Members Column メンバーズコラム

田舎に行こう!ー新潟県魚沼市に住んで思うことー
八木敏昭 (新潟大学) Vol.753
こんにちは。新潟大学の八木です。とはいっても新潟大学には週1回しか行っておらず、他の大学や専門学校に非常勤で教えていたり、委託研究を受けたり、いろいろなことをしています。2022年には、大学の先生方と「地域プラットフォームの論理:プレイス・ブランディングに向けて」を出版しました。AMAZONでは、「地域はいかにして持続的に発展できるのか。地域プラットフォームのあり方について、理論的整理とケース分析をもとにして明らかにし、その実像に迫る。内発的な発展をめざして、多様な取り組みを実施している各地域の姿を描き出し、新たな方向性を指し示す待望作」と紹介しています。この実践的なケースとして、KNSやINS、TMSなどについて記載しています。興味のある方は一度手に取ってみてください。
さて、私は新潟県魚沼市に住んでおり、昨今の米不足とは無関係…とはいい切れず、近くのスーパーでは備蓄米が販売されています。少し魚沼市について紹介しましょう。新潟県の南部に位置し、北、西、南は他の新潟県内の自治体、東は福島県と群馬県に接し、冬は3m以上の積雪にもなる豪雪地です。魚沼といえばお米(魚沼産コシヒカリ)が全国的に有名ですが、ユリの切り花も日本一です。これといった観光地はありませんが、尾瀬の新潟県側の玄関口です。群馬ルートと異なり宿泊が必要となるものの、ダム湖を遊覧船で渡る面白いルートもあります。魚沼市が抱える問題として、毎年人口が減り続け、2004年の平成の大合併時に約4万7千人いた市の人口が2025年現在では約3万2千人に減っており、一方、65歳以上の高齢化率が約27%から約40%に増えています。つまり典型的な過疎の地方小規模都市です。
ここで地方に住むものの切実な思いをお伝えしたいと思います。さて、都会と地方では何が最も違っているのでしょうか。それは“紐帯の数”ではないでしょうか。都会は人々、企業、社会インフラの繋がりだけでなく、文化、ライフスタイルの多様性によるインターラクションにより価値が創出され魅力的になります。地方では多様性、多結合性の脆弱さから、ローモデルも限られます。市外、県外にある大学に進学すると、視野が広がり、魅力的な都会に留まり、地元で起業・就職しません。では地方にいる人たちはどうすればよいのでしょうか。それは人たちの手で魅力ある地域にすることです。そうすることで、大学生の起業・就職先になり、地域外の多くの人々も、そこに行きたくなり、交流したくなり、移住したくなるのです。
それは一朝一夕にできるものではありません。以前、少子高齢化が進んだ集落の住民にインタビューをしました。「最近は近所の人との挨拶もしなくなってきた」と地域の繋がりも薄くなってきたと答えてくれました。その地域で、ある農業法人がしばらくの間、大学生を呼んだところ、大学生を媒介して住民間のコミュニケーションが蘇りました。未熟な大学生に農業を教えるという目標を共有化することにより、その達成手段としてコミュニケーションが自ずと発生したのでしょう。また大学生の指摘により、住民がその地域での自然、文化、人間関係などの貴重な資源があることに気が付いたのです。農業法人という地域プラットフォームに、大学生という「よそ者・若者・ばか者」が入ったことにより、その地域が少し活性化したのです。
地方の農村部・中山間地域の人間関係は、主に地縁・血縁です。そのため排他的となり、変化を嫌います。自治体の進める地方移住は、失敗しがちです。失敗しないためには、対象地域を分析し、その地域に合った施策をとる必要があります。全くよそ者を寄せ付けない地域には、学生などが地域コミュニティに参加し、住民の心を開かせることから始めなければなりません。そして次の段階として、地域のファン作りです。交流人口を増やす施策ともいえるでしょう。住民とファンの共通体験が絆を深めます。地域のビジョンを共有する専門家の存在も欠かせません。進むべき方向に後押ししくくれます。そしてここでようやく、ビジョンと経験を共有し、住民と一緒に地域の魅力づくり活動を進めるパートナーが役割を果たし始めます。地域おこし協力隊がそれを担うことが多いでしょう。しかしこの地域おこし協力隊も、自治体からは持ち出しが少ない臨時職員、地域の人からは人員不足の補充要員として扱われる場合も少なくなく、任期終了後の定住率も減りつつあります。つまり自治体の首長や地域のリーダーが明確なビジョンを持ち、現状を把握して、最も適当な人材を充て、住民全体でバックアップしていく必要があります。
最後に、皆さま、特に都会に住む皆さま、地方に出かけ、気に入った地域を見つけ、その地域のファンになってください。そして、その地域の人と一緒になって自身の持つリソースを専門家として活用していただければ、その地域が活性化し、都会の人も地方の人も、充実した人生のひとコマを紡ぐことができることと思います。