Members Column メンバーズコラム

いまこそONE TEAMに!!

田村孝 (株式会社冨士精機)  Vol.549

田村孝

日本中が興奮し、国民がONE TEAMになった【RWC2019日本】の招致活動は長い道のりでした。招致活動は2004年から始まりましたが、翌05年には2011年RWCにNZ選出が決まり改めてアジアでの開催の難しさを知ることになります。ここから早稲田OBの森さんが先頭に立ち本格的なロビー活動を展開してゆき、ついに2019年日本開催の選出にこぎつけました。森さんの功績が大きかったのは言うまでもありません。
2016年の春に森さんとお会いさせていただいた折に招致が決まった時の喜びのお話を聞かせていただきました。

ワールドカップの開催国は、世界のラグビー協会を統括する国際統括団体である「インターナショナルラグビーボード(IRB)」の理事会での投票で決まりますが、理事国が限定され、しかも協会の票数が平等でないという不公平な制度の中での招致活動となりました。

【各2票】:イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ
【各1票】:日本、カナダ、イタリア、アルゼンチン
【各1票】(大陸別の地域協会):アジア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニア
全部で26票あるうち、1国で2票を持つ伝統国(8国)が合計16票を持っています。つまり全部、伝統国の言う通りに決まってしまうわけです。初めての招致活動のプレゼンテーション後に行われた投票で日本とニュージーランドでの決選投票になりましたが、日本開催の大方の予想に反し、結果はNZ開催に決まりました。裏話として、ニュージーランドは何ケ国かに「もしニュージーランドに投票してくれたら来年オールブラックスがおたくの国に行きますよ」と約束していたとのことです。
1回オールブラックスが行くとホスト国には5億円ぐらいの収入が入るようです。森さんがカンカンになって怒って、「こんな不公平な投票の仕方はない。これでは世界のラグビーはいつまで経っても変わらない!」と言って、翌日、IRBのシド・ミラー会長に怒鳴り込んだそうです。直後のアジア理事会で招致がかなわなかったことを報告したところ、アジアの仲間たちから「ぜひもう一度、日本がリーダーになって招致をやってほしい」ということを言われ、次のラグビーワールドカップ(2015年大会、2019年大会)への招致をやることになりました。その後、IRBは2009年に15年イングランド19年日本という推薦案を出してきました。
立候補したのは日本とイングランドと南アフリカとイタリアの4か国。IRBは、ラグビーをオリンピックの参加種目に入れたいという構想もあり、ラグビーをオリンピックに入れるためには伝統国以外でもラグビーワールドカップが開催されるという実績がほしかったのです。そして2009年7月28日のIRB理事会で、ようやく2019年の日本招致が正式に決定しました。
“240日間の合宿”という驚異的な準備期間を乗り越え、鍛え上げられONA TEAMになった桜の戦士たちが繰り広げた数々のジャイアント・キラーに、それまでラグビーを知らなかった女性や子供たちまで巻き込み日本中がワンチームになりました。僕自身、横浜国際総合競技場での対スコットランドを観に行き、この試合に勝ってベスト8が決まった瞬間をライブで体験しましたが、スポーツにはこんなに凄い力があることを改めて痛感させられました。

2021年に入り、コロナ渦で昨年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックが延期になり世界中が武漢ウィルスに苦しむ中、大会組織委員会の森喜朗会長が世間の大バッシングを浴び辞任に追い込まれました。英・長靴のお笑い芸人T氏の聖火ランナー辞退や、東京都知事のIOC理事会欠席発言など、その様子は僕には集団リンチに見えました。

