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SDGs時代に企業はどう取り組めばいいのか?

内海美保 (経済産業省 近畿経済産業局)  Vol.470

内海美保

2015年9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて、国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」が採択されてからすでに3年が経過した。日本政府はSDGs推進本部を設立し、SDGs実施方針及びアクションプランを策定している。また、2017年12月には関西においても、JICA関西、関西広域連合、近畿経済産業局を共同事務局として「関西SDGsプラットフォーム」が設立されるなど、我が国においてもSDGsの実現にむけた取り組みが着実に始まっている。SDGsの実現においては企業に大きな期待が寄せられており、近畿経済産業局が取り組むのも、今後の企業経営にも少なからず影響を与えるものであると考えているからである。こういった問題意識から、SDGs時代における企業の役割について、少しまじめに考えてみた。

SDGsが目指す未来は、貧困や格差に対して誰一人取り残さない社会である。その基本理念には、途上国の貧困や飢餓を撲滅するだけでなく、先進国の産業やイノベーション、インフラ、責任ある生産と消費、気候変動、海や陸の豊かさに対する行動目標が含まれており、先進国にも大きく関係するものである。先進国のこれまでの経済発展を見直し、経済格差や不平等を是正するとともに持続可能な成長を目指すという姿勢が前提とされているのである。
また策定経過においても3年の年月をかけて途上国、先進国を含むあらゆるステークホルダーの議論を踏まえており、企業、市民など民間セクターに対するコンサルテーションを経たため、SDGsの17の目標には企業を意識した内容が色濃く反映されている。
SDGsが策定され3年が経過し、ナブテスコ、富士フィルム、リコー、デュポン、住友化学など様々な分野のグローバル企業がそれぞれのE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の分野別にマテリアリティ(重要なCSR課題)を関連するSDGs項目に紐づけて開示をし、事業を通じたSDGs達成への貢献を表明している。それは、SDGsに「対応しないリスク」と「ビジネス機会の創出」の二つの側面を企業が認識しているからである。
リスクの側面とは、まずESG投資などステークホルダーからの要求があり、取り組まないことにより信用や評判の低下が起こりうる。さらに、各国政府のコミットメントにより新たな規制に結びつく可能性もあり、SDGsに取り組まない企業の製品の不買運動などビジネスがしにくくなるといった環境の変化にもつながっていくと考えられる。
次に、SDGsに取り組むことによるビジネス機会については、環境・社会・ガバナンス(ESG)の評価の高い企業ほど資本コストが低く、中期的、長期的に市場全体のパフォーマンスを上回る傾向があると報告されている。さらにSDGsに関連したビジネス領域では年間12兆ドルの新たな価値を生み、2030年までに3億8000万人の雇用を生み出すと試算されている。特に今後経済成長が見込まれるアフリカ諸国など発展途上国には大きな市場成長が期待されている。
では、SDGsをいかに自社の企業戦略に落とし込み、事業活動として取り組んでいけばいいのか。我が国の企業の歴史を振り返ってみると、多くの企業がその創業の精神や理念に「社会への貢献」や「社会との共存」という趣旨を含んでいる。東京商工リサーチがまとめた全国「老舗企業」調査によると、2017年に創業100年以上となる国内企業は3万3069社に達するということである。このことは多くの企業が社会に受け入れられ、社会に必要とされてきたということを意味する。我が国企業の多くは何らかの形で社会に貢献してきており、近江商人の「三方よし」の精神に顕著に表れているといえる。我が国ではSDGsが国連で採択される100年以上も前からすでにSDGsが意図することにすでに対処してきたのだ。そのことを明確に各社が意識をして、それぞれの企業価値に気づき、社会の繁栄と企業の発展は表裏一体であることを再認識すべきではないかと考える。そうすることによりSDGsを経営戦略に取り込み、すべてのステークホルダーの期待に応えていくことで継続的かつ安定的に企業価値を向上することができるのである。またその過程で、社会課題解決型の新たな製品やサービスの開発が促進されることにもつながる。これがSDGs時代における、企業の役割だと考えている。企業は投資家や株主だけでなく、競合他社、サプライヤー、顧客、従業員、消費者、地球環境、地域など全方位へ配慮をしながらそれを事業活動へ適合させていくことが求められているのである。

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