Members Column メンバーズコラム

課題解決型産業の若き起業家たち

志賀英晃 (経済産業省近畿経済産業局)  Vol.131

志賀英晃

 経済産業省近畿経済産業局の志賀です。
 経済産業省では6月に「経済社会ビジョン」を取りまとめ、今後の成長分
野の一つとして、日本社会が直面している課題を解決する産業=課題解決型
産業を上げています。従来この分野はコミュニティビジネス、企業のCSR
活動という視点で取り上げられがちでしたが、内需拡大の好循環を産みだす
成長分野として位置付けられています。

 当局では、近畿地域の課題解決型産業に取り組む企業、NPOをヒアリン
グしていますが、このコラムでは、その過程で私が出会い、印象に残った二
人の若い起業家を御紹介します。
 一人目は(株)旅のお手伝い楽楽代表取締役社長の佐野恵一さんです。楽
楽は、介護の必要な方とその御家族に気軽に旅行を楽しんでもらえるよう、
旅行全体の企画、介助スタッフの同行等のフルサポートを行う旅行サービス
を提供しています。『高齢者の「行けるところに」ではなく「行きたいとこ
ろに」』をモットーに、旅行先の事前調査と利用者へのヒアリングを徹底し、
その人にピッタリの旅を提供しています。
 平成16年、佐野さんが大学1年生の時に身体の不自由な祖母と行った家
族旅行で、家族での介助が大変で「誰かがほんの少し手を貸してくれるだけ
で、旅行がもっと楽しくなるのに」と思い、介助付き旅行サービスの事業化
を決意します。学生の起業であり、様々な苦労がありましたが、丁寧な旅行
プランニング、培ってきたノウハウが利用者の評判を呼び、現在では33名
のスタッフ、年間350件以上のサービスを提供しています。さらに、介助ノ
ウハウを体系立てて、大学のテキストとしてまとめ、そのテキストを教材と
して資格制度の普及を目指しています。
 佐野さんの思いは「誰もが気軽に外出できる社会を」です。「『バリアフ
リー』はハードのイメージだが、本当に大事なのはソフト、つまり人の手・
気持ち。周りの人がちょっと手を差しのべ、もっと多くの方が旅行できる社
会が訪れたら、楽楽は必要なくなるかもしれないが、それでいいと思ってい
る。」と佐野さんは言っています。
 二人目はNPO法人ノーベル代表理事の高亜希さんです。ノーベルは共済
型、地域密着型の病児保育サービスを提供しています。病児保育は風邪等
で保育園で預かってもらえない子どもを預かるサービスで、公的施設は極
めて少なく(大阪市内6施設)、働く女性にとっては待機児童と並ぶ大きな
課題です。ノーベルは、会員制で、保育士やベテランママを保育スタッフ
とし、当日朝8時までの依頼には100%対応を保証、子どもの自宅で保育
スタッフが預かるシステムです。現在会員160名、保育スタッフ15人、サ
ービスエリアは今年2月から大阪市内全域となり、また企業との連携も進
めるなど、価格設定や人材育成といった課題に向き合いつつも、事業を着
実に拡大しています。
 高さんは大学卒業後、社会人を経て海外留学。留学中に同僚、友達の女
性の多くが会社をやめていくことに疑問を感じ「女性が働き続けられる環
境を作る」と決意し帰国します。帰国後、病児保育のノウハウを学ぶため、
東京のNPOに勤務し、平成22年に関西初の共済型病児保育事業をスター
トさせました。
 高さんは「子供を産んでも働き続ける社会」を目指し、社会の価値観を
変えるアクションにも熱心です。メディアや講演を通じて現在の子育て支
援の現状を自ら発信するとともに、「働く!!おかん図鑑」を発行し、働
く女性が子供の病気を乗り切る様々なノウハウを提供しています。

 私が、佐野さん、高さんの話を聞いて印象に残ったのは、正解のない事
業上の様々な課題に正面から立ち向かうパワフルさ、ビジョンや事業内容
を話す時の二人の気負いのないさわやかさ、そしてなにより「こういう社
会を作りたい」という強い思いを持ち続けている一途さです。

 「どのような仕事をしているか。それが、我々の「働き甲斐」を定めて
いるのではない。その仕事の彼方に、何を見つめているか。それが我々の
「働き甲斐」を定めている。」
 若い二人の起業家と話していて、以前読んだこの言葉が思い出されました。

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