Members Column メンバーズコラム
最後には大きな話になりますが、2年間の変化をお伝えします。
瀬戸口恵美子 (公益財団法人 太平洋人材交流センター(PREX)) Vol.609
2020年2月の定例会「SDGsをものづくり」が延期されてから、あっという間の2年間でした。今日はこの間の出来事をお伝えしようと思います。
<研修と活動の転換について>
コロナ前のPREXは1年に20~30件の研修を軸に活動してきました。
研修とは、途上国の行政官や経営者が来日し、2~6週間ほどのプログラムを日本で受講するものです。
PREXはそのプログラムの準備から運営までを担い、職員は日々参加者と行動を共にし、いろいろな話をし、時には居酒屋で懇親会をし、毎年多くの参加者との絆を深めていました。
しかし、この2年間、最初の半年は本当に「すべて事業がなくなり」ました。
その後は遠隔研修という、オンデマンド(教材を提供して自分で学習する)とオンライン(Zoomなどでリアルタイムに参加してもらい、参加者間でのディスカッションや発表をする)を組み合わせた研修が実施できるようになりました。
これまで使ったこともないYouTubeやZoom、Teamsなどのツールを使い、集まれない環境での研修をいかに効果的にできるか、ということを手探りで少しずつ進めてきた感じです。
最初の半年間は、委託事業が全くなくなったため、その後オンラインやオンデマンドであっても、コロナ禍での学びの機会を止めずに提供できたことは、とても意味があったと思います。
その延長線上で、ダイバーシティについてオンラインで知る・共創する「e-toco(えーとこ)」を立ち上げ、「青年海外協力隊」「外国人技能実習生」「外国人留学生」をテーマに国内の関係者の話をライブ配信・YouTube公開しています。
またSDGsを身近に感じ、自分ごと化する場「上本町SDGs大学」はオンライン開催することで日本各地・海外からも登壇・参加いただけるようになりました。
このような、活動の「オンライン化」は他にもありますが、人が出会う、交わる、理解しあうという目的で、参加いただける機会を拡大できたことは、大きな転換点になりました。
これからは、「オンライン」×「リアルの交流」を、どうすればそれぞれの良いとこ取りができるか、がポイントになるだろうと思います。
ここでキーとなったのが、若い世代の活躍でした。実績や形にこだわらず、新しいツールや手段をさらっと取り入れ、まず楽しくやってみよう、という彼女たちの存在は本当に大きく、私も大いに刺激や気づきをもらいました。
<平和について>
今も毎日報道されている、ウクライナへの侵攻は、大きな衝撃でした。
少し大げさかもしれませんが、私が仕事をしている究極の目標・夢は「世界平和」です。
先進国と途上国の格差、紛争や差別をなくすためには、人材育成を通じて、それぞれの国や地域に住む人々が、よりよい成長のためにできることを自ら考え、そこに住む人々がその恩恵を享受できるように実践する、ということが大事です。
しかし、2月24日以降の出来事は、目標にはまだ程遠いという現実を、突き付けています。
ウクライナでは通常の行政やビジネスができる状況ではなくなり、多くの市民が住み慣れた家や職場から他国へ避難を余儀なくされています。
希望をもって学んだことも、それを実践するためには、為政者も含めすべての人々が平和を希求し続けることが不可欠です。
まだウクライナでは、国や人々の尊厳・権利・自由を守るため、その場に残り戦っている人が大勢いることを考えると、この戦争が一秒でも早く終結することを願うしかありません。
そしてウクライナだけでなく、同じようなことが起きている国があることを、忘れてはいけません。
私は大学でウルドゥー語を学んでいましたが、就職後それを使う機会はなく、ロシア、中央アジア、ウクライナなど「旧ソ連」圏の方々を対象にした研修を多く担当してきました。
25年以上前になりますが、出張でロシア極東を訪れた際、一晩だけシベリア鉄道で移動したことがあります。
全長9000km以上あるシベリア鉄道の10分の1程度に過ぎない距離でしたが、車窓からは広大なシベリアの大地が延々と続き、ロシアの大きさに圧倒されました。
そんな広大な国土に住むロシアの人々は、歴史的な経緯もあり、アジア系からヨーロッパ系まで多様性に富んでいて、厳しい自然環境だからこそ、自然とともに暮らす知恵を大事にしている、大陸的で愛情溢れる、そして「演歌的」な感覚を共有できる人々だという印象です。
しかし今、この国の市民は世界とのネットワークを絶たれ、情報を得る機会も、考えや権利を主張することすら制限されています。
世界の人々が自由に安全に往来し交流できる機会、お互いを「国・組織・宗教」などで括るのではなく、一人の人間同士で許容しあえる場は、とても重要だと実感しています。
「研修」は決して一方向の学びの場ではなく、その場を通じて参加する一人ひとりの背景を知り、認め合い、受け入れ合う場です。そういう機会を維持し続けることは、「世界平和」のためにも必要なのです。
<SDGsについて>
この2年間、「SDGs」という言葉をよく聞くようになりました。
SDGsが採択する前に掲げられていたMDGs(ミレニアム開発目標)との違いは、途上国に限らず先進国でも取り組むこと、また政府間だけでなく企業や市民も参加する目標だという点です。
私自身もコロナ禍や戦争報道を通じて、どの国においても環境・人権・健康、そして平和が何より大事であること、その上で初めて経済的・社会的な安定と発展につながるのだということを体感しました。
そんな中、個人でできることをしよう、と始めたことがあります。
まず、小さな循環のためのコンポスト。
(ローカルフードリサイクリングのコンポストです)
(1)「生ごみ」をコンポストに入れる
(2)コンポストで土にする
(3)その土を使って野菜を育てる
(4)その野菜を食べる
→捨てる部分はコンポストに(1)・・・とサイクルさせます。
今はキュウリとトマトを育てて、すでに収穫もできました。
「生ごみ」は捨てなければ「ゴミ」ではない、と実感できたのは大きかったです。
(1)の量がなくならない限り、永遠に土を作れるものの、ベランダでは畑のスペースが足りず、土が溜まっていくのはまだまだ廃棄部分が多いのと、マンション暮らしの課題です。
次に、できるだけ商品を購入する際には「倫理的」なものを選ぼうと考えるようになりました。エシカル消費と言われています。
「AFRIKA ROSE」「ヘラルボニー」「マザーハウス」「ZERO PC」「KAPOK KNOT」「Dari K」「坂ノ途中」など。
人権や平和、環境を意識したビジネスをしている企業を選ぶように心がけています。
吟味しなければいけませんが、背景の問題やストーリーも理解できます。
割高になるという価格面の課題はありますが、逆に安くできているものには、サプライチェーンのどこかに「ムリ」な理由があるのではないか?と考えるようになりました。
最後に、ご縁があり「国連ウィメン日本協会大阪」の理事をさせていただくことになりました。
国連ウィメン(UN Women)は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための活動を行っていますが、それを支援する組織です。
環境問題、紛争、経済格差などによる影響を一番に受けるのは、社会的弱者と言われる人々です。これは日本でも同様です。
ジェンダー問題は個人的にも関心が高かったのですが、更に理解を深めて、これまでつながりのなかった人々や組織との関係が生まれること、そしてジェンダー平等の課題から関われることは、自分にとっても大きな一歩だと思っています。
「どんな立場にある人も、幸せを実感でき、人生を健康に安全に全うできる世界をつくることに貢献したい」と再認識するための2年間を、50代の今経験できたことはラッキーでした。