Members Column メンバーズコラム

“ヘンな正論”撲滅運動

与那嶺学 (有限会社協働研究所)  Vol.7

与那嶺学

みなさん、KNS世話人のひとりの与那嶺と申します。
KNSではこの2月からメールマガジンを発行しています。
今回は私、与那嶺が担当させていただきます。
年度末のお忙しいひと時、少しお付き合いください。

私の仕事のひとつに、インキュベーション施設の運営・管理という仕事がありますが、
ときどき「(飲食業などの)創業の仕方を教えてほしい」という相談でお見えになる方がいます。

「どんな仕事で起業したいのですか?」と尋ねても、「まだ具体的ではない」とのこと。
「やってみたい仕事のことを、もっとご自身で調べてからまた来てください」といったところ、
「相談に乗るのがあんたの仕事だろうが」という反論にあったことがあります。
施設の業務の中には「相談業務」が含まれているので、確かに相談に対応することが
我々の仕事ではあります。ただし、こういう相談の多くの場合、人任せになってしまって、
実際に起業できる人はほぼいないと思われます。
したがって、このケースは我々にとっては「相談以前」の問題ということになります。

タイトルに掲げた「ヘンな正論」とは、たとえばこういうケースでの主張を指しています。
このような「ヘンな正論」はビジネス、プライベートに限らず、いまや日常的に散見できる時代になっています。

「ヘンな正論」について私なりに考えてみると、3つの視点が浮かび上がってきます。

一つは「権利主張型正論」です。先の例にあげたような「相談業務を看板に掲げている以上、
私の相談に(あなたは)応じる義務がある」という主張です。
我々と同じように、窓口対応の仕事をされている方には、同じような経験があると思います。

二つ目は「全体最適無視型正論」です。たとえば就業規則や労働法規の問題はあるにせよ、
組織全体が忙しかったり、納期があったりしても、平気で定時に帰る人がいるようです。
私はこうした実害にあったことは少ないですが、友人・知人を介してよく聞きます。

そして三つ目が「社会正義型正論」です。たとえばインフルエンザ騒動の際に、
感染した高校の校長が謝罪するとかそういうものです。
この場合、謝罪するよう圧力をかけている存在が「ヘンな正論」ということになります。
この「社会正義型正論」のなかには、「成果主義」のような議論もあります。
私は個人的には、この成果主義という考え方が嫌いで、早く世の中から無くなればいいと密かに思っています。
成果主義を振り回す人の頭のなかには、「成果が生まれる基盤をつくる」という考え方がほとんど見当たりません。
このような「基盤をつくる」ことは、ほとんど「雪かき作業」的なものになります。

私は公的な産業の振興の関係の仕事をしていますが、
たとえば、成果主義のなかには、「企業の売上額」、「新製品の開発件数」、「新規企業立地の件数」、
「企業間の取引件数」などがあります。
こうした指標による締め付けが強くなると、どういうことが起こるかといえば、
「指標をつくる」ことが組織目的になっていくことです(もちろん全てとはいいませんが)。
場合によっては、「いい企業を伸ばすことが重要」という主張が出てきたりするものの、
実際には「いい企業」に頼み込むように、支援実績をつくることもあるようです。

私は成果主義のすべてを否定するわけではありませんし、
いい企業を伸ばすことの必要性もある程度理解しているつもりなんですが、
それでもなんとなくザラっとした感触が残ります。

ほんとうに大事なことは、成果を出すことではなく、インフラ(基盤)をつくることだと思います。
ついでにいうと、成果は「出す」よりも「生まれる」ことのほうが遥かに多いようにも思います。
もし、この「雪かき作業」のようなことがつらいことではなく、
たとえばマージャン好きの人が徹夜でマージャンをするように楽しいことだったら、
世の中非常にハッピーになるような気がしています。

遊びながら楽しみながら、知らず知らずのうちに、重層的なネットワーク(インフラ)ができている、
実はKNSには、こうした効用もあることをぜひ知っていただけますとうれしい限りです。

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