癌を患いながら人工透析治療を続けている森さんが、組織委員会の会長を請われた際に一つの条件を出したそうです。それは“無償”であること。組織委員会事務局がさすがにそれはできないと言うと、『では、委員会で働くアルバイト君の時間給と同額で結構。ただしその賃金は私に支払うのではなく、組織委員会でプールしておいてくれ』、が条件だったそうです。
官民ゴチャ交ぜの組織委員会、当初一体感が無くヨソヨソした空気感を嫌った森さんが一同を集め一緒に飯を食う場面を設定し、やっと一体感が生まれました。その際の食事代・場所代は、プールしていた賃金から賄われたのは言うまでもありません。組織委員会事務局にその時の集合写真が貼ってありますが、森会長を中心に一緒に飯食った若い男女全員が楽しそうに笑っています。
リオオリンピック・パラリンピック終了後に凱旋パレードをオリ・パラ選手合同でやる、と提案したのも森さんでした。過去にオリ・パラ合同のパレードの実績がなくオリンピック委員会は難色を示しましたが、『パラリンピックの選手だけでは人が集まらない。ぜひオリンピック選手と合同でやって欲しい』、と半ば強引に訴えたそうです。良い意味で力づくで決定する能力を備えることもトップには必要な要素でしょう。
スポーツには国民の一体感を生み出す不思議な力があることを森さんは承知していたのだと思います。

ずいぶん前から地上波のTV番組を観なくなりましたが、今唯一観ている番組が東京ビクトリーです。これは安住アナがMCを務める番組で、東京オリンピック・パラリンピック出場有望選手を迎えてのトーク番組。その中で印象に残っている選手が一人いました。男子110Mハードル代表候補の金井大旺選手。数年間破られることがなかった日本記録をライバルと交互に塗り替え、現在ハードル3強と呼ばれる内の一人です。お父様が歯科医として北海道函館市の「金井歯科」を営み、自らも医師を目指し、進学校のラ・サール高校を卒業。陸上で東京五輪を目指し、引退後に大学医学部に進学し歯科医を目指すという若者です。番組の中で、『東京五輪を最初で最後と決め、五輪終了後はキッパリと陸上をやめて歯科医になります!』、この潔いコメントが心に残りました。
柔道の野村選手や女子レスリングの伊調選手・吉田選手、体操の内村選手のように複数回出場する選手はごく稀なことで、殆どの選手は人生一度きりのチャンスだと思います。
前半の人生をかけて挑んでいる、と言っても決して過言ではないでしょう。
コロナ禍の中にあって、様々な意見があることは重々承知していますが、軽薄なマスコミが「東京五輪開催できると思いますか?」、など聞くことは言語道断。
「東京五輪開催のため、私たち国民は何をするべきでしょう?」、と問うて欲しいものです。
そう、彼らは人生をかけて挑んでいる訳ですから、軽々しく「中止もあり得ますかねぇ」などと言って欲しくないものです。
ましてや、大会責任者が会議を欠席することや著名人が大会開催の足を引っ張るような言動を発することは、人生をかけて挑んでいるアスリート達に失礼だと思います。
世界中が苦しむ中、この時期スポーツの祭典オリンピック・パラリンピックが開催できる国は世界広しといえ、日本しかできないと僕は思っています。
いまこそ国民全員がONE TEAMになって五輪開催にこぎつけたいものです。

製造業の零細企業社長を引き継いで30年を超えました。この間バブル崩壊、阪神淡路大震災、ITバブル崩壊、東日本大震災、リーマンショック等、多くの逆風が吹き荒れ、今は100年に一度の世界恐慌の渦中に在ります。わずか30年の間で、なんで俺らだけが何度も苦境に立たされんとあかんのや、と同世代の社長らと愚痴を言ったこともありましたが、男人生80年といわれる中で、100年に一度の大不況を体験できる経営者はそういません。
今はプラス思考に変え、この不況脱出を人生最後の仕事と捉え、後進に譲るための環境整備を成し遂げようと決意を新たにしています。
言いつつ、先ほど述べましがSNS上のほんの一握りの意見が、あたかも世論であるかのようにマスコミの世界を闊歩する現代の風潮に危惧を覚えています。
新聞・TV・マスコミの得意技、“発言の切り取り操作”で、自身の進むべき方向を見失わないようにしたいものです。

最後になりますが、僕は国語教科が好きな学生時代を送ってきましたが、今回の森さんの発言を見て、聞いて、この発言のどこが女性蔑視なのかわかりませんでした・・。

(森会長発言)
これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた(笑いが起きる)5人います。
女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまりいうと新聞に悪口かかれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります。私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます。みんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を得た、そういうのが集約されて非常にわれわれ役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。

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