Members Column メンバーズコラム
奈良の春を告げる「若草山焼き行事」
竹田博康 (奈良県) Vol.629
皆さま、あけましておめでとうございます。
毎日寒い日が続いていますね。
私ごとですが、正月明けからヘルニアになり、靴下をはくこと、トイレに行くこと、さらにはお風呂に入ることすらも悪戦苦闘する日々が続いておりましたが、最近漸く痛みも和らいできたように感じているところです。
正月前から急に寒くなり、50代も終盤戦にかかる加齢にはなかなか勝てないものだと実感しつつ、若草山焼き行事の本番で総指揮を務めることになっておりますので、充分に自分の身体をケアして、万全の態勢で臨みたいと考えている次第です。
皆さまも、とても寒い時期ですので、お身体には充分に留意ください。
その若草山焼きが今週土曜日、1月28日に迫ってまいりました。
奈良では、若草山焼きが終わると春がやってくるとよくいわれますが、若草山焼きの起源は、若草山頂にある鶯塚古墳に葬られている霊魂を鎮めるための祭礼や供養であるといわれています。
その昔、「鶯塚古墳から幽霊が出て恐がらせるが山を焼くと幽霊が出なくなる」、「1月ごろまでに山を焼かないと望ましくないことがおこる」などの迷信が長く続きました。こうしたことから、若草山を通る人が勝手に火をつけるようになり、東大寺境内など社寺にも火が迫る事態が再三ありました。このため、江戸時代の終わりごろから若草山に隣接する東大寺、興福寺と奈良奉行所が立ち会って、若草山を焼くようになったといわれています。
さて、昨年、一昨年は、コロナウイルス感染拡大防止の観点から、聖火行列や花火の縮小、若草山麓への来場者の入場制限など対策を充分にとり、若草山焼き行事を継続開催してまいりました。今年は、コロナ対策に充分に配慮しつつ、聖火行列などの催事や花火のほか、催事をより盛り上げる音楽イベント、鹿せんべい飛ばし大会なども完全復活させ、皆様にゆっくり観覧していただけるよう制限を設けず3年ぶりに通常通りの開催をさせていただくことになりました。漸く皆さんに満足いただける環境が整ってきたこと、大変嬉しく思っております。
ここで、若草山焼き行事の一連の流れと見所などについて紹介させていただきます。
春日大社の飛火野において、若草山焼き当日の13時から18時まで大とんどが執り行われ、正月に春日大社に持ち込まれた古いお札などを焚き上げ、一年の無病息災をお祈りしています。
若草山焼きでは、この大とんどから御神火をもらい受け、若草山焼き行事が始まります。
春日大社の御神火が金峯山寺の法螺衆に先導され、春日大社、興福寺、東大寺の三社寺と奈良奉行所の役人など総勢40名による厳粛な時代行列となる「聖火行列」によって運ばれる様子は見応え充分です。
昨年からは、聖火行列を理解し継続させるため、奈良県職員や奈良女子大学付属中等教育学校の生徒などが金峯山寺の僧侶の方々に師事し、夏休み頃から法螺貝の練習をした上で法螺衆として参画しています。最初は法螺貝の持ち方から始まり、音の出し方など地道に練習を重ねて本番に臨んでいます。
また、この聖火のお松明、実は奈良県奈良公園事務所の職員が製作しています。若草山焼き行事の運営が寧楽有志の手から奈良県に移ったおよそ100年前から製作技術の伝統が事務所職員により連綿と伝統として継承されています。お松明の製作は例年10月頃から始まり、一つ一つ手順を踏んで、本番で使用していますが、裏方で行事を支える人がいることをご承知おきいただければ幸甚に存じます。
話を戻しますが、御神火は若草山麓にある野上神社でかがり火に点火され、若草山焼き行事の無事をお祈りする祭礼が執り行われます。続いて、法楽として興福寺、東大寺、金峯山寺の僧侶による読経の中、法螺衆の先導のもと聖火を山麓中央の大かがり火まで運び、点火します。
陽も沈み、いよいよクライマックスの花火の点火の時間です。合図により、若草山一重目山頂から15分間に600発の大花火を打ち上げます。この時期の花火は、澄み切った冬の寒い夜空を鮮やかな光と色で染めてくれます。
これが、若草山焼きの豪華な号砲となり、花火終了後に、合図とともに普段は火消し役の消防団総勢約300人の方が若草山に一斉に火をつけ、山の上へ上へと上がっていく後を追うように消火隊となる奈良県奈良公園事務所職員など精鋭が、焼け上がると同時に背負ったポンプの水で火消しをしていきます。
若草山に上がる大花火や若草山の燃え上がる姿はダイナミックで、今年は若草山麓で多くの方と行事を共にして、祈りを捧げることができると思うと今から緊張感が高まります。
若草山焼き行事の当日は、若草山麓まで是非お出かけください。山麓の特設ステージで16時よりピアノ、ヴァイオリン、和太鼓などの奉納演奏で皆様のお越しをお待ちしております。
追伸、コロナ禍で行動の制約から遠方の方が奈良への来訪しにくい環境であることに鑑み、自分で奈良公園を含む奈良をSNS(facebook、Instagram、twitter)で「#奈良公園のことなら竹田さん」を入れて発信し、本日1月25日で、連続投稿540日となりました。これからも発信を継続しますので、こちらでもお付き合いくださいませ。