Members Column メンバーズコラム

フランスも日本も。 ハンドメイドに注目の今

玉井恵里子 (株式会社タピエ)  Vol.379

玉井恵里子

ハンドメイド作品の魅力を伝える仕事を始め20年になりました。「インテリアデザインとものづくり」異なるようで共通点は沢山あると思います。人の営みに寄り添う存在は小さな道具から大きな空間まで、どちらも大切だと思うからです。自分の好きなヒトやモノや空間に囲まれて暮らす生活が人という生き物に幸福感を齎してくれると信じています。
京都に生まれ育ったわたしは血気盛んな若い頃、古い京都文化に息苦しさを感じて広い世界に憧れ続けました。
その転機は京都を飛び出し就職した「大阪」です。

当時、大阪には「好きなことなら何でもやってみたらいい」と大人たちが鷹揚に見守ってくれるような気風があり、おかげで伸び伸びと翼を広げ今日に辿りつけたような気がいたします。
月日が流れ独立し小さな会社を立ち上げて沢山の海外の国に出かけて素晴らしい住空間とデザイン、文化に触れて感性を磨く機械に恵まれました。毎年のように世界の最新トレンドを求めてずっと旅して来ましたが近年、急速に気持ちに変化が生まれて来ました。
それは「他所様から情報やモノを頂くだけではもう恥ずかしい。日本人として日本の魅力発信したい、いままで頂いた知識や恩恵に対してお返したい」と泉のように湧く気持ちです。
そこで、自分にできる小さなことから始めようと思い、新幹線の停まる町、全国でタピエのイベントを開催することを夢としてハンドメイド作家を紹介するイベントを企画しました。今年は熊本、博多、広島、金澤、静岡、群馬、仙台、札幌までどさ回りコツコツ横断中です。
かつてタピエが展覧会を開催させていただいた、小規模つくりて支援のインキュベーション施設フランス「アトリエドパリ」のフランソワ所長は頻繁に京都に来日されています。
こう語ってくださったお言葉が私を奮い立たせます。
「私が日本に来ることは周りからジェラシーされるほど魅力に満ちているのですよ。私から見ると日本人はフランスに憧れが強いけれど?」
前置きが長くなりましたが、そんなわけで私は今頃目覚めて、日本に夢中になりつつあります。
日本のまだ見ぬ地域に夢中です。何処に旅しても目から鱗がとれたように良いところが発見できるようになりました。
先日は仙台滞在中にかねてより気になっていた「安比塗漆器工房」に訪れることができました。
岩手県盛岡駅に降り立ち車で小一時間。
八幡平市の職員で岩手県大学の共同研究員/三陸復興地域創生推進機構に所属される佐々木靖人さんの運転で案内頂きました。
工房に行く道すがら近所の人気店「豆腐屋ふうせつ花」さんの豆腐を買い求めました。
安比塗の器に盛り付けて、その後に試食会を。
美味しいお豆腐を食べながら、漆器の良さについて歓談するひと時を楽しみました。
こちらの工房の運営は日本全国から漆芸を志す若手が集い、ここで技術を習得しながら生業を目指していらっしゃいます。現在女性ばかり3名のメンバー、新たに編成し本格的に組合としてスタートされたばかりです。
自然豊かな風土の中で子育てをしながら好きな土地に根ざし「ものつくりで生きて行く」夢の実現にエールを送りたくなります。
所長の工藤さんは実は奈良出身です。岩手に来られたのは「漆に魅せられものづくりで生業をできる暮らしをしたかった」
生業にしていく道は容易ではなく、つくったものをお客様買っていただかなければ成り立ちません。
安比塗りの良さのひとつは飾り気のないシンプルさと丈夫な使い心地でしょう。
器は毎日口にするものだから。我々が暮らしの道具にもっと愛着が持てるよう、つくりての人の顔がみえるものをすすんでチョイスしていくことから始めることがつくりてを応援することにつながります。
「つくりて」だけでなく「つかうひと」も、幸せな関係性を築いてその喜びを伝達することこそ「伝統工芸技術継承の課題」に大切なことではないでしょうか?
伝統を守ろうとするとどうしても硬くなります。義務では決してひとの心は魅了できません。
世の中が豊かになるにつれ、厳しい仕事や採算が成り立たないことから伝統工芸も手工芸も
従事者人口の減少は進み、今では日本だけでなく世界中の大きな問題です。
工房を見ていて、柔らかな女性たちの感性が新しい時代をしなやかに切り開いていってくれそうだと希望が湧きました。
写真は工藤さん、豊原さん、22歳の研修生佐々木さんです。
ふと思います。今、大量生産品に飽き足らなくなったひとびとの間でハンドメイドのアクセサリーや雑貨は今、国内外でとても人気です。タピエスタイルのお店にも多くの海外旅行客がハンドメイドを求めて訪れてくださいます。
一方で「買いたい人」を上回るほど「作りたい人」も増えています。このムーブメントを見つめて今20年ですが、伝統工芸品の定義は100年続いていること。
あえて批判を恐れずに述べればあと60 – 80年経てばここから新たに「伝統工芸品」がきっと生まれて来るはずと。
例えば伝統の「こけし」も「かわいい」の原点ではないでしょうか。
伝統から垣根をちょっと外して柔らかに見ることができたならば見えて来ることも沢山あると思います。大事なのは良いものを世から無くさないことなのですから。
最後に雨の降り始めた祇園の石畳ですれ違った「蛇の目傘の舞妓さん」と、今年の夏収穫した「トマトを持った父の手」の写真を紹介します。二枚とも「赤」がひとの心を踊らせてくれます。「伝統に磨き上げられた美」と「自然界の美」の対比をご覧ください。
ここにも「つくる」というキーワードが存在します。
人間の「つくる」エネルギー情熱は本当に素晴らしい。その力が宇宙船も飛ばしロボットも人工知能も生み出します。
こんな風にワクワクする気持ちをいつまでも失わず21世紀を生きていきたいと思います。

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