国キャラバン3QUESTIONS」である。

 

2023年度から2025年度にかけて、全国9地区を巡って行われた研究者によるポスター発表・対話のプロジェクトだ。

 

普通の研究発表なら、研究者の名前、所属、肩書、研究成果などがまず前面に出るが、3QUESTIONSではそれをいったん脇に置き、研究者は匿名で、

 

「何を知りたいか」

「そのために何をしている、あるいはしようとしているのか」

「皆への問いかけ」

 

という3つの問いをポスターに表現する。

 

分野も所属も分からない状態で、研究者や市民、企業の人などがそれを見て対話する。

 

肩書や専門分野を見て「これは自分とは関係ない」と判断する前に、まず「問い」そのものを見るのである。

 

完成した研究成果を発表するだけではなく、そもそも自分は何を知りたいのか、別の分野の人から見たらその問いはどう見えるのかを考え直す。

 

「何を研究すべきかを研究する」という高等研の理念が、かなり分かりやすく形になった取組だと思う。

 

3Questions-全国編

 

そして2つ目の、「けいはんなのさまざまな主体の間に橋を架ける」ことであるが、今まさに私が携わっている仕事でもある。

 

現在は「所長特命課長」という肩書きをいただき、大学、研究機関、企業、行政などをつなぎながら、けいはんな学研都市全体のイノベーション・エコシステムづくりに取り組んでいる。

 

研究成果を研究室の中だけで終わらせず、実証し、社会に実装し、場合によっては新しい事業につなげていく。

 

そのための仕組みづくりや、大学・研究機関同士の連携、学生や若手研究者の交流、国内外の研究機関との連携など、あれこれ手を広げているところである。

 

「この取組とこの企業をつないだら面白いのでは」

「これは誰に相談したらいいんだ」

「この制度、何かに使えないだろうか」

 

などと考えながら、人に会い、話を聞き、資料をつくり、調整をして、また別の人に会う日々である。

橋を架けるというより、まだ川の両岸をウロウロしながら、橋脚をどこに立てようか、もしくはとりあえず川に飛び込んだろうかと考えているくらいの段階だ。

 

それでも、けいはんなには面白い企業、技術、取組、そして人がたくさん存在している。

「あの人とこの人が話をしたら何か起こるのでは」と思ったところをつなぎ、そこから新しい研究や事業が生まれる。ある種、けいはんなで仕事をする醍醐味をぎゅっと詰め込んだような感じかもしれない。

 

さて、、ここまで真面目に仕事の話を書いたので、ここからは少し話を変えたい。

京都府でけいはんな学研都市を担当していた頃、私が特に深く関わっていた仕事の1つが「自動運転」だった。

 

担当して約2年。自動運転バスに何度も乗り、事業者や自治体と議論し、実証実験からその先の社会実装について、あれこれ考えてきたところでの人事異動。

 

行政職員なので異動は仕方がないが、やっぱりちょっと寂しい。

 

そんな頃、以前から一緒に自動運転を担当していた同僚と、残業終わりに王将で餃子をつつきながら、「北京なら観光も兼ねて私費で行ってもいいですよね」なんて話をしていた。

 

中国では、すでに運転手のいないロボットタクシーが走っている。

自動運転に関わった身としては、一度は乗ってみたいと思いつつ、その時点では半分雑談だった。

 

時は流れ、夏は北海道へ行こうと、推しのライブと競馬を絡めた我ながら完璧な旅行プランを組み上げていたある日、

「北京行く日程が決まりましたよ!どうします!?私は行きますよ!」

まあまあ迷ったものの、「北京ダック食べたいですよね!?≒ロボタク乗りたいですよね!?」

の一言で心の天秤は完全に北京へ傾き、北は北でも北京行きが決定した。

 

そして7月。北京首都国際空港から向かったのが、北京経済技術開発区、通称「亦荘」。

 

ロボットや自動運転関連企業が集積するエリアで、街中には配送ロボットが走り、お目当てのロボットタクシーも普通に目に入ってくる。

 

どことなく、「けいはんなに似てなくもないな」などと思いながら街を眺めていると、いよいよロボタク初乗車の時間がやってきた。最初に乗ったのは「WeRide」

 

アプリで車を呼んでしばらく待っていると、黒いワンボックスカーが道の向こうからやってきた。

運転席には本当に誰も乗っていない。アプリでドアを解錠し、乗り込み、シートベルトを締めて発車ボタンを押す。車が滑らかに動き出し、そのまま当たり前のように一般車が走る街中へ入っていった。

 

右折、左折、車線変更。割り込みにも対応する。追い越しもする。あげくクラクションまで鳴らす。

 

なまじ運転経験があると、他人の運転には「あ、今行くの怖い」「ちょっと車間近くない?」と思う瞬間があるものだが、不思議なほどそれがない。

以前、けいはんなの自動運転バスに乗った人が「子どもの運転よりよっぽど上手」と言っていたが、北京のロボタクに至っては「下手なタクシードライバーより安心」といったところだった。

 

次に乗ったのは「Pony.ai」。

同じくアプリ配車でUターンをかましながらの登場だ。

今度は夕方のラッシュアワー、しかも途中から雨まで降ってきた。

それでも、渋滞の中を車線変更しながら普通に走る。

 

大きな水たまりを認識して減速までした。

車内では音楽も流せるし、乗る前に車内温度を設定することもできるらしい。

 

もはや「自動で走る車」というより、「移動するプライベート空間」である。

 

一方で、目的地に到着してドアを開けた足元には、とんでもなく大きな水たまりが待ち構えていた。

そこは避けてくれへんのかい。

 

今回、北京でロボットタクシーに乗って強く感じたのは、やっぱり「実際に現場へ行ってみる」ことの大切さだった。

 

資料を読めば、どんな技術を使っているのか、どこまで無人化されているのか、いくらでも調べることはできる。

 

でも、街中で無人の車が自分を迎えに来て、自分でドアを開けて乗り込み、一般車に交じって走り、目的地で降りる。

 

その一連を経験して初めて、「ああ、これはもう実証実験ではなく、サービスなんだ」と実感できた。

 

考えてみれば、高等研に来てからの仕事も少し似ている。知らない分野の人に会ってみる。

これまで接点のなかった組織をつないでみる。そして、面白そうなものがあれば、自分でも現場まで見に行ってみる。

 

学問の間に橋を架ける。

けいはんなの人や組織の間に橋を架ける。

そして時には、自分自身がその橋を渡って、知らない世界を見に行ってみる。

 

もっとも、「現場を見なければ!」と言いながら北京まで行き、ロボタクに乗り、北京ダックをたらふく食べて帰ってきたので、どこまでが仕事への探究心で、どこからが単なる旅行好きなのかは、自分でもよく分からない。そこのファジーさもまたけいはんなでの仕事の魅力と、自分に言い聞かせて、毎日を過ごしている今日この頃。

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