Members Column メンバーズコラム
「Kawaii et cetera」 パリ市「アトリエ・ド・パリ」から発信 報告
玉井恵里子 (株式会社タピエ) Vol.202
ウインドウを見て立ち止まり指差す人、
腰をかがめてディスプレイを覗き込み、話しこんでいるカップル、
通りがかりの人々が好奇心を抱き、次々にドアをあけ「Kawaii et cetera」と大きく描かれたカラフルな「のれん」をくぐってギャラリーに入って来てくれる。
作品を見入る人には笑顔がうかんでいる。
そんなパリの人々のリアルな反応を実際に目にした瞬間、思わず興奮し目頭は「じーん」となり胸が熱くなりました。
「かわいい」はきっと世界共通になると確信した、2014年1月26日~2月1日まで8日間に渡り開催された「Kawaii et cetera」展示会の幕開けの光景でした。
ここはパリ市の中心部バスティーユの大通りに面する「アトリエ・ド・パリ」の6階建てビルの1階のギャラリー。
「アトリエ・ド・パリ」とはいわゆる「ハイアート(高尚芸術)」ではなく、生活に身近に役立つ「ものづくり」に携わるクリエーターを支援、教育するため近年設立されたパリ市のインキュベーション施設です。
フランス全土でもこのような施設はここ唯一とのこと。
そのアトリエ・ド・パリ主催のもと、日本から14組のクリエーターを一堂に紹介する「Kawaii et cetera」展示会の開催を目的に、渡仏しました。
弊社タピエは、日本での企画草案に始まり、作家キュレーション、カタログ準備、現地会場の会場構成・運営まで総合ディレクションの仕事を担当させて頂きました。
ここまで実現に至るまでの道程は、3年前に遡ります。
2011年「大阪市パリ市人材交流事業」が発足しました。これは、大阪市から選出されたデザイナー1名がパリ市の「アトリエ・ド・パリ」でデザイン活動を行い、パリ市から選ばれたデザイナー1名は、大阪市の「大阪デザインセンター」で同様にデザイン活動を行う、という公募企画でした。
弊社のスタッフで語学堪能な石山暁が応募して見事選ばれることが出来ました。当時の企画は「KAWAIIを世界発信する」でした。
美術,デザイン大学や専門学校が数多く存在する関西、大阪。
芸術的才能を資源として文化力、観光資源としてもっと生かせないだろうか?
取り分けても、関西人特有の大らかな気質に、伸び伸びと育まれた感性「カワイイ」に着目し、日本文化のひとつとして優れた「カワイイ プロダクト」を集め展覧会で紹介しパリから世界発信したい。
そう願い、石山暁が4ヶ月半の間「アトリエ・ド・パリ」に滞在し学びながら、2012年1月に関西の9組のクリエーターを紹介する「Kawaii Zakka」展覧会を、パリ市内マレ地区にあるパリ市関連機関のギャラリーで開催しました。
この展覧会はフランスの新聞「Le Monde」でも記事に取り上げられるほど注目され、パリ市デザイン担当副市長からも「日本文化の新たな一面を知り得た興味深い展覧会」と評価頂きました。
残念なことに「大阪市パリ市人材交流事業」は、大阪市の政策方針により続行されず1回で終了することが決まっていました。
「せっかく多くの方に尽力いただき築けたパリとの関係をつづけていけないだろうか?」と「アトリエ・ド・パリ」のフランソワ=サンス所長のもとに相談に行きました。
「今度はパリ市が力になりましょう。もう一度あなたがたが展覧会を開催出来るようにパリ市に予算を申請してみます。」そう力強く励ましてくださる所長は、工芸雑誌の編集長など豊かな経験と見識眼を認められ、パリ市から指名を受けて所長に就任された人物です。
それから2年間、パリを訪れる度に「アトリエ・ド・パリ」を訪問し、無数のメールとスカイプでの打ち合わせを繰り返してきました。
前回はパリに滞在しながらの展覧会準備、今回はすべて日本で準備をして臨まなければいけませんでした。手探りのことも多い、図面と英文メールでのやりとり,調査,予算調整、出展者との連絡など準備にスタッフと要した時間は予測していた400時間を優に超えました。
今回は、クリエーターは関西だけではなく全国から募集しました。
募集に際しては雑誌「SAVVY」と「装苑」が協力下さり、フランス側でも厳正な審査を受けて14組のクリエーターが選ばれました。
フランスでの審査合格基準は、結果を見ると「クオリティーは高いか」「フランスに類似したものがないか」「日本らしさと同時に新しさを感じるか」にポイントが絞られていました。
前回の展覧会で得た経験をもとに出展者の情報と展示会コンセプトをフランス語に訳したカタログ(タブロイド版)を入稿、フランスで印刷1000部準備しました。前回渡仏時の営業経験からフランス人バイヤーは「プレゼンテーションの第一印象、美しさを最も重視する」事が身に染みて分かりました。前回はファッション展示会「Premiere Classe」の企画者にも会い、ポートフォリオを見ていただいた時に受けた厳しいアドバイスをもとに、今回のカタログではグラフィックデザインから写真まで出来るだけ演出にもこだわりました。
展示作品は、いずれもハンドメイドもしくは少量ロットで生産されたプロダクト、一般の人が購入できるもの、人が生活で実際に使用可能なもの。今回選抜されたのはファッション、アクセサリー、文具、バック、人形、キャンドル、インテリアに使用する屏風などでした。
次にどんな作家が出展したのか?一部紹介いたします。
どうして「ものづくり」を始めたか?作り手にインタビューをしてみると実に多彩、モノだけでなくヒトに一層興味が深まると思います。
