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伝統こけしの話

竹村 育貴 (株式会社カルティブ)  Vol.718

私の趣味の一つに、伝統こけしの収集があります。自宅を購入した2015年頃から収集を始め、現在は400本以上の東北各地の伝統こけしを持っています。伝統こけしを集めるきっかけは、妻の田山和泉が伝統こけしの「工人(こうじん)」だったことです。今回は、伝統こけしの世界を皆さんにご紹介したいと思います。

「こけし」は、ろくろ挽きの技術を用いて作られる、伝統的な日本の木製人形です。これを制作する職人は「工人(こうじん)」と呼ばれます。東北地方には、地域の文化を反映した11種類の異なるこけし伝統の型が存在します。この型のこけしは「伝統こけし」と呼ばれています。現在、東北地方には各地に熟練した伝統的なこけし職人がおり、ユニークなこけしを製作しています。岩手県には「南部系」の伝統こけしがあります。その産地は盛岡、花巻を中心としています。南部系こけしの歴史の一つは、藩政時代に南部藩のお抱え木工師だった安保家から続く系譜にあります。

妻の家業は、この安保家の伝統型を受け継ぐ盛岡の老舗工房「五葉社」で、伝統こけしの他、チャグチャグ馬コや独楽など木工玩具を作っています。2024年2月に先代である父が亡くなり、現在は妻が四代目としてこけし作りを続けています。伝統のこけしに加えて、現代的なデザインにアレンジされた「創作こけし」にも取り組んでいます。そんな妻も、高校生の頃から父の元でこけし作りを学び、気づけば工人としてのキャリアも25年を超えたとのこと。長く伝統のこけしを作り続けてほしいものです。

私の父も筆書きの看板職人ですが、同じ職人技と言えども、看板業界はパソコンや機械にビジネスの主体が変化してしまい、現在は筆書きの看板屋さんも少なくなっています。特にも、伝統こけしは伝統工芸であることから、続けることが何よりも大切です。そんなこけしの世界を知るためにこけしを集めたのが、私の趣味のスタートでした。

「こけし」という名前の由来はご存知でしょうか? 実は、「こけし」は比較的新しい名称で、昭和の初期に工人や研究家が議論して決めた統一したものだそうです。東北各地の方言が異なるように、例えば「こげすぃ」「木ボッコ」のように、こけしの呼び名も土地ごとに異なっていたそうです。

伝統こけしは、東北各地に11種類の異なるこけし伝統の型があると紹介しましたが、福島の「土湯こけし」、宮城の「鳴子こけし」「作並こけし」「遠刈田こけし」「弥治郎こけし」、山形の「肘折こけし」「山形こけし」「蔵王こけし」、秋田の「木地山こけし」、青森の「津軽こけし」、そして岩手の「南部系こけし」があります。

こけしの魅力は、その系統ごとの形と描彩、職人の個性が表れる表情だと言われています。木で作られた素材感やぬくもりも、人気の理由かもしれません。南部系こけしの材料は、ミズキやイタヤカエデなど広葉樹を使っており、すべてのこけしに岩手県産広葉樹を使用しています。ミズキやイタヤカエデなどの程よい硬さが、「バイト」と呼ばれる刃物でこけしの形を削り出すことに適しています。この木材を削る工程を「木地挽き(きじひき)」と呼び、同心円の形状であれば自由に削り出すことができます。「木地挽き」と「絵付け」の両方の技術が合わさることで、伝統こけしは作られています。工人になるには、師匠の系統を学び、「木地挽き」と「絵付け」の両方ができることで、そのキャリアをスタートすることができます。

それぞれの伝統こけしには、更にいくつかのこけしや型があります。南部系では、「キナキナ坊」がメインですが、「もりかこけし」や、今は途絶えてしまった「坂下こけし」「永吉こけし」「覚平こけし」もあります。物故作家のこけしはオークションにもたまに出るのですが、ついつい買ってしまいます。同じ南部系として途絶えた型の復刻を依頼されることもあるため、こけし自体が生きた教科書になります。これも古いこけしを買う理由です。

現存する最古のこけしは、江戸時代後期と言われています。江戸時代後期には、伝統こけしの系統はなかったと言われます。また、工人の銘(作者名)を入れることもなかったようです。

皆さんは、スタジオ・ジブリの「かぐや姫の物語」(高畑勲監督作品)をご覧になったことはあるでしょうか? あの作品には、「木地師」が出てきます。よい木を求めて各地を周り、ろくろ(轆轤)と刃物を使って、椀物やお盆を作っておりました。こけし工人は、この「木地師」の分類に入ります。木地師の歴史は1000年以上前から続くと言われています。しかし、最古のこけしが江戸時代後期というと、不思議に思えてきます。

妻に聞くと、子供用のおもちゃとして作られたのが、こけしの始まりとも言われていて、古くなったこけしは「燃料」として薪になったのではないかとのこと。確かにありそうな話です。

近年、こけしの購入は控えている一方で、家屋の整理で処分に困ったこけしを引き取っています。こけしは、昭和初期、高度経済成長期、2010年頃から何度かブームが来ています。旅の思い出やコレクションとして、こけしが飾られていたご家庭も多いのではないでしょうか。こけしは人形であるため、そのまま処分するには忍びない方も多いようで、相談をいただく機会があるといったところです。

この集めたこけしはどうするか? 一つの夢ですが、岩手県にこけし資料館をつくりたいと思っています。東北6県の中で、こけしの資料館が唯一ないのは岩手県です。岩手県のこけし工人は残り2、3人となっています。自分たちの子どもが継ぐかは分かりませんが、伝統工芸の系譜を残し伝えていくには、そんな場も必要ではないかと思っています。

伝統こけしは、なかなかマニアックな世界ですが、岩手県盛岡市にお越しの際は、ぜひ工房とこけしを見に遊びにいらしてください。

<伝統こけし工人(南部系) 田山和泉>

https://www.instagram.com/tayamaizumi/

<もりおかこけしの五葉社>

https://www.instagram.com/moriokakokeshi54048/

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