Members Column メンバーズコラム

高齢化社会に思うこと

吉田耕治 (合同会社キックティー/大阪大学)  Vol.302

吉田耕治

今年の1月13日に母方の叔父が心不全で他界しました。お正月に倒れ病院に運ばれ、亡くなる一週間前辺りからICUに入れられました。連絡をもらって駆け付けた時は呼びかけても反応せず、いわゆる「スパゲッティー状態」で生かされていました。(苦笑)
http://yamatodamasii.jp/1740.htmlより
 そのとき感じたことは、叔父さんやご家族には申し訳無いのですが、現代の医療技術をもってすればいつまでも生き続けるのではないかという何とも言えない「恐怖」でした。

 それからしばらくして、デンマークの高齢者介護の現状を聞く機会がありました。「デンマークには寝たきり老人はいない」ということばに衝撃を受けました。デンマークでは福祉サービスが行き届いていてしかも無料あるいは低料金で享受できます。しかし、その内容は我が国の介護士から見ると「ほとんど何もしない」と言っても過言では無いそうです。つまり、自分でできることはどれだけ時間がかかっても自分でやってもらうという方針で、介護士は傍で見ているだけという状態だそうです。自分で立って歩き、自分で食べる。自力で食べることができなくなっても日本の様にチューブで栄養を胃に直接注入するなどということはしない。即ち、自分で歩き、自分で食べられなくなるという状態は「人の死」だというコンセンサスができているのだと想像しました。だから、「寝たきり老人はいない」という訳です。
 また、高齢者の方が老後を過ごす場所ですが、日本の様に病院かと思わせるような無機質なものではなく、自分がこれまで使っていた家具や調度類を持ち込める様になっています。それまで送っていた時間や空間を極力維持できる様な工夫が随所にちりばめられています。もちろん、朝食は何時までとか、消灯時間は何時などという「管理」も無いそうです。

 一方、当然のことながら、それを支えるのに一般国民は高い負担をしています。所得税は55%、消費税は25%、車に至っては280%課税されるそうです。400万円のレクサスが1,120万円という計算です。当然こうなってくると支える世代は大変です。貯金なんてできません。でも貯金する必要がないのです。教育費は大学まで無料、医療も介護も無料、住宅も25%が国営で無料だそうです。国民は税金の使い道を決める政治家を「完全に」信頼していて選挙の投票率は90%を超えるということです。まるで、SF小説を読んでいる様な感じですよね。

翻って日本の現状はどうでしょうか?
 先日偶々確定申告の件で税理士と話をする機会があり確認したのですが、所得に掛かる税率は諸々入れて20%程度。社会保険も入れると20数%といった感じです。しかし、年収260万円以下の人は非課税なので、働く人の2/3は税金を納めていないということになっています。そして、デンマークは上述の様に教育福祉関連は税金で賄われるのに対して、日本の場合は基本的に受益者負担ですから、ベースを揃えると日本も51.7%の税金を課せられているという試算もあるそうです。何か釈然としませんよね。
 一生懸命働いて税金を納めても、悪徳政治家が私腹を肥やし、無駄遣いをする。子供の教育費、住宅ローン、老後に備えて貯金もしなければならず、挙句の果てに相続税を持って行かれる。年老いて死期を迎えても高度医療のお蔭でチューブまみれにされて死ぬに死ねない。「後期高齢者の終末期医療において、死亡前医療費の平均額が3日間で500万円、1週間で1,000万円かかっていた」などというセンセーショナルな情報もネットに流れていたりします。これを我々の税金で賄われているとしたらぞっとします。
本当にデンマークがうらやましくなります。
 こんな国に誰がしたんでしょうかね?胸に手を当てて考えてみると、もちろん政治家が悪い、制度が悪い、のではありますがその政治家を選んだのは我々自身なので「天唾」でしょうか?

 少し話を整理すると、一つの問題は高齢者の介護/医療にどこまで税金を投入するかということだと思います。何をもって「人の死」とするか、幸せな終末期とはどういうことなのか、今一度考えた方が良いような気がします。それは、経済合理性もさることながら哲学的なテーマでもあります。看取る家族からすると一分一秒でも長く、そのためには金に糸目を付けず、というメンタリティーも充分理解するところですが、果たして自分が逆の立場であればどうだろうと考えてしまいます。回復する見込みがないのであれば延命治療は止めて欲しいと家内とは話し合ったりしています。人生の最後は病院ではなく、馴染みのある家具のある住み慣れた家で迎えたいと大抵の人は思っているのではないでしょうか。
 もう一つの問題は、医療や介護福祉のサービスに掛かるコストをだれが負担するのかです。デンマークの場合は全て国民の税金で賄われ、日本の場合は一部が税金、残りが自己負担です。その変わり日本はそこそこの値段で車が買えますが、デンマークはリッチな人しか車を買うことができないそうです。
 荒っぽく言えば、高負担高福祉の道か中低負担中低福祉の選択ということになるのでしょうか。しかし、上述の様に結果として(一部の)日本人もデンマーク並みの負担をしていることになっているので問題はさらに複雑です。
 高齢化社会先進国として、この問題にどう向き合うのか全世界が注目していると言っても過言ではないでしょう。我々の知恵の見せ所です。
 そうそう、最後になりましたが、3月12日の定例会は大阪大学中之島センターでの開催です。私も拙い話をさせて頂きますのでどうぞ足を運んで下さい。
 最後まで駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

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