1)「fujii +fushikino」のユニット。モスリン生地の名前の由来はアラビア人がモセリニ(mosselini)の名で輸出し、フランスでモスリン(mousseline)になりました。日本ではモスリンと言えばウール生地で、本モスリン、メリンス、唐ちりめんと呼ばれます。日本には幕末、明治初期に伝わり、主に着物・帯・長襦袢に用いられました。着物の衰退で廃れ、現在生産は浜松に一社のみです。羊毛なら弾力となめらかさに富むモスリンはシルクのようにドレープ性があり身体になじみ暖かく蒸れにくい。発色性に優れている。この生地を日本から絶やしたくないという想いから2008年に活動を始めました。染織家の藤井良子さんの手法はモスリンの4メートルの反物を伸子で張り、刷毛で一気に書道のように「色彩」を描いていきます。2枚として同じものが生まれないこの反物を、伏木野芳さんが縫製、デザインを担当しさまざまな立体の服に仕立てています。
2)今回の展示会で唯一企業出展頂いた「CHECK & STRIPE」
神戸発信で生地,手芸小物の店舗を展開されています?社長の在田佳代子さんは「メイドインジャパン」にこだわりをもっています。
日本の生地の生産は輸入品とのコスト競争で厳しい状況にありますが?兵庫県にはまだ頑張っている古い工場が存在していることを知ってほしい。?一日にわずか30mしか織れない昔の「力職機」?今では殆ど残っていないそうですが、ゆっくりと時間をかけて織ることで繊維が空気を沢山含み肌に優しく暖かみがあり,非常に丈夫な生地を織ることが出来るといいます。大量生産では作り得ないものづくりの良さをフランスの人にも見てもらいたい、知ってもらいたい。
3)ジュエリーブランド「manic」
山形生まれ。大学時代から仙台在住。松田実希子さんの最初の職業は建築図面を書く仕事でしたが設計事務所やデザイン事務所で働くうちに「建築」では実現出来ない「構想から制作の全行程を自分ひとりで完成出来る仕事がやってみたい」と思うようになりました。
2003年から彫金を学び2006年からブランド「manic」をスタート。
今回の展示会ではフランスの人は価値が分かると高価な物でも購入し、日本人独自の繊細な仕事を高く評価してくれました。
松田さんのジュエリーで大切にしていること。
「立体的につくる」
「身につけた時に動きがある」
「かたちが変化する」
ユニセックスで世代も問わず国籍もそして時代も問わないつくりを探求し続けていきたい。
4)キャンドル作家・鈴木りえさんは、静岡生まれ京都暮らし13年。
京都外国語大学で学ぶ学生時代にアメリカ人の写真家の先生やオランダ人の画家の先生に接し、言語だけでなく「アート」や「ものづくり」を大切にする価値観に大きな影響を受けました。
キャンドル制作は鈴木さんの生家で食卓に良く灯されていた1本のキャンドルの「幸せの記憶」がきっかけ。
蜂の巣を熱湯で煮出すとキャンドルの素「ビーズワックス」になりますが旅したネパールで入手した「ビーズワックス」は全く違う色や香りその土地、土地により「蜂蜜」の味が異なるように、個性豊かな「ビーズワックス」が採取出来ることを知りました。
最近、故郷の富士山の裾野の養蜂場を訪ね「ビーズワックス」を求めました。石油系の材料は一切使わない、天然材料からつくるキャンドルの炎は柔らかく、燃焼もゆっくりで煤も出にくく心癒される効果が大きいから。
「ものづくり」で自活する、大変さもありますがキャンドルのように芯さえしっかりしていれば生涯続けていける仕事だと思います。
この展示会を実施を通じ考えるべきこと。
「Kawaii」は人々の「暮らし」にどれだけ寄与できるでしょうか?
日本では震災後の傷跡の深さや原発事故の人の手に余る多大な問題、未来の不安を抱え、多くの方々と同じように作り手の価値観も揺れています。この状況の中で「人間の本当の幸福感」とは何かを問いつつ、作り手たちは、よりクリエイティブな思考で人々の想いに応えるモノをめざし日々活発に制作しています。
それらは「人と人とを直接つなぐコミニケーションツール」になる力を秘めています。
それは「Kawaii」は、高尚な芸術でなく子供からシニアまで手軽によいものに触れられるからです。
世界で注目され始める一方、日本で「カワイイ」は未だサブカルチャーの域を超えず、特に芸術の世界では、「カワイイ」という表現は軽んじられる風潮も多いのでは?
日本の文化は、言語よりも「気配」や「間」など、言葉の存在しない感性が大きな割合を占めます。慈しみ・愛らしさ・あどけなさ・不器用さ…など、「不完全なもの」に対する親近感から生まれる、言葉では表現しきれない多様な感情。
日本の女の子たちは、「カワイイ」というシンプルな一言に内包し、その絶対的主観を他者と共有しています。それは学術的な分析をすればするほど減退していくような、心の奥底から湧き起こる非常に純粋な感動です。
いまあらためて一人一人が自分にとってのカワイイとは何か?「Kawaii et cetera」に想いを馳せたり、論議の場を設けて頂くきっかけにして頂けたらと思います。
最後に今回の展覧会を実現させて頂いたパリ市とアトリエ・ド・パリの寛大さ。
応援し見守って頂いて来た日本の関係者の皆様に心より敬意と感謝を申し上げたいと思います。
今後もライフワークのひとつとして「Kawaii」の旅は続けていくことになりそうです。
日仏語作家紹介ページ
https://paristapie.wordpress.com/exhibitor/
フランス語カタログページ